実話怪談「いつもと違う」

女性には霊感が備わっていた。幼い頃から奇妙な光景を何度も目にしており、当時はハッキリと霊的存在の姿を目視できるほど研ぎ澄まされたセンスを持ち合わせていたという。今でこそ感覚は薄れているものの、不可思議な空気感を感知する能力は健在のようだった。

そんな彼女が、霊的現象とは”明らかに違う事象”に遭遇したことがあると、当時の記憶を思い返しながら話してくれた。今日は、そんな彼女の”いつもと違った”不思議な体験をお話しする。

夜。家族が寝静まった頃。彼女もいつもと変わらず眠りについていた。そんな時。窓の外が煌々と光で満たされ、彼女はその光で目が覚めたという。どうも光の正体は車のライトでもないようで、時間的にも、明らかに家の外で起こるはずのない現象だった。彼女は「ああ、またか」と、いつもの幽霊的な事象だと悟り、できるだけ関与しないよう、すぐに眠りにつこうとした。だが、心のどこかで”いつもと違う”不安感のようなものが増幅しているのも確かだった。

程なくして、彼女の抱いていた感覚は間違っていなかったとわかる。
施錠していたはずの玄関が静かに開き、その光の正体が家に入り始めてきた。彼女の不安はますます膨れ上がり、思わずその要因に目を向けてしまう。その瞬間、彼女は心の中で「違う……何？　こいつら何！？」と何度も繰り返し呟いていたという。

彼女が驚愕した”幽霊ではない謎の影”は、いわゆる、グレイと呼ばれる宇宙人の姿そのものだったのだ。震えの止まらない彼女をよそに、眠っている家族は微動だにせず、グレイのような存在に気が付くそぶりも見せない。グレイのような存在は、スライドするようにゆっくりと寝室を移動し、先端の光った棒を持つと、家族一人ひとりの鼻の穴に突っ込んでいった。光景を見ていた彼女は、棒を突っ込まれても尚気が付かない家族に必死に訴えかけようとするも、なぜか体も動かなければ声も出せなかった。

恐怖で満たされた彼女は諦め、自分が起きていることに気づかれまいと眠ったふりをしたようだ。だが、彼女は目を瞑りながらでも、グレイなるものはゆっくりと近づいてくる気配を感じ取っていた。しかし、次の記憶はスイッチを切られたようにぷつんと途切れており、彼女は当時の現象そのものを忘れてしまっていたという。
では、なぜ今になって私にこの話をしているのか。

その昔。矢追純一というオカルトの最前線を駆け巡った男がいた。そんな矢追純一が登場した番組で、初めて”UFOや宇宙人の姿を一般公開！”と謳った特別番組が放送されていたという。家族がこぞってTVを見ている中。数年後の彼女も矢追純一のTVに注目する。だが、彼女が抱いた感覚は決してワクワクするようなものではなく、むしろ、恐怖を煽られるような気分に落とされた。

TVで初公開された宇宙人の姿を見た瞬間。彼女の消えていた記憶が一気に蘇ったというのだ。TVで紹介されていたのは、グレイと呼ばれる真っ黒な大きな瞳に灰色の肌をした存在だった。そう、彼女があの時、寝室で目撃した異形のものとまったく同じ姿だったのだ。しかし、その話は誰からも信じてもらえず、次第に話をすることはなくなっていったという。

ちなみに、彼女がグレイの姿を見たのは、 TVで公開されるよりももっと前のことである。やはりこの世には、人ならざるものたちが、今だどこかで出歩いているのだろうか。そして彼女は、なぜ意図的にその部分だけの記憶が消えてしまっていたのだろうか。超常現象の奥深さと闇を感じさせられる、彼女の抱いた”いつもと違う”事象の話である。