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日記:20240109〜大山海『令和元年のえずくろしい』〜

【ネタバレを含む感想です】

大山海『令和元年のえずくろしい』
 大傑作『奈良へ』の作者による長編漫画。相変わらず絵柄もストーリーも決して好きではない。でも読み始めたらもう目を背けられない、読み手を引き込む力がある。

 タイトルの「えずくろしい」は京都の言葉で「不快だ」などの意味があるらしい。「えずく」が語源とすると、「吐き気がする」「むかつく」みたいなニュアンスかもしれない。
 タイトルの横には英語表記で『GROTESQUE 2019』と書かれている。えずくろしいとグロテスクが意味合いも音の響きも呼応していて面白い。

 まさにタイトルの通り、シェアハウスに集まった社会に馴染めない人たちの不快で胸がムカムカするような群像劇が描かれる。でも、えずくろしいのはナニハウスの住人たちだけではなく、彼らもまた自分を含めた「世の中」をえずくろしく感じた結果、あの家に集まるしかなかったのだろう。
 最悪な地獄はナニハウスだけではない。自分自身がのうのうと生活している「ここ」も「いま」も何も変わらない。
 
 終盤では『奈良へ』と同様、メタフィクショナルな世界観の転覆が図られる。捨てた人形が戻ってくるあたりは不気味で良かった。

 結末で描かれるあの石は、古墳の時代から絶えることのない乾きを象徴しているのかもしれない。満たされない渇きがある限り、醜く純粋な青春も、それを娯楽として消費するものもなくならないのだろう。


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