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Review#8:Trabajando en Casa (Dani DaOrtiz)

今やスペインマジックの代表格であるDani DaOrtizが2015年に出版した本。スクリプト・マヌーヴァ社より日本語に翻訳されたものが2018年にebookとして発売されました。今回のレビューはその日本語版を読んだ感想です。
なお、出版元のGrupokapsでは映像付で、理解を深めるためにショーが見られるらしいのですがそれは未見。なぜこの映像がマヌーヴァから販売されていないかは不明。

最近スペイン語を勉強しているのでやっと意味がわかったのですが、"Trabajando en Casa"は"Working at home"という意味です。Daniの「家というホーム空間でマジックするのが一番だよね」という思想にもとづき「じゃあどどんな現場もホームグラウンドに変えちまおうぜ」という発想で書かれた演技論ということみたいです。

日本語版発売当初に一度読みましたが、Ascanio本やDaniの本”Freedom of Expression(2009)”(リンク参照)を読んだり、Borrowed Deck Miraclesを視聴したりした今、より腹落ちするところがあるかな、と思って読み直しました。で、結構腹落ちしました。

面白かったポイント

Daniの演技を見たことがある方、特にUtopia(2011年発売DaOrtizの4枚組DVDセット)のDisc 1を見たことがある方は一度読んでおいて損はないでしょう。特に本書の第1章、第3章はどのようなマジックをする方にとっても役立つ内容です。間の第2章はスクリーンを使うケースなど、かなり実践的な内容で、プロの方にはぴったりです。

個人的に刺さったのは、第1章の「21分ルール」と第3章の「ファンネル・エフェクト」です。
「21分ルール」の中ではDaOrtizのショー構成が分析されており、これは学びが多い。彼自身はカードマジックしか演じませんが、どういうトリックを選択するかという根拠の説明は、なるほどと思わされます。演目の間で区切りをつけないためのtipsや、スタンディングオベーションの引き出し方も興味深かった。
「ファンネル・エフェクト」では、”Triple Intuition”と”The One”という彼の作品を例に解説されていて、マジックの構成の仕方として非常に有効だな、と勉強になりました。なお、この作品はいずれもUtopiaにあるのでやっぱりあれを見てからのほうがよいです。(さらに言うと、The OneについてはFreedom of Expressionを読んでたほうがより理解が進みます。が、必須ではないです。)

ちなみに読んでて最もビビったのは、第1章に出てくるレナート・グリーンの発汗対策(p.40)です。誰かこれやってみてほしい。

気になった点は…

以上のように、基本的に良い内容ですし面白く勉強になります。しかしながら、全体を通して、懐疑的に読まなくてはならないな、と思った点もあります。というのも、この本で書かれている理論はDaniが書いたという事実です。思い出してください、Dani DaOrtizは、カードマジックだけで生きていくことを決めた狂気のパフォーマーです。カードだけで70分以上のショーをやる、というルールを自ら課して、それをやっている化け物です。レナート・グリーン、デビッド・ウィリアムソン、ホアン・タマリッツの薫陶を直接受けて生まれたキメラのようなマジシャンです。そんな彼が、キャリアから生み出した帰納的な理論のすべてが、誰にでも当てはまるわけではないのは想像に難くないでしょう。もちろん、普遍的に当てはまるように理論化はされているように見受けられますが。あと冒頭のまえがきで、Gabiがちゃんと「そのままは当てはまらんよね」的に注意喚起してくれています。

それと、Freedom of Expressionのときもそうでしたが、クレジットは相変わらず適当です。基本的に直接習ったものしかクレジットされていません。
本書を読んでて以前からの疑問がやっぱり拭いきれなかったんですが…DaniってAscanio読んでるんでしょうか。いや、さすがに読んでるとは思うんですが、内容覚えてるんでしょうかw というのも、第3章ってかなりアスカニオが言っていることと重複するところが多いにも関わらず、一切名前が出てこないのです。例えば、「現象の柱」「観客に敬意を表しながら教育する」のところとか、普通にアスカニオの言ってたことほぼそのままな気もするんですが。以前PodcastでDaniのインタビューを聞いた際、Tamarizの本は実は一度も読んだことがない、と言っていて、基本的に彼は口伝で直接手品を学ぶスタイルっぽいのもちょっと気になるところです。まぁ、Gabiや他のマジシャンが査読したときにツッコまれてそうなもんですが、問題なし、という判断なのかな。ここ以外にも第3章の「スリー・ルール」を読んだとき、Tommy WonderやHelder Guimaraesも同じようなこと言ってなかったか?とも思いましたが…。

まぁ、なんだかんだ言いながらも、ここで書かれているようなことをちゃんと自分の経験から帰納的に導き出しているところはさすがDaOrtizです。

はいはい、クレジット警察乙!とか言われそうですが、そういった重箱の隅をつつくようなことを言いたかったり、読んでいないことを批判したかったり、というわけではなく、「過去既に議論済み、指摘済みのことを今更、新しい発見や法則のように言われると冷める」ってのと、「学ぶ側にとってもタイムロス」になることがあるので、やめてほしいな、というメッセージです。まぁ、どうせ私のような脳みそだと忘れてるので良い復習になるからいいんですけど。

いやぁしかし、“The One”とか完全に現象忘れていたのでUtopiaのDisc1を久々に見直したんですがやっぱりDaOrtizはバケモンですねー。タイミングとかミスディレクションとかもそうだし、現象をはっきり見せるための強調(コントラスト)がやたらと上手です。作品の構成も見事でした。

ということで、DaOrtizを学びたい、という方は必読です。日本語ですし分量もそこまで多くないので、おすすめ。Utopiaもセットで見たほうがいいのは書いた通りです。余裕がある方はReloadedもどうぞ。

予告編(全部スペイン語)


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