世界で唯一の天職【配信者】と判明した僕は剣聖一家を追放される〜ジョブの固有スキルで視界を全世界に共有したら、世界中から探し求められてしまう〜第21話 ダンジョン配信(仮)
ダンジョンだ!
外と比べ薄暗く、先にあるものもはっきりしない。
探索の痕跡も少ない。
だが、入り口付近は松明により明かりが確保されている。
「さて」
ある程度時間が経ったタイミングで姫様を対象に視界を届けるため、スキルを発動。
「『マイ・ビジョン』!」
これでいいはずだけど……。どうだろう。
配信者としての力を使う。その使い道として、ダンジョンの様子を姫様に届けることにしてみたのだ。
国の重要人物がダンジョンのような危険な場所にノコノコと出ていくわけにはいかない。かといって、何も知らないのも困るらしい。
ということで決まったのだ。
実際には、これまで戦いの中で剣聖やフロニアさん相手に使ってきた方法の応用だ。
元々は、視界を届ける相手を限定しつつ、思ったような視界を与えないことで、戦力を削いでいた。
少なくとも、そんなふうになっていると思っている。
僕としては他人がどんなふうに見えているのかわからないから、細かいところまではわからないけど、イメージとしてはそんな感覚だ。
「大丈夫ですか? 見えてますか?」
僕が聞いている音も混ざるとのことで、声も届いているはずだけど、いかんせん僕のスキルは一方通行。
今のままじゃ反応がわからない。
少し不安になるけど、姫様にダンジョンまで来てもらうわけにはいかない。効果対象の位置はなんとなくだけど把握できているし、おそらく大丈夫。
「それじゃあ、探索していきますね?」
前回と違い、剣も使え道具もそろっている。
もちろん、何でもかんでもあるわけじゃないが、十分なものを持たせてもらった。
「おっ! 早速魔獣です。今回も人型の魔獣みたいですね。あ、今回もは僕の中だけですけど」
「グワオォ! グワア!」
前回のオオカミのような見た目をしていた人型の魔獣だった。
今回は。
「見た感じライオン人間という感じでしょうか」
「エオア!」
「え?」
「オアエッ! アエェ!」
何かをしゃべったっぽい?
「なんだか、話しかけているようにも聞こえるんです、けどっ!?」
友好的かと思って油断した。
鋭い爪の一撃で地面が大きくえぐれている。
すかさずかわして正解だった。
あのまままんまとハグとかしてたら、体ズタズタだった。
「って、ああ! 危ない! 危ない! それに、えっと、僕の視界が見えてると、色々と、困りません? 大丈夫ですか?」
反応がないからここでもわからないが、自分の視界が体の動きと関係なく、ぐわんぐわんと動いていたら気持ち悪くなりそうだ。
相手の攻撃が結構大振りだけど、かなり素早いせいで、僕も盛大に回避しているから、姫様が体調を崩していないか心配だ。
「もう少し動きを見せたいんですけど、セスティーナが心配なので、今回はここまでにしますね。テストということで、様子見は切り上げます」
確認を取ったということで、爪の一撃を剣で受け止める。
さすがに一度見た技をくらうことはない。
さて、ケリをつけよう。
僕は、ライオン人間のもう片方の腕が動くより早く、距離を取り、振り切ったタイミングを待つ。そして、できたスキを突く!
「はあっ!」
一撃。
できるだけキレイな状態がいいとのことでサクッとやったけど……。
「倒せた、かな?」
警戒しながら周囲を見回す。
ライオン人間の動きは止まっている。やられたフリとかではなさそうだ。
「少し鳴き声が独特なのが気になりましたが、多分翻弄のためかなと思います。情報があればまた別の理由があるかもしれませんが、今の僕にはわかりません」
それで、前回はそのまま倒れちゃったから忘れてたけど、剥ぎ取り、素材の回収。
と、いきたいところだけど、今回は調査目的。
そのものを知りたいらしいので。
「よいこらせっと。このまま持ち帰りますね。さすがにこれ以上の量をかついで持ち帰ると、城を汚してしまいそうなので、今回はここまでにしておきます」
思ったより重いな。僕より大きいから、ちょっと工夫しないとかつげないし。
困ったなぁ。
まあ、歩けば着くし、いっか。
さてと、このままじゃ姫様の生活に差し支える。
「戦闘と探索を切り上げるので、スキルもここまでにしますね。ありがとうございました!」
スキルを解除して、おそらく姫様の視界は戻った。
「ふぅ」
一息つく。
「いやぁ。緊張したなぁ」
今までスキルは戦闘相手の妨害に対してだけ使ってた。
初めてこのダンジョンで使った時から、妨害目的だった。
だけど、今回初めて人に見せる目的で使った。しかも相手は姫様だ。
まだ少し心臓がバクバクしてる。
「失礼がなかったらいいけど……」
やっぱり、見られていると思うと意識してしまう。
でも、戦っている最中は忘れちゃうし、意識できてなかった気がする。
変なこととかしてないといいな。
「やっと出られた!」
「キミ、ダンジョン探索者なの?」
「はい。えっと、一応……」
ダンジョンを出るなり女の子に話しかけられた。
うーん……。誰だろう。
「すごいね! 若いのに」
「あ、ありがとう……?」
薄いピンク色の髪を横でまとめた、桃色の瞳が印象的なかわいらしい少女だ。
どこか不思議な雰囲気で、街で見かけた人たちとは違う感じがする。
それに、こんな見た目なら、一度でも見ていたら覚えているはず。
となると、近くに住んでる子かな?
「どこかで会ったことあったかな?」
「ううん。会ってないと思う。でも、こんなところで会うなんて運命的じゃない?」
「そうかもね。でも、危ないからお家に帰ったほうがいいと思うよ? ダンジョンには危険な魔獣も住んでるから」
「フラータを心配してくれるの? ありがとう! すぐ帰るね。また会えるといいね」
「フラータって言うんだ。僕はリストーマ。それじゃ」
「ばいばい! リストーマくん!」
なんだったんだろう。
こんなところに何しに来たんだろう。
「って、いけない。帰るんだった」
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