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「働きやすさ」と「働きがい」

このGW中に、「働きがい改革、道半ばの日本 『仕事に熱意』6割届かず」という日経新聞の記事に触れて、少し考えたことがあったので書いてみようと思います。結論からいうと、「働きがい」って「働きやすさ」からは生まれないのではないのかなぁ、という違和感がはじまりです。

「働きやすさ」を示すいくつかの指標

日本政府が「働き方改革」を打ち出してから5年たつそうで、その5年間で「働きやすさ」を示す指標がどう変わったのかを検証しています。記事中では、「年間総実労働時間数」と「有給休暇取得率」(どちらも厚生労働省)を取り上げていますが、どちらもそれぞれ5年間で、5.5%減と7.2ポイント上昇と改善を見せています。

まあ、劇的な変化ではないものの成果があったとみなしていいかもしれません。そして、記事では「働きがいの面では改善がみられない」と続くのですが、ここで個人的には、「ちょっと待って、働き方改革って労働条件を改善しようって話だったよね」と思っちゃったわけです。そこで、(今さらながらで本当に恐縮ですが)厚生労働省のホームぺージに行って確認したところ、やはり働き方改革の骨子は長時間労働の是正、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保、柔軟な働き方がしやすい環境整備・・・といった、まさに「働きやすさ」の実現であって、それって「働きがい」とは無関係とは言わないものの、別の話だよねと再確認した次第です。

働きやすさ=働きがい、と読んで違和感を感じてしまったのは私の読解力の至らなさだとして、この記事の主眼も私が思ったのと同じ「働きやすさ」をいくら実現しても、それだけでは「働きがい」にはつながらないよね、なのだとして話を進めますね。この「働きやすさ」の話って、よくいうハイジーン・イシューというような満たされていて当たり前のようなレベルの話に近いんだと思います。ものすごく分かりやすい喩えでいうと、航空会社にとって客室乗務員の接客態度とか機内食のおいしさとか定時運航率だとかが差別化要因だったりするけど、そもそも安全に運航するってことが大前提だよね、って話です。

実際、最近の報道などで、自宅勤務ができることが会社を選ぶ条件として考えられるようになってきたという調査結果をしばしば見かけることからも、職種によるとはいえこうした柔軟な勤務体制というのが、(今は差別化要因かもしれないけど)近いうちに当たり前のこと=ハイジーン・イシューになっていくのかもしれません。

「働きがい」を示すいくつかの指標

さて「働きがい」を示す指標として、某人事コンサルティング会社による「エンゲージメント」指数が挙げられていますが、この手のデータの国際比較は非常に難しいのでそこは触れずに、この5年の数値の変化だけを見ると、コロナ禍の影響もあるのか微減もしくは横ばいです。別の人事コンサルティング会社の同種の調査結果でも、この傾向は同じです。

これを見て思うのですが、やはり「働きやすさ」と「働きがい」は別ものなんだろうなと。なお、それぞれ調査元の会社の見解が載っているのですが、一言でいうと、いわゆる日本的なヒエラルキー型の組織や立場を弁えた意見表明の文化などが、「働きがい」や「エンゲージメント」が低い理由ではないか(←ものすごく乱暴にまとめています)とのことです。

う~ん、正直ここは私の解釈はちょっと違うかな。確かに、これまでの日本はそういう雇用形態や暗黙の了解含めた会社カルチャーが支配的でした。言葉を補うと、メンバーシップ型雇用、年功序列、上位下達型、同質的労働力・・・そこから生じる負の部分が日本人の「働きがい」を下げているっていうんだけど、これらって正の部分もあって、真面目に頑張っていれば報われる、会社がちゃんと面倒を見てくれる的な要素もあったはずなんですよね。

そして、今、変わりつつある方向としては、ジョブ型雇用、年齢に拘らずフラットな組織、多様な労働力・・・ここから生まれる「働きがい」は大きいと思うし、実際私自身は、どちらかというとこちらよりの仕事人生を送ってきたから、そこから仕事や会社へのエンゲージメントが高まるのは実感している。だけれど、決してバラ色なわけではなくて、自分のスキルが陳腐化するのを自助努力で補っていかなければいけないとか、自分の仕事がなくなったら雇用もなくなるかもしれないとか、結構な負の側面もあるわけです。

この手の調査の解釈でたぶん一番難しいであろうと思うのは、日本は今まさにこの変化が起こっている最中であるってことなんですよね。現実的にはこれって白か黒かではないものの、人によっては社会人人生の途中でその変化を経験したり、必ずしも選択肢があったわけではない人もいるわけです。だから、変化の最中には混乱による「働きがいの低下」が起こるだろうと思っています。むしろこれから10年くらいは日本の労働者のエンゲージメント、働きがいは低迷してもおかしくないと個人的には予想しているくらい。最終的にはちょうどよいところに落ち着くんじゃないかなぁという意味では楽観視もしているけれど。ただ、その混乱期のエンゲージメント低下に、どっちのモデルが優れているかなどの不毛な議論が起こらないことを祈ります。調査をするのなら、その要因分析もきちんと行わないとならないですね(自戒もこめて)。

「働きがい」が企業戦略になる時代に

ここまで、「働きやすさ」を高めても、それがイコール「働きがい」とはならない、って話をしてきましたが、「働きやすさ」が「幸福感」につながり、また「働きがい」も「幸福感」につながるということは言えると思います。既に述べたように前者=労働環境が良いことは幸せに働くことには欠かせません。ただし、それがハイジーン・イシューに近づくにつれ当たり前なことになっていくことは、企業側は十分に意識すべきでしょうね。

だからこそ、これからは「働きがい」が企業戦略になる時代になってくるかもしれません。記事中にあるように、幸せに働く社員のいる会社は収益性もあがる、というのは多くの調査結果からも言われるところです。だから、どうやって従業員の「働きがい」を高めるのかは企業がもっと真剣に考えなければならない問題であり、そしてそれは安易にジョブ型に移行すればよいのではないということも肝に銘じる必要があります。


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