クラス転移でハズレスキルすら出なかった俺、山に捨てられる〜実はここまで俺を独占したい女神の計画通りらしく、スキルを超える『溺愛』の権能を与えられたので、悠々自適に暮らします!〜第10話 フェイラと食事と
「フェイラさんって信用していいの?」
河原は俺を連れ出して、聞いてきた。
やっと顔を見てくれて言ったことだった。
今までになく顔を赤くして真剣な表情で言ってくる。
まあ、俺は力をもらってるし指摘しづらいってことなんだろうな。
「フェイラ。な」
「うん」
きっつい視線でにらみつけながら言ってくる河原。
まあ、そうだよな。ごもっともってやつだ。
服装、容姿、言動。どれをとっても怪しさ満点。神様なんて言ってるやつは正直信じられないだろうな。
「確かに怪しい。怪しいけど、フェイラがいなけりゃ俺たちが死んでたのも事実だしな。その分は信用してもいいんじゃないか?」
「そこはわかるけど」
「そもそもさっきから様子が変じゃないか河原」
「別に、溝口を取られると思ってる訳じゃ……あれ? 違う! 今のは違う! 忘れて! 何言ってんのあたし!」
「おう」
めちゃくちゃ取り乱したように髪をかき乱している。
先ほどよりも赤くなってるし、下を向いてしまった。
自分で言っておいて動揺するって、どういうことだ? それに、俺が取られる?
「別に取られたりしないだろ。俺だぞ? 確かにフェイラは魅力的だし、俺を好きとか言ってるが、所詮自称神の戯れだろ? そもそも河原だってかわいいんだ」
「かわいい!?」
「ああ。だから大丈夫だろ。大槻のグループでも目立つ存在だったしな。それに、俺はそういうのよくわからないんだよ。フェイラだけひいきにすることはしないさ」
「ふ、ふーん? ま、そういうことにしてあげる」
そっぽ向いてる。何だかそっけない。
まあ、初めからそこまで仲がいいわけでもないしな。
少人数だといざこざの面倒さが増す気がするが、おいおいかな? 急いでも仕方ないし。
「ってことで、フェイラのことはもう少し様子を見ようぜ? どうやら俺の方に力が移ったらしいしな」
「わかった。溝口がそう言うなら」
「ありがとな。さて、あんまり長居すると怪しまれるし戻ろう」
「うん」
歩き出す俺の手元を見て河原は手を伸ばしたり引っ込めたりし出した。
いきなり猫の真似? いや違う。
「やっぱり何かついてるか? そういうのって女性の方が気づきやすいらしいからな」
「ちがっ。そういう訳じゃ」
「あっ! そうか。においか。体臭だな。それは申し訳ない。気づいてやれなくて。女性の方が鼻がいいんだよな」
「別に、臭くもないから。行くよ」
「そうなのか?」
女心を理解できず、俺は元来た道を歩き出した。
誰かを愛せるようにもなるらしいが、俺はまだまだ努力不足みたいだ。
「おーい! 二人ともどこに行ってたの? 急にいなくなっちゃうから心配したよ」
フェイラが手を振って俺たちを招いてくれる。
やっぱり悪意は感じない。
「あれ、なんか香ばしい匂いがしないか?」
「確かに、美味しそうな匂い」
「ほらほら、こっちこっち!」
やけに元気に招いてくる。
神ってのも案外楽しみがないのかもしれない。
そんなことよりどういう訳か、フェイラのすぐ近くには、先ほどまでは生だったはずの肉がこんがりと焼かれていた。
肉汁が滴り、火が通されているようだ。
「どうしたんだ、それ」
「へへーん。確かに権能じゃ食べ物は出せないけど、人の食べ物くらいは再現できるもん。わたし知ってるよ? お肉は火で焼くんでしょ?」
「でも、その火がないから困ってたんだけどな。どこから出したんだよ」
肉を焼いているすぐその下には焚き火のように火が起こされている。
ボロそうな木で支えられながら、何かの一部が焼かれている。
すぐ近くには、火起こしを散々失敗したらしい木の残骸がある。
「これ……」
「いやー。火起こしは難しいね。このマウンテンウインドウフルのバシィちゃんなんかが火を守ってくれてるけど、火を起こすまでは大変だったよ」
「一からやったの?」
「わたし、魔力もリュウヤに吸われちゃったから、今は基本的な魔法も使えないんだ。前は権能以外にも色々とできたんだよ?」
「魔法?」
「そう。魔力のある二人は練習すればできるようになるよ。ささ、そんなことより早く食べよ? これはヒトも食べられるお肉だからね。二人を待ってたんだよ。初めての食事、初めての食事!」
フェイラは楽しそうに今焼いているのとは別の肉がある方に腰を下ろした。
「自分で火を起こして焼いてくれたそうだ。少しはフェイラのこと、信じてもいいんじゃないか?」
「まずは、食べてからね」
素直じゃないが、むしろいいのかもしれない。
こうやって冷静なやつがいてくれると、少しは頭が冷えるというものだ。
「「いただきます!」」
「いただきます?」
「俺たちの国では食べる前に感謝してから食べるんだ」
「なるほど。いただきます!」
すでに焼かれた後の冷めた肉に盛大にかぶりつく、ああ、フォークとナイフが欲しい!
だが、何も食べてなかった空腹のせいか、少し硬くなった肉でも噛みちぎって食べ進めてしまう。。
「うまい! うまいけど」
「うん」
ああ、食べれないことはない。空腹にはいい。生き返る。
「味覚って、こんな感じなんだ。不思議な感じ。美味しいね!」
「美味しいな……」
嬉しそうに食べるフェイラと、バシィたち。
今は贅沢を言えない。でも、
「塩がほしい……」
「味がない」
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