スキル「火吹き芸」がしょぼいと言われサーカスをクビになった俺が、冒険者パーティ兼サーカス団にスカウトされた件〜今度は冒険者としてもスキルを使います〜最終話 決着

 ギガンテスを失ったモーケはその場で力が抜けたように尻もちをついた。

「さあ、もう打つ手はないはずだ。負けを認めるんだ」

「くっ」

 しかし、俺の言葉を聞いても、モーケは何か探しているように目を泳がせていた。

 すぐに負けも認められないとは、本当に俺の知っている団長はいなかったんだな。

「ええい!」

 何を思ったのか、奇声をあげながらモーケが手を伸ばしてきた。

 ただ手を伸ばしてきただけならまだしも、その指先にキラリと光るものが見えた。

 光るものは放射状に伸ばされ、一本一本相手していては誰かが犠牲になってしまう。

 しかし。

「『ファイアブレス』!」

 俺は横に広く炎を吐き出し、全ての糸を焼き尽くした。

 そう。一度に相手にできるなら、犠牲が出ることはない。

「何っ!」

「俺のブレスが一直線にしか吐けないと思ってもらっては困る。何をしようとしていたのかわからないが、何度やったって無意味だってことだ」

「くそう。くそう。ワシのサーカスをクビになった奴のくせに!」

 モーケはもう一度伸ばそうとしていた手を握りしめた。そして、何度も地面の殴りつけると、動かなくなった。

 やっと観念したのか。

 俺がそう思って近づくと、モーケはなめらかに姿勢を変えた。

 警戒して半歩下がったが、その必要はなかったようだ。

「ワシの負けだ。いや、負けです。許してください。出来心だったんです」

 モーケが姿勢を変えたのは、頭を下げるためだったらしい。

「ワシにも生活があります。立て直すためにはこれが正解だと思ったんです。どうか、ここは、ここだけは許してください」

 何を今さらと思い、スライムを見ると、首を勢いよく横に振っている。

 それはそうだ。ご主人をぞんざいに扱われたうえ、一度寝て起こしたことを出来心などと言われて許せるわけがないだろう。

 しかし、俺は息を吐き出した。

「それを俺に決めることはできない」

「何? ワシにスライム風情に頭を下げろと言うのか」

 今のってそうじゃないの。ってそれはさておき。

「はじめに言ってたじゃないか、勝敗を決めるのは観客をどれだけ盛り上げられたか。そして、それを決めるのは」

「カウンターね」

「ああ」

 俺はそこで、会場の真ん中で、何者にも傷つけられずに鎮座しているカウンターまで移動した。

「この、カウンターが全てを決めてくれる。そもそもこの街では評判が大事なんだろ? なら、このカウンターに出ているものが全てと言っても過言じゃないはずだ」

「よ、よせ。なあ、それで決めることはよさないか」

「何を言ってるんだ。言い出したのはあんたじゃないか」

 負けることがわかっているのか、モーケはヨタヨタしながら立ち上がり、ゾンビのように手を伸ばしてこちらへ近づいてきた。

 俺はそんなモーケを無視して、カウンターを手に取った。

「それでは結果発表をいたします!」

「やめろ!」

「より、観客を盛り上げられたのはニーゼサーカス団か、それともサーカス冒険団か! 一体どっちだ!」

「やめてくれ!」

「ニーゼサーカス団ゼロ! 対サーカス冒険団……百! よって! 俺たちの勝ちだ!」

「うおおおおお!」

「ギガンテスが出てきた時はどうなるかと思ったけど、やっぱりね」

「あんなの見せられたらなあ」

「ドーラ! かっこよかったぞー!」

「これからもブレスを見せてくれよー!」

 結果発表が終わると、嘘のように静かだった観客たちが急に湧きあがった。

 俺たちは声援に応えるべく観客席に手を振って頭を下げた。

「……ああ。おしまいだ。これでもうワシに先はない」

 後ろから聞こえる声を無視して俺はリルに手を引かれるまま前に出された。

「今日のMVPはお前だ」

「え?」

「しっかり感想を受け取りなさい」

「アリサの言う通り。ワタシなんてこんなの初めてだし。せっかくだからね」

「俺がセンパイだってことも、今日は忘れて盛り上がれ!」

「ドーラ。ありがと」

 全員に背中を押され、俺は叫びのような声をあげる観客席をぐるりと見渡した。

 これ全て俺たちに向けられているのだ。

 今までやってきた中で一番大きな反響だ。

「ありがとうございました!」

 俺は最後にもう一度観客席に向けて頭を下げた。

 サーカス冒険団全員で、ニーゼサーカス団と勝負してから数日後。

 ほんの数日しか経っていないと言うのに、ニーゼサーカス団の話はまるっきり聞かなくなった。

 今、モーケが何をしているのかわからない。

 噂によると、サーカス団員への扱いがバレたことで、まともな生活を送れていないと聞いたが本当かどうかわからない。

「ドーラ何してるの?」

 サンに言われ我に返り、俺は苦笑いを浮かべた。

 さて、なんて言おうか。

「ちょっとした練習」

 本当は何もしていなかったのだが、そうとは言えず誤魔化した。

「ドーラさんは熱心ですね」

 素直なカフアに褒められ、俺は頭をかいた。

「そんなことないよ。俺なんてまだまだだから」

 実際、今も何もしていなかったのだし。

「私の方がまだまだですよ。ドーラさんのブレスには学ぶことが多いです」

「俺だって、カフアの炎系魔法はすごいと思うよ」

 謙遜しがちなカフアに笑みを送り、俺は歩き出した。

 モーケが何をしているかは知らないが、ニーゼサーカス団のメンバーについては、一部だが今何をしているか知っている。

 いや、今実際に一緒にいる。

 サンやカフア、それに、ゴルドやユラーまで、サーカス冒険団に入団してきた。

「ドーラ。前はすまなかったな」

 ゴルドは会うたびに俺に謝ってくる。

「いいんですよ。リーダーにも色々あったんでしょうし」

「リーダーはよしてくれ。俺はそんなふうに呼ばれる筋合いはない。リルさんの懐の深さには俺も感謝している」

「それは俺もさ」

「アタシはドーラに恩があるから入れてもらったわけじゃないから。ゴルド様が行くって言うからついて来ただけだから」

 言葉とは裏腹に、団員へ気遣いが多いユラーに俺は吹き出してしまった。

「別に恩を感じる必要はないよ」

 一気にメンバーが増え、リルも嬉しそうだ。

 ヤングの先輩面やマイルの熱心さも変わらず、前とは違い無駄な緊張感がなかった。

 俺は二人にも手を振って、少し先まで駆けた。

「待った?」

「遅いよ」

「ごめんって」

 俺は手刀を切ってアリサに謝った。

 ギガンテスとの戦い以来、俺の力が他人と組み合わせることで強力になることがわかり、俺はあっちこっちで引っ張りだこになっていた。

 そのせいで、今となっては時間が取れず、アリサとの技の研究ができていなかった。

 そして今日は、とうとうアリサと練習できる日だった。

「すっかり人気者になっちゃって」

「それもこれも、アリサのおかげだよ」

「ううん。ドーラの実力だって」

 俺はアリサに感謝しながら、今日もまた練習へと向かった。

(了)

第31話


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