オカルト少年 第二話「孤高の占い師」原作:MAGUMA オカルトアドバイザ:SHIN
◼️渋谷・昼
渋谷の青空。飛んでいる鳥。路上の一角で小さなテーブルを広げ、占いをしている女性「占部 千読(推定30代後半)」が無表情で鳥を眺めながら座っている。どこか空虚な瞳。ヤンキー風のカップルが、ちゃかしにやってくる。
ヤンキー彼氏「よぅ姉ちゃん! 俺のこと占ってよ!」
ヤンキー彼女「やめときなよ〜どうせインチキだってぇ〜」
ヤンキー彼氏「いいじゃねぇか暇なんだしよぉ」
ヤンキー彼女「あ、じゃあうちも占ってもらいたぁーい」
ヤンキー彼氏「馬鹿野郎! 二人分の金ねぇっつーの」
ヤンキー彼女「なによぉ〜けちぃ〜」
ヤンキーカップルのやり取りを無表情で見つめる占部。徐に口をひらく。
占部「……あなた」
ヤンキー彼氏「あ?」
占部「……死ぬわ」
ヤンキー彼氏「…んだとてめぇ? 調子に乗ってんじゃ…」
最後まで言い切る前に、猛スピードで路上に乗り上げてきた軽自動車にヤンキー彼氏が吹き飛ばされる。呆然とするヤンキー彼女は、我に返ると彼氏の名前を叫びあげる。
ヤンキー「え? …ちょっと…たかし? たかしぃいい!!!」
騒ぎになる大衆。微動だにしない占部。つぶやくように口をひらく。
占部「お代金…」
◼️夢羽の部屋・昼
(回想)ビルの屋上に現れたUFO
夢羽「俺、あの後どうやって帰ったんだ?」
机に置いてある礼夢の手帳。手帳に向かって、ベッドから手を伸ばす夢羽。真剣な面持ちで力が入っており、額から汗が。しかし、何も起こらない。
夢羽「……そらそうだよな」
一気に力が抜け、夢羽はベッドに倒れ込む。
◼️夢羽の家・リビング
TVでニュース番組の女性アナウンサーが話している。
アナウンサー「本日昼頃。渋谷駅周辺にて、路上に猛スピードで軽自動車が乗り上げ、男性一人が死亡しました」
階段から降りてくる夢羽。礼夢の妹「伊勢海 莉愛」が声をかける。伊勢海 陸は椅子に座って本を読んでいる。
莉愛「あら夢羽くん、お出かけ?」
夢羽「……はい」
莉愛「昨日帰りが遅かったけど、何かあったの?」
夢羽「何も、それがどうかしました?」
莉愛「いや……えっとね……」
夢羽「もう行ってもいいですか?」
莉愛「あ、うん……いってらっしゃい」
心を解かない夢羽に対し、何もできず立ちすくむ莉愛。見かねた陸が口をひらく。
陸「夢羽くん」
立ち止まる夢羽。
陸「君は納得してないかもしれないが、僕らはもう家族なんだ。莉愛の兄……君のお父さんの代わりに、僕らは夢羽くんを守っていかなくてはならない。お互いの未来を見据えて、もう少し心を開いてもらえないだろうか?」
淡々と物申す陸の言葉をよそに、顔も見ずに黙っている夢羽。
夢羽「…なんて…」
陸「??」
夢羽「未来なんて見えませんし、守ってもらわなくて結構です」
莉愛「夢羽くんっ!」
足早に外へ出ていく夢羽。静寂。
莉愛「私たち、どうしてあげたらいいのかしら……」
陸「(ゆっくり椅子に腰掛けながら)いずれ自ずと気がつくはずだ」
陸、TVのニュースに目を向けながら。
陸「歴史だって多くの時間と犠牲を払って、変化しているのだから」
莉愛、陸につられてニュースを見る。
女性アナウンサー「実業家の広江貴光さんこと”ヒロエモン”が取り組むロケット事業が、新たな展開を見せています。」
インタビューに答えるヒロエモン。
ヒロエモン「僕らは2030年までには、日本から気軽に宇宙へ行き来できるよう動いてます。宇宙は情報の宝庫なんですよ。にも関わらず夢物語で終わらせてる人って勿体無いというか、バカなんじゃないかなと思いますね」
◼️公園・ベンチ
ベンチに座り、公園で遊ぶ子どもたちを見ている夢羽。手に持っている手帳を見つめる。開こうとしてもまったく手応えがない。諦めてぼーっとしているところに、真の声が入ってくる。
真「優雅だね。とても八咫烏に狙われてるとは思えない」
夢羽、横を見るといつの間にか真が座っている。
夢羽「あんた…いつの間に。やっぱいるんだな。八咫烏。夢だと思って期待してたのに…また襲ってくるのか?」
真「きっと、今は様子を見ているんだよ。君もその手帳も、まだまだ謎が多いセンシティブな存在だからね」
夢羽「え、俺も?」
真「うん、君も」
見つめ合う二人。
夢羽「ていうかさ、屋上でUFOがきた後、俺ってどうなったんだ? あれこそ夢だだったんじゃないか?」
真、しばらく夢羽の目を見てから話を切り替える。
真「そんなことより、神とは会えそうかい?」
夢羽「無視かよ…手帳もぜんっぜん開かないし、早くもお手上げ。あんた何かしってんじゃないの?」
真「まぁまぁ、そう答えを急がない方がいいよ。時に、答えの方から歩み寄ってくることだってあるんだからさ」
夢羽「何だそれ…宗教かっ」
真「求めよ、さらば与えられん」
夢羽「やーめーろっ! 胡散臭いっ!」
真「ははは」
真、立ち上がる。
真「よしっ、ついておいで」
夢羽「え、なんだよ急に…」
真「先行きが不安なら、”診てもらう”のが一番だ」
夢羽「診てもらう…?」
◼️渋谷・昼
交通事故のあった渋谷の路上付近を歩く夢羽と真。
夢羽「(事故現場を見て)うわっ、酷いな…なんかあったのか?」
真「居眠り運転で路上に乗り上げちゃったらしいよ。それで男性一人が亡くなったみたいだね」
夢羽「うへぇ〜おっかねっ。さっさと離れようぜ」
真「ここだよ」
夢羽「ここぉ!?」
事故現場付近にある「占い」と書かれた質素な看板の前に立つ真と夢羽。
夢羽「『あなたの運勢、占います』って…まさか、診てもらうって…」
真「そう、そのまさかだよ」
帰ろうとする夢羽。服を掴んで止める真。
真「まぁ待ちなよ夢羽くん。これも人生経験だ」
夢羽「何が人生経験だよ! ”神に会う方法”を探すってのに初っ端から占い頼りってもう詰んでんじゃねぇーか!」
真「真実は時に嘘みたいなところで隠れているものだよ」
夢羽「(誰もいない机を見ながら)つっても誰もいないじゃん」
真「本当だね。留守かな」
夢羽「キャッシャーも置きっぱだし、どんだけ無防備なんだよこの人」
真「さぁ、未来で盗まれないようになってるのがわかってるんじゃない?」
夢羽「占いってそんな感じなのか」
真「たぶん」
占部「空っぽだからいいの」
夢羽「ギャァー!!!」
いつの間にか後ろに占部が立っており、驚いて飛び跳ねる夢羽。真はニコニコしたまま。
真「やぁちよみん。久しぶり」
占部「お久しぶりです」
夢羽「え、知り合い?」
占部の紹介。無表情。
真「この子は占部 千読ちゃん。未来予知で生計を立ててる占い師だよ」
夢羽「へぇ〜、占い師に会うのは初めてだ。ていうか、なんでキャッシャーの中身が空っぽなの?」
占部「売り上げがゼロだから」
夢羽「ぜんぜん生計立てられてねぇじゃん!」
占部「永遠のゼロ」
夢羽「その表現はやめろ」
真「ちよみん。この子は現岡 夢羽くん。通称ムーミン谷のムーミンで、森にひっそりと暮らす内気で弱虫な妖精さんだよ」
夢羽「蹴り飛ばすぞ」
占部、雰囲気が深刻になる。
占部「現岡…?」
真「そう、礼夢さんの息子だ」
夢羽「…ん? 親父の知り合い?」
真「実はちよみんも、礼夢さんの探究に力を貸してた仲間の一人なのさ」
夢羽「そうなの!? この人が!?」
占部「ギャランティ、払ってくれなかったけど…」
真「ちよみん。お金の話はやめよう」
夢羽、下を向く。
夢羽「(俯きながら)俺…親父のこと何も知らないんだな…」
落ち込んでいる夢羽を見る占部と真。空気を変えるように手を叩く。
真「さて、本題っ! 実は夢羽くんは、礼夢さんから例の手帳を受け継いだんだ」
占部「例の手帳…」
真「そう、例の手帳…」
二人を訝しげに見る夢羽。
真「手帳に記してある”神に会う方法”を知りたいんだけど、どこから手をつけていいか分からなくってさ。だからちよみん、ちょっと未来がどうなってるか占ってもらえないかい?」
夢羽「そんなとんでも話聞いてまともに受けてくれるわけ…」
占部「わかったわ」
夢羽「受けたー!!」
占部「礼夢さんのためだもの。夢、叶えてあげなくちゃ」
どこか感慨深そうな占部。夢羽は意味深な占部の顔を見る。
占部「(視線を横にずらしながら)でも、その前に…」
占部の視線をずらすと同時に、何か異常な気を感じた夢羽も急ぎ横を見る。一人のげっそりとした女性(35歳)が占部の元へ近づいてくる。夢羽の視線には、その女性の後ろに恐ろしく大きな黒いモヤがかかっているように見え、恐怖を感じ固まる。
占部「仕事だわ」
夢羽、周りを見るが、誰も女性のモヤに気がついていない様子。夢羽の心の声。
夢羽「(え? なんだあれ? 見えてんの俺だけか?)」
気持ち鋭い目になる真。衰弱し、虚な目で下を向きながら、女性はゆっくりとこちらに向かってくる。
真「ほらね」
夢羽「…え?」
真「答えの方から来てくれた」
夢羽「答えって…」
黒いモヤが顔になり、女性に向かってにっこりを笑っている。夢羽はあまりの恐ろしさに驚愕の表情。
夢羽「これが…?」
夢羽の手提げカバンに入れていた手帳が、ゆっくりと開く。
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