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Review#3:Freedom of Expression (Dani DaOrtiz)

タッタラッタ〜♪ WHY〜?WHY NOT〜?でおなじみ、スペインの巨人 Dani DaOrtiz。

彼によるフォース等のサイコロジカルなテクニックを解説した本。2009年にスペイン語(原題:Libertad de Expresion)で出版され、2021年に英語版が発売されました。英語版発売にあたり、Handsome Jackの中の人、John Lovickがeditしたそうです。

スペイン語→英語に訳された本ゆえに非常に平易な英語で書かれており、マイイングリッシュイズベリーバッドではなかった。言語的には理解しやすいものでした。なお、理解できたからといって、すぐにできるようになるような代物ではない模様。

Dani DaOrtizというと、最近はかなり商品を乱発している印象があり、そこまでしっかり構成されていないレクチャー(レクチャーすらアドリブ感がある)などもあったりして、演技、解説共に「乱雑さ」の印象が非常に強かったのですが、本書はそんなことがありません。あのDaOrtizの各種サイコロジカルな策略が文章によって丁寧に解説されています。思った以上にしっかりと。ベリベリグッドでした。

この本のここがオススメ

「これはずるい!!」と読んでて何度か実際に言いました(笑)そういう策略がたくさん載っています。そこが最大のオススメポイント。彼の土足でどんどん他人の家に入っていく感じのスタイルは若干感じるのも事実ですが、文章で策略を読む限りだと結構マイルドな印象を受けました。

詳細な目次や内容については、Denis BehrのConjuring Archiveに任せますが、これまでいくつか映像でDaOrtizの作品を見たことがある方にとっては、「あぁ、あのときのあれってそういうことなのか!」とか「あぁ、そういう背景、理論があるのか!」と膝を打ちながら見られると思います。そういう意味で、この本が初見、というのは避けたほうが良さそう(そんな奇特な人たぶんいないと思うんですが)。少なくとも先に演技はいくつか見ておくべき。

本書の中には表向きのデックでカードをフォースするとか、観客がデックを手にもって1枚ずつ配っていく場合にフォースする、みたいなほんまにできんのか?みたいなのも含まれるんですが、確かに読む限りはできそうではある。もちろん大量の練習、トライアンドエラーを経て、自分の中で腹落ちするハンドリングやタイミングを身に着け、自然にできるようになったら、ですが。

全編通して、DaOrtizはマジシャンの態度(Attitude)が大事だ、と何度も何度も伝えてきます。(幼いころからフラメンコを踊ってた、みたいな環境で育ったがゆえにそのキャラと態度許されてるやろ、みたいなツッコミは、どうしてもしたくなりますが。)その「態度」によって、適切な制約やサブリミナルな制限を与え「自由に選んだ」と思わせる策略がいくつも載っています。本の中にはいくつか恐ろしい表現もあり、「現実を歪める(distort reality)」みたいなことも書いてあります。PM Methodというパートです。個人的にはここが一番読み応えありました。

なお、割と言語依存性の高い(ように思える)策略もいくつかあるので、それは日本語ではそのまま翻訳するだけでは通用しなさそうです。したがって、この類のテクニックを、日本語という言語で、日本の文化・社会のコンテクストの中で、どういうキャラクターで臨むか、ということは正直自分の中でもよくわかっていません。(Joseph Barryとかは割と参考になるな、とは思いますが。)このあたりは、何年もかけてトライアンドエラーを経てつくっていかざるを得ないでしょう。という理由で、試行回数を多くできるプロの方は、この本は読んだら血肉になるものが本当に多そうです。いやはや、アマチュアは厳しいぜ。

本の最後のセクションはトリックの実例と共に解説された手法の使い方を確認できます。最後に良い復習になります。私の大好きな”Triple Intuition”(以下動画参照)が解説されてますので、それはオススメ。あと"The Trick That Can Be Explained”も面白かったです。(cannotじゃない)

ここがイケてない!

相変わらず基本褒めてきましたが、イケてない点もいくつかあります。
まずクレジットについてはあまり期待しないほうがいいです。まぁDaOrtizは割とクレジットに言及しないイメージがあるのですが、やっぱりそうでした。似てること他の人言うてなかったか?と思うところも実際ありましたし。ひどいのは「これは私の創作でないので完全な解説はしませんが、私のアイデアを追加したものを簡単に説明してますね」(超雑訳、p.106あたり)的なことが書いてあるのに、それが誰のオリジナルなのか言及してなかったところです。

次にイケてないのは値段。スペイン語原著はDVDまでついて45ドル。今回の英語版は99ドル、ということで、英語圏のマジシャン全員がスペイン語できないことによって課税されていることに(笑)もちろん翻訳してくれたことの付加価値が載っていますから、そこまで文句はありません。しかし、 99ドルの本にしては、本の分量は少ないなぁと思うのが本音。最近購入したDavid Regalの本はこの本よりも安いですが、Regal本でDani本を叩き割ることができるくらい、内容の総量と重量が異なりますw

内容面で懸念もないわけではありません。観客に結構心理的な負荷をかける策略も多いので、やっぱり人によっては終わったあと気持ち良い感情が残らなさそうです。まぁ、これがDaOrtizの評価が分かれる理由かもしれません。たとえば、マジシャンではなく客が間違ったことにする策略もいくつかあります。土足で場を踏み荒らしていく感じのあのスタイル、個人的にはもうちょっとマイルドにならんのか?その態度は逆に惜しくないか?と感じてしまうのですが、それは私が日本人だからなんでしょうか。客が言ったことガン無視しているように見える瞬間もあるので、ああいう態度を取られると「は?」と正直思ってしまうんですよね…。ベリベリバッドですよ。とはいえその不満を上回る不思議な現象をバンバン起こしてはくれるんですが。
ということで、まとめると、DaOrtizの作品にある程度親しんでいる方で、彼の策略について落ち着いて理路整然とまとめられたものを読みたい、という方にはオススメな本です。このレビュー執筆現在、彼のレクチャー映像”Borrowed Deck Miracles”を視聴しているのですが、それも良い復習になっています。はちゃめちゃな印象はさらに増しましたが(笑)

国内だとMAJIONさんで取り扱いがありました(2023/2現在はSOLD OUT)

アフタートークは今回ないけど…

アフタートークは今回はありませんが、Apple Podcastでも聞けるようになったみたいです。ひとつよしなに。気ままに更新します。


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