世界で唯一の天職【配信者】と判明した僕は剣聖一家を追放される〜ジョブの固有スキルで視界を全世界に共有したら、世界中から探し求められてしまう〜第40話 付きまとうもの:神ノルキー視点
「来た。また同じダンジョンか」
「行く……。行くよ!」
「おい!」
リストーマがもぐっていたダンジョンまで来てみたが、やはり移動は困難だったな……。
結局、視界が元に戻ってからしかダンジョンまで移動できなかった。
視界の上書きをされている状態では、まっすぐ進むことさえできず、自分がどこにいるのかも把握できなくなる。
そのうえ、瞬間移動も場所が完全にランダムになってしまう。いや、肉体が一つの場所に移動するだけまだいいのかもしれない。
もしかしたら、私だからなんとかなった気がする。組み合わせて使われていたら、安全なはずの技すらも、命を奪えるものへ変わるのかもしれないわけか……。
「ここね」
「そうだな。一度来ているんだ。わかるだろう」
「それはそうだけど、どんだけ時間かかってるんだって話。それに、思い出して腹が立ってるの」
「なぜ……?」
「わかるでしょ!」
「前回は独り言に興奮して逃げ出していたというのに、どこに怒るところがあるんだ?」
「その前よその前!」
はて。
前々回にせよ、勝手に怒りをぶつけていただけだと思うのだが……。
まあ、悪魔の言い分だ。聞くに堪えないというものだろう。
しかし、探索が終わってからこそ、視界の上書きが終わった様子だったが、まだしばらくダンジョンにいるということか……?
「待て。何かいる」
「取るに足らな……。あれは……!」
悪魔はよく見えていないようだ。
片方はただの人間だが、もう片方は、魔王の娘じゃなかったか?
まさか、リストーマ。当然悪魔ではないが、反面神でもなく、魔王の庇護を受けている存在……?
いや、人間でありながらそんなことが可能か?
「あれは、フラータじゃない! どうしてこんなところにいるのかしら」
「知っているのか?」
「知ってるもなにも、そりゃ、悪魔ですから? 魔王の娘くらい知ってるわよ。でも、フラータは魔王の娘だけど、今の魔王に対して反感を持ってたはず。どうしてこんなところにいるのかしら」
「魔王の娘が魔王に対して反感を?」
「うーん。あ、そっかー! 最近まで生き物をよーく見てこなかった神様のノルキーちゃんにはわからないかぁ」
「どういう意味だ?」
「別にー? そのままの意味だけどー?」
ワタシはずっと目の前の悪魔に腹が立っているが、それはひとまずよしとしよう。
ワタシでもなんとなくだが、子が親に反抗するというのは知っている。勝手に人間だけの性質なのかと思っていたが、そうではないのか。
いや、詳しいことまでは知らないから、悔しいがわからない。だが、この悪魔が言えと言われて口にするとは思えない。
後で調べる必要がありそうだな。
なんにせよ、リストーマが魔王とつながっている線は消えたか。
「でもなにしてるんだろう。お散歩かな?」
「魔王の娘というのは、魔王に反感を抱いていながら散歩をするのか? 呑気な存在なんだな」
「ノルキーちゃんって魔王にも詳しくないの? 散歩したいから反感を抱いてるんだよ」
「は?」
さっきからよくわからないことばかりだが、外に出られない理由でもあるのか?
……わからん。
いやまあ、魔王に反感を抱いているから、リストーマと接触しているというのは納得できる。
この世界を見渡して、魔王の娘が接触できる中では、おそらく誰よりも魔王討伐の可能性が高いだろう。
魔王の娘の力量からすれば、いずれ魔王も倒せるだろうが、どれだけ先になるかわからない。仲間として引き入れるには有効な存在。
「なんだかちょっと先を越されちゃってるかなー」
「そうなのか?」
「本当に見る目がないよね、ノルキーちゃんって。それで力も出なくなっちゃうし、話せなくなっちゃうし」
「……」
魔王の娘がいる状況。しかも、悪魔が知っている存在のいる状況で出ていくのは得策じゃない。
もし仮に悪魔と魔王の娘だけでなく、リストーマまでが敵対してきたら、ワタシでもなす術なくやられかねない。
それに、先ほど逃げた影が戻ってきている。
「行くぞ」
「え、そっちは違くない? どうしたの? あ、ちょっ!」
気配としては取るに足らないが、遠隔から洗脳魔法でも撃たれては面倒だからな。
「なにをしているそこの人間!」
「は、はぁ? ちょっとした気晴らしだよ。どこから湧いて出やがったこのババアども」
「ば、ババア!? ねえノルキーちゃん。アタシたちババアって言われたよ!」
「言われたのは貴様だけだろう」
「んなわけねーだろ。お前もだババア! うるせえんだよババア! いいか? 話しかけんなよ」
「ほう?」
「威勢がいいねぇ? なに? この子。ぐちゃぐちゃになりたい感じ?」
「さあな?」
どうやらババアというのは悪魔にとって気に障る言葉だったらしい。
普段、気持ちの悪い笑みが張り付いている顔面が、めずらしくゆがみ、額に青筋まで浮かべている。
ワタシとしても、決して気分のいい言葉ではなかった。
「なんだよ。ババアをババアって言ってなにが悪いってんだよ。歳取ってんだからババアらしくおとなしくしてろよ。驚かせるなってんだ」
言葉遣いは一丁前だが、見かけからして装備だけ一流の人間。
おそらく親に財産があるのだろうが、ただそれだけ。
やはり取るに足らない存在。
見かけや構えからして、その道具すら扱いきれていないことがよくわかる。
魔法の才能は皆無。
「どうする? 神様的にどうなのこの子」
「こんなザコ構うまでもないだろう」
「ザコだと!? おい。どういうつもりだ」
「それもそうだね。ほっといても消えるか」
「おい。いい加減にし……。消えた……? は、嘘だろ? なんだったんだ?」
少し跳ねただけだが、ワタシたちを目で追えていない。
やはり、相手にするほどじゃない。どうせいつか消える。
「あ! あのガキがいない!」
「帰ったか」
「ちょっと! どうしてくれるのよ! フラータちゃんもいないし!」
時間潰しにはなったな。
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