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ボードゲーム『パンとごはんの魔女裁判(ポテトもあるよ)』は、どうやって駄作から面白く磨き上げられたか

こんにちは。MAGIのイノモトショータです。『まじかる☆ベーカリー』シリーズというボードゲームを制作しています。

今秋に発売する『パンとごはんの魔女裁判(ポテトもあるよ)』について、自分へのメモの意味も含めて、ゲームの制作過程を残しておきたいと思います。

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「そうだ、もう一作つくろう」

2021年4月下旬、私たちはゲームマーケット2021春で『まじかる☆キングダム』の発売を終え、購入者の皆さまから大変な好評価をいただけていることを喜んでいました。

それと同時にさっそく、拡張第1弾となる『ライスル帝国侵攻』の世界観構築とカード制作を進めていました。

パンの国であるパネテリア王国と、ごはんの国であるライスル帝国の対立を軸にして、コメのことを憎んでいるコロネリア女王と、その脅威に必死に立ち向かうライスル帝国の様子を描き出し、キャラクターをベースにしてどのようにストーリーを駆動させるかを考えていました。

ライスル帝

ライスル宰相

ライスル忍者

このように拡張版を制作しているうちに、自分の中で「何かが足りない」という気持ちが生まれてきました。

「『まじかる☆キングダム』は、ファンの方たちに支持してもらえている。発売したばかりなのに、拡張版を楽しみにしてくださっている方もいる。今後もどんどん作品世界を広げていきたい。でも、『まじかる☆キングダム』の拡張だけでは、まじかる☆シリーズ全体を盛り上げていくためには力が不足している」

どうすればいいんだろう、と悩み続ける中で、1作目の『まじかる☆ベーカリー』を作ったときのことを思い出しました。

まじかる☆ベーカリー(初代)

自分が『まじかる☆ベーカリー』を作ったのは、「ボードゲームをやったことのない人にも楽しんでもらいたい」という気持ちからでした。

「可愛い絵柄なのに、ブラックな世界観」というギャップをフックとして、自分が本当に大好きで面白いと思っている「ボードゲーム」という遊びを、まだボードゲームをやったことのない人にも楽しんでもらいたい…そういう考えが出発点でした。

ここから、ひとまずの方向性が定まりました。「まじかる☆ベーカリーの世界観を踏襲しつつ、まだボードゲームを遊んだことのない人でも遊べるようなゲームをもう一作つくろう」と。

ぼんやりと世界観を考える

まじかる☆ベーカリーシリーズは、パン屋で働いていた見習いのコロネが、独立して店長になり、部下の叛逆を鎮圧し、財閥をつくり、ついにはパネテリア王国の女王となる、輝かしいシンデレラストーリーです。

まじかる☆キングダム

コロネのように凄まじいスピードで成り上がっていくキャラクターは、主人公としてとても魅力的です。しかし、せっかく新作をもうひとつ作るのであれば、初心に立ち返り、もっと普通の人の姿を描きたいなと思いました。

そこで、コロネが率いるパネテリア王国と、イナホが率いるライスル帝国の戦禍に巻き込まれる「普通の人」を描くために、舞台を「パネテリア王国とライスル帝国の緩衝地帯の村」としました。

ゲームシステムを考える

ゲームシステムを考えるにあたっては、以下のようなことを考えました。

・あまりボードゲームをやったことのない人でも「面白い」と思えるものがよい。
・基本的には自分の力だけではままならないパーティゲームであり、運の要素を極端に強くしたい。その中でピリッとスパイスのように効く心理戦要素を1粒入れたい。
・極端なゲームバランスで、理不尽ではあるが、短時間でサクッと終わり、「もう一回やりたい」と思えるゲームにしたい。

上記のような考えを元に、主軸とするメカニクス(厳密にいうとメカニクスではないかもしれませんが)を「インディアンポーカー」に決定しました。

インディアンポーカーは、自分が見えないようにトランプのカードを額に掲げ、他人のカードが全部見える状態で、自分のカードの大小で勝ち負けを決定するゲームであり、シリーズ作品である『まじかる☆パティスリー』でも採用したメカニクスです。

まじかる☆パティスリー_帯付き

子どものころに遊んだことのある人も多く、他人の表情を伺うというシンプルな心理戦の要素が詰まっているため、ボードゲームをあまりやったことのない人でも取っつきやすく、面白さを感じやすいと思ったため、採用しました。

そして駄作が出来上がる

過去に『まじかる☆パティスリー』で取り組んだテーマではあるのですが、インディアンポーカーのゲームを再度作りはじめて、改めて痛感したことがあります。

インディアンポーカーにはすでに面白さがコンパクトに詰まっているため、余計なものをつけ足してしまうと、本質的な面白さ(表情の読みあいによる心理戦)がどんどん削られてしまうのです。

ドキドキ感を増やすために正体隠匿(役職)要素を足してみたり、ままならなさを増やすためにランダム性を入れてみたり...毎日新しいテストキットを作り、テストプレイをし、テストプレイが終わるとノートに「駄作」と記入する日々が続きました。その数、20種類以上。

駄作....

駄作1

駄作....

駄作2

あまりに駄作ばかり出来上がるため、心が折れそうになるときもありました。それでも、毎日のようにテストプレイを続けました。

ボードゲームと直接的な関係はありませんが、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオとピクサー・アニメーション・スタジオの元社長であるエドウィン・キャットマルはこう語っています。

「どの映画も、最初はつまらない」

「ときにはそれ以下の場合もある。たとえば『アナと雪の女王』と『ベイマックス』は、紛れもない駄作だった。物語は平板で、キャラクターも魅力がない。とにかく最低だ。私も実際に見たから断言できる。あれは本当にダメだった。話にならない」

『カールじいさんの空飛ぶ家』も初期バージョンは最悪で、脚本をすべて書き直している。「オリジナルのバージョンと同じところは、映画のタイトルだけだ」

ダニエル・コイル『THE CULTURE CODE』より

ディズニーとピクサーの数々の名作ですら、「プロトタイプ時点では駄作だった」というのです。この発言には、本当に勇気づけられました。

こうして苦行のようなテストプレイを続けている中で、のちに本作『パンとごはんの魔女裁判(ポテトもあるよ)』のシステムの元となった、「激しいカード効果を追加しまくったテストキット」が作られました。

そのテストキットは、テストプレイ段階ではゲームバランスなど皆無で、ほとんどゲームの体を成していなかったのですが、テストプレイ中の笑いがとても多く、ようやく原石のようなものを見つけたような気がしました。

ようやく見つけたこの原石を、面白いといえるまで磨き続けようと覚悟を決めました。

パンとごはんの魔女裁判_プロトタイプ

閑話休題(ポテトもあるよ)

そんなこんなでシステムの土台はほぼ出来上がり、様々なカード効果の調整を進めていたのですが、ずっと最後の決め手となるワンピースが見つかっていないような気がしていました。

話は全く変わるのですが、株式会社MAGIは自分を含む3人のメンバーでボードゲーム制作を行っています。

そのメンバーのうちの一人は、マクドナルドが大好きでいつもポテトを食べています。私が「たまにならいいと思うけどあまり食べすぎると健康に悪いから控えなよ」と正論をいっても、反抗期の中学生ばりに頑なな姿勢でマクドナルドを食べ続けます。

「身体に悪いよ」「また今日も?」私がそう言い続けても、延々とポテトを食べ続ける同僚の姿を見て、最後のワンピースが埋まったようなきがしました。

「そうだ、ポテトを第三勢力にしよう!」

もともとテストプレイ中に課題として出ていた「後半の逆転の難しさ」「あるパターンでの推測の確定のしやすさ」、それらがすべてポテトを軸として再構成することによって解消され、システムは完成しました。

最後のワンピース・ポテト

ポテトのつくりかた

ポテトを軸にすると決めてから、パッケージデザインは「ポテトが大好きな女の子」にしようと決めました。

まじかるシリーズのすべてのキャラクターデザインを担当していただいているぬるぴょさんと打ち合わせをし、私が描いたポテトのイメージとともに、「かわいい」「少し幼い」「元気いっぱい」「農村」「カントリー」といったイメージをお伝えしました。

イノモトポテトラフ

わたしのイメージをくみ取りながら、ぬるぴょさんがホワイトボードにささっと描き起こし...

ぬるぴょポテトラフ

それを元に、ラフが完成し...

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元気でかわいいポテトちゃんができあがりました。

ポテトちゃん

ストーリーで作品をまとめ上げる

こうしてできたシステムと世界観を面白さにつなげるため、最終的にストーリーで筋が通るようにまとめることにしました。

インディアンポーカーのように「自分の派閥が分からない」状態や、「次々と自分の派閥が入れ替わる」状態、「様々なアクションカードで村人同士が争うカオス」な状態を、「混乱の魔女」という舞台装置を登場させることで成り立たせました。最終的に出来上がったストーリーは以下のようなものになります。

パンの国「パネテリア王国」と、ごはんの国「ライスル帝国」の間で戦争の緊張感が高まってきたころのお話。両国の緩衝地帯のとある村では、人々は「パン派」と「ごはん派」のどちらにつくか、選択を迫られていました。

ある日、その村を「混乱の魔女」が訪れ、人々に呪いをかけました。すると村人たちは、自分自身がどちらの派閥なのか分からなくなり、猜疑心と敵対心を煽られ、偽証と不正投票が横行する凶悪な魔女裁判をはじめることになってしまったのです。

そこにさらに、謎のポテト売りの少女まであらわれ、村は大混乱。自分は「パン派」? それとも「ごはん派」? まさかの「ポテト派」?

あなたは様々なアクションを使って、自分の派閥を推測しつつ、村の多数派をあなたの派閥にしなければなりません。

パンなのかごはんなのか

で、結局どんなゲームなの?

パンとごはんの魔女裁判(ポテトもあるよ)』のゲームシステムは、『まじかる☆パティスリー』のようなインディアンポーカーを元とした「カードコンボ系推理ゲーム」です。

数々のアクションカードや、「自分はパン派?」「ごはん派?」という質問を駆使しつつ、一人ずつ「パン」「ごはん」の「雰囲気チップ」を投票していき、残っている派閥の数や、自分から見えている他人の派閥などの情報を頼りに、次々と変わる自分の派閥を予測しながら、最終的に村の雰囲気(全員の投票数)が自分の派閥と一致するようにコントロールしていかなければなりません。

アクションカードは全18種類(27枚)。以下のように、様々な効果のものがあります。

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また、派閥は「パン派」「ごはん派」の他に、それぞれの上位派閥である「高級パン派」「高級ごはん派」と、パン派とごはん派の両方の性質を持つ「米粉パン派」、さらに「ポテト派」まで数多くあり、それぞれ勝利条件が異なります。

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様々なカードコンボと、推理と、運と。考え抜いた勝利から、偶然の一発逆転まで。いろいろな面白さが詰まった『パンとごはんの魔女裁判』、ぜひお楽しみください!

『パンとごはんの魔女裁判』の発売日

本作品『パンとごはんの魔女裁判』は11月20日、21日に開催されるボードゲームの日本一の祭典「ゲームマーケット2021秋」で特別価格で先行販売いたします。

MAGIのブースナンバーは「エリアB01」です。もしよろしければ遊びに来てください。

また、一般発売は製造のペースによりますが、12月中旬までにはみなさんにお届けできればと思っております。

パンとごはんの魔女裁判をお楽しみに

さいごに

本当に素敵な可愛らしいポテトのキャラクターデザイン、すべてのアートワークをご担当いただいたぬるぴょさん、本当にありがとうございます。

まじかる☆ベーカリーシリーズを支えてくださっているファンの皆さまも、いつも本当にありがとうございます。

まだまじかる☆ベーカリーシリーズをやったことないけど興味ある!という方にも、本作品はおすすめとなっておりますのでぜひ遊んでみてください!

まじかる☆ベーカリーシリーズ
イノモトショータ



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