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臨床医学物理士は研究をすべきか

 日々研究にも勤しまれている医学物理士の先生方にとっては愚問かもしれない。JBMPの医学物理士の定義にも「医療」「研究開発」「教育」が業務であると明記されているように、医学物理士を名乗る限り、臨床だけでなく研究もその使命の1つであるはずだ。(今は廃止されたが、以前まで医学物理士の資格更新には論文発表が必要であった。)

 その一方、現実として市中病院で働く医学物理士は、病院の業務として研究は義務ではない。実際に私の同僚に旧帝大卒の頭がいい仕事もよくできる優秀な医学物理士がいるが、彼は学会発表や論文執筆といった類のことは一切やらない。大学病院のような研究機関ならまだしも、地域の患者さんの治療が目的の地方病院で業務でもない研究をわざわざやる必要があるのかという考えも理解はできる。

 そういうことで筆者の経験に基づく市中病院の医学物理士が研究を行うメリット&デメリットを挙げてみた。

メリット1:自分のキャリアになる

 医学物理士として新しいポストに就こうとするとき、例えそれが研究職でなくてもたいていは履歴書の一部として研究業績の提出が求められる。論文ゼロで白紙の業績と数多の論文タイトルで埋まっている業績を見比べられたとき、採用側目線で「おっ、こいつがんばってるやつだな」と思われるのは後者であろう。論文をいっぱい書いているからと言って決して能力が高いとか偉いとかそういうことではないが、書面上の評価で差が出るのは事実である。業績があることで研究職や教育機関、留学など狙える範囲も広がる。

メリット2:学会参加へのモチベーション

 研究をやっているとその成果の1つとして学術大会での発表がある。学会の学術大会はもちろん単に出席するだけでも価値のあることだが、そこは演題を出して発表してこそ学術の「大会」である。発表準備などの手間もあるだろうが、同じ参加費を払うなら演者として発表した方が得られるものも多いだろう。さらに自分の研究に興味をもってくれた他施設の医学物理士や研究者との新しいつながりも作れる。

メリット3:自己研鑽

 どのような研究をするにしてもそれに関連する多くの論文や文献を読み込むことになるので、その分野での知識に精通することになる。臨床に近い内容であれば普段の業務でその知識が生きてくるだろうし、たとえ基礎研究のような今の臨床に直結する内容でなくても、専門領域をもっているということは医学物理士として強みの1つになるだろう。

 以下、デメリット(というか課題)

デメリット1:研究資金の調達

 研究する上で備品や消耗品、論文投稿の費用などそれなりのお金がかかる。そのために大学のような研究機関なら科研費をはじめとした研究費を取得するわけだが、市中病院はそもそも研究機関でないので通常そのような研究費に応募することすらできない。病院によって多少助成はあるかもしれないが、研究に使えるお金をもっているかいないかの差は大きい。

デメリット2:研究時間の確保

 日中は臨床業務を優先しなければならないので、自ずと研究は時間外にやることがほとんどである。業務でもないので研究しているその時間に手当もつかないだろう。研究メインで働いている研究者らと比べると研究の進捗には圧倒的な差がついてしまい、臨床しながら研究することの限界を感じることはよくある。

デメリット3:研究環境

 研究機関でないので当たり前であるが、物理的、人的、そして組織的にも研究する環境が整っていない。その中でも特に人的環境の影響は大きいと思う。身近に議論できる人の存在や定期的な研究ミーティング、周囲の人の研究への姿勢というのは良い研究を進めていく上で必要であるし、何より自分の研究のモチベーションになる。それらなしで臨床業務が終わって皆が帰宅した後に独り研究に行き詰っている日が続くと心が折れそうになる。

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 ちなみに筆者のおっさんは大学を出て一般病院歴の方が長い中、なんとか最低年1本は筆頭論文を書くくらいのスローペースで研究活動は続けている。それでも最近は挫折しそうになることも多い。もう若くないというのもあるが。


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