あのとき選び損ねた未来をぎゅっと抱きしめたら #映画「ミッドナイト・バス」
私はエピソード記憶が全然もたない。旅行に行っても、数年後には何処をめぐってどんな人に出会って何を話したか、そういう思い出を大体忘れているから、お金の無駄だなと思ったりする。
連休中に、映画「ミッドナイト・バス」を観た。数年前に原作を読んだことがあったので、知っている話のつもりで観始めたら、設定から全然覚えがなかった。あれ、主人公は離婚しているんだったっけとググったら、原作もちゃんとそういう話だった。
エピソードはすぐ忘れてしまうけど、抱いた気持ちは長く覚えている。ミッドナイト・バスの原作もとても良かった記憶がある。そして映画もとても良かった。
今年の私のテーマは感情の粒度を上げることだから、いつもはネットでレビューを読んで、自分の感想にぴったりするコメントを探して満足するところだけど、頑張って感想を書いてみる。
泰造さん演じる主人公の職業は夜行バスの運転手。新潟近郊の「美越市」と池袋をつなぐ。関越トンネルを抜けた新潟では「父」、東京の恋人の前では「男」。東京と新潟という物理的距離とトンネルが、2つの役割葛藤を緩和して、あいまいなままにして、なんだかどちらも夢みたい。
ずっと前に離婚した元妻との再会と交流は、家族全員の「今」を揺るがして、「あのとき」選ばなかった選択肢への想いを強くさせる。
私たちは、選んだ今を正しくするため、こっちで良かったんだって自分に言い聞かせて、選ばなかった、選び損ねた道を恋しがることを自分に禁止する。
でも私たちは、選ばなかった道を振り返ってしまっても、選ばなかった未来の優しさに後から気づいてしまっても、それをぎゅーっと抱きしめて、それでもう一度、今を選ぶことができるのかもしれない。
「昔見えなかったものが、見えてきた。もっと早く分かれば良かったのにね。もし許されるなら、夢のつづき、ずっと見てたかった。」
未来の幻想に溺れそうになって、でも溺れかけたからこそ、決意をもって今に立ち向かっていけることも、あるのかも。
プレビューでは泰造さんがとても褒められていたけど、泰造さんももちろん、キャスト全員が素敵な映画でした。