「円卓×ハナ菓子店×mago 理想の朝ごはんの会」レポート完全版
おだやかな風が吹く 11 月 26 日の朝 8 時過ぎ。京都は紅葉の盛りで賑わっていると聞くけれど、上京区の 椹木町通はひっそりとしている。白地の布が静かに揺らめく京町家は、ケータリングや鮭弁当が大人気の 料理家・庄本さんが主宰する「円卓」のアトリエ。ガラス戸を開けると、この日のイベント準備が着々と進んでいた。
11 月 26 日に開催された「円卓×ハナ菓子店×mago 理想の朝ごはんの会」。これは、モーニングの記憶を Instagram に記録し続ける「まご(=私)」が、ひょんなことから自主制作したモーニングエッセイ本「よあけのたび 2」の発刊記念として企画され、「まごの理想の朝ごはん」を具現化した朝食が「円卓」のアトリエで味わえるというイベントだった。
料理のメイン担当はもちろん「円卓」さん。そして、手づくりの美しい焼菓子が評判で今は東北の山形に拠点を置く「ハナ菓子店」さんがジャムを。実店舗閉店後も多くの人に慕われる「ペリドット」のおーちゃんさんがドリンクを担当してくれた。まごはフロア・レジ担当として当日を迎えた。飲食業界はほぼ未経験。よれよれのエプロンを身につけ気合いを入れた。
朝食会は 9 時からのスタート。約 60 分ごとに計 6 回転する事前予約制の入替制だった。
おーちゃんさんとまったり珈琲&紅茶談義に興じたり、「円卓」さんの夫さんに協力してもらいながら会計アプリの操作練習をしたりしていると、気づけば白いのれんの下から複数の足が並んでいるのが見えた。 時刻は 8 時 55 分。「円卓」さんはキッチンですでにテキパキ動いていて、おーちゃんさんも自身の作業に集中。「ハナ菓子店」さんは都合で京都に来られなかったけれど、激務の中、ジャムとお菓子を京都に届けてくれていた。
よくよく考えると、こんなすごい人たちに自分好みのモーニングを作ってもらえるなんて、 どういうことだ?果報者。そんな言葉が頭をよぎった朝の 9 時。「開けます!」とみんなに声をかけ、入口のガラス戸に力を込めた。
第 1 回目朝食会を予約してくれた 8 名のお客さまを中へ招き入れ、ドリンクの確認を終えたら、わたしの役目はいったん終了。じゃまにならないようにフロアのすみっこで次の仕事を待った。するとハムの焼ける香りがふわふわと流れてきた。これ!この瞬間が好きなんです!みんなは?みんなは好きですか?興奮気味に体をのばして客席の反応を覗き見る。
厨房にいけばカラフルなお皿が並んでいた。「まごの理想の朝ごはん」は、まごが走り書きした「理想の朝ごはん トースト編」というメモが元ネタとなっている。モー ニングマニアの雑多なメモがどんなふうに昇華されたのか。この瞬間まで私は何も知らずにいた。ニヤニヤ顔を噛みしめながら、お皿を客席へ運ぶ。
こんなふうにあれこれと想いを馳せる余裕があったのは、この頃までだ。
第一陣を送り出し、ホっとしたのもつかの間、第 2 回目のお客様がやってくる。2 回目以降は簡単な調理補助も行った。円卓さんの指示で芋チップをサラダの上にのせていく。ただのせるだけなのに、どうしてか 「円卓」さんのようにおいしそうに盛ることができない。芋チップの位置を変えてみる。なんか違う。向きを変えてみる。やっぱり違う。目の前では円卓さんが両腕を俊敏に動かし、華奢な身体をくるくる回転させながらモーニングプレートを手早く完成させていく。現場は芋チップばかりに構っていられる状況ではなかった。
配ぜんの時は注意事項を心の中で反芻した。お皿を持つ指が皿の中につっこみすぎないように。ドリンクはこぼさないように。お皿を置く時は一番おいしそうに見える部分がお客様の正面に向くように。あれ、これはどれが正面だ?こう?こう?それともこう?
ちょっとお皿を回しすぎたり、箸やスプーン、ジャムの出し忘れをした時もあった。そういったミスに対策を講じながら、私たちは次の回のお客さんを迎え入れていった。「慣れる頃には終わるんだよ、イベントは」おーちゃんさんは核心を呟きながらカップを洗っていた。まだ午前中だと思っていたらあっという間の 13 時。「ふたりとも、これ食べて!」 円卓さんからトーストの切れ端と柿が支給された。ランナーの気分だ。
そんなわけで、ほとんどのお客さまには円卓に雇われているバイトスタッフに見えていたのだろう。私が著者とわかると、驚きでのけぞる人、緊張で固まる人、様々な反応がかえってきた。聞くと「架空の人物が急に現実世界に現れた」感覚なのだそうだ。
そして有難いことに、サインを求めてくださるお客さまがいた。初サインだ。これをおもしろがったおーちゃんさんと円卓さんが「サイン承りますよ」とふれこむため、この日、何度か著書にサインをさせても らう機会を得た。果報者という言葉がまた頭をよぎる。よあけ 2 号が大切な本となりますように。そんな想いを込めた。英語で書いたけれど、平仮名でも良かったかもしれない。
14 時からはテイクアウト営業が始まった。朝食会の予約をしていなくても店内に入って買い物を楽しむことができる。食事会との同時進行になるので気を引き締め直した。
▽テイクアウト商品ラインナップ
ハナ菓子店×まごコラボ「ラ・フランスのタルト」
ハナ菓子店さんの焼菓子(4 種)
円卓さんの保存食(コチュジャン、生姜の佃煮、ジンジャーシロップなど)
ペリドットさんの焼菓子(2 種)
大原の新鮮野菜
餅武さんのあられ(円卓さんの柚子胡椒フレーバー)
まご新刊「よあけのたび 2」(円卓周辺マップ付き)
午後になると会計アプリの操作もかなり手慣れたものになっていた。おーちゃんさんの常連さんからは「普段から飲食関連の仕事をしている人なのかと思った」というお褒めの言葉をいただき、それは私に「飲食業界からオファーが来る日も近いかもしれない」という謎の自信をもたらした。
食事会も 5 回目を迎える頃、おーちゃんさんがいれてくれたドリンクを見て「これは紅茶ですか?珈琲ですか?」と分別がつか なくなるほど脳が麻痺したものの、心がとぎれることはなく、6 回目のお客さまを無事に見送ることができた。
「まごさん食べますか?写真撮りたいですよね」
円卓さんのご厚意でこの日の朝食を作っていただくことになったのは16時を過ぎたころのこと。
▽メニュー
kurs のパンドミ
山形産紅玉りんごのジャム(ハナ菓子店)
山形産ラフランスのジャム(ハナ菓子店)
無農薬ベビーリーフ(芋チップと素揚げの茄子をのせて)
にんじんドレッシング
円卓の出し巻き風スクランブルエッグ (京都美山の平飼いたまご使用)
クリームチーズ入りポテトサラダ
仙石ハムのロースハム
有機農法のバナナ
柿
かぼちゃとカリフラワーのポタージュ
コーヒー(カフェデコラソン/京都)or 紅茶(ガネッシュ/仙台)
木べらで手早く混ぜながら仕上げた、ダシの味わい深いスクランブルエッグ。こっくりとしたクリームチ ーズ入りポテトサラダはおかわりしたいと思ったほど好みの味。これらはもちろんのっけ食べもしながら味わった。
パンは直火で餅焼き機を活用。こまめに裏返しながらさっくり焼きあげている。ハナさんのジャムはみんなで分け合った。美しく澄んだジャムは見た目の通り、味わいもすっきりしていた。りんごのジャムはタルトタタン風に。ラ・フランスのジャムは香り豊かに熟成させたものを使い、砂糖を控えめに してフルーツそのものの味をしっかり感じられるようにしたそうだ。かぼちゃとカリフラワーのスープは、 少しの牛乳と塩を足して味を調えている。野菜の風味がしっかり楽しめる、私の好きなスープだ。
「けっこう量あるね」
おーちゃんさんの言葉にうなづきながら夢中で食べた。
昼食なのかおやつなのかよくわからない時間帯でも、わたしにとってこれは朝食。2022 年 11 月 26 日に食べた立派な朝ごはんだ。
17 時頃、イベントは終わった。翌 27 日は、円卓さんと菓子屋のなさんとのコラボイベント「大善哉大会」 が開催される。円卓さんはその準備に取り掛かっていた。いつもは見られない食事会の裏側で見たプロの姿に感嘆の息がこぼれた。
円卓のアトリエを出ると日はすっかり暮れていた。約 8 時間に及ぶ長い朝だった。明日、体は動くだろうか。首の後ろから腰にかけて大きな爆弾を抱えているような重みがあった。でも大丈夫。明日の朝になったら、ハナ菓子店さんのタルトを食べるのだ。これは「よあけのたび 2」を制作するとき、朝食べたいお菓子を売りたいと相談して作ってもらったタルト。充実した朝ごはんはその日の活力。だからきっと大丈夫。
朝ごはんはいつだって、私の味方だ。
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