第三章:将来的に実用化されるテクノロジー
前回の第二章でご紹介した BtoB営業組織を取り巻く、顧客行動の変化を起点とした変化のトレンドには、第一章の技術的要素を中核としたテクノロジーの変化が付随してきます。
第三章では、2030年またはそれ以降の特に営業領域での台頭が予期されるテクノロジーをご紹介します。
顧客のデジタルツイン
デジタルツインとは、現実のものがまったく同じように動作するように設計された仮想のオブジェクトやシステムです。いわば、現実世界のオブジェクトを IoT などを用いた大量のデータをもとにそのまま仮想空間上で再現したもので、予測やシミュレーションに活用することができます。主に、製造業や防災等の都市計画に用いられていて、例えば、東京都はさまざまな社会問題解決のため「デジタルツイン実現プロジェクト」に取り組んでいます。
加えて、近年注目されているのが、「顧客のデジタルツイン」です。
顧客のデジタルツインは、自社で設定した顧客ペルソナやオンラインとオフライン両方のやりとりを含むさまざまなソースからのデータに基づいて、顧客の動きをシミュレートする技術です。静的なシミュレーションとは異なり、顧客のデジタルツインは動的な生きたデータセットです。
このような顧客のデジタルツインによって得られた示唆は、主にプロダクト部門や顧客体験の向上を担うカスタマーエクスペリエンス(CX)チームにフィードバックされ、顧客行動のシミュレーション、または行動の裏にあるコンテクスト、将来の行動予測に活用されることが見込まれています。
顧客のデジタルツインに紐づくデータソースやその活用シーンは以下のようなものが挙げられます。
データソース
デジタル及び物理的なやりとりのデータ
IoT やスマートカメラ
市場調査や顧客の音声記録
センチメント分析やテキスト分析などのソーシャル分析
活用シーン
製品・サービスの改善及び CX向上
長期的な契約の促進
顧客行動の予測
新たな収益化モデルの策定及び更新
上記のデータ、インサイトに基づく顧客のデジタルツインは以下の図で示される循環を形成します。顧客と長期的及び価値ある関係を形成するための顧客像(CX CORE)となるペルソナを定義し、より優れた顧客体験の設計をします。
営業においては、価値の提案機会やリスクの予測などが活用事例として考えられます。
顧客の行動をシミュレートする機能により、顧客が最も製品・サービスに興味のあるタイミングでアプローチをかけたり、解約のリスクが発生する前に諸問題の解決に動くなど、いわば未来に起こりうる事態を先読みして動くことができるようになる可能性があります。
デジタルヒューマン(AIカスタマー)
AIカスタマーとは、人間に代わって購買活動を行う AI搭載の機械のことを指します。機械が人間のデジタルアシスタントとして何かをする例は既にいくつかあり、皆さまの身近な生活の例では、Siri にアラームをセットしてもらうこと、Googleアシスタントに文章を読んでもらうことなどが挙げられます。このような AIカスタマーは広がっており、購買活動を代替することもそう遠くない未来に起こると予想されます。
Gartner社の調査では、2030年までに AIカスタマーからの総売上は全体の20%を占めるようになると、経営者を含む意思決定層が考えていることが指摘されています。また、同社の調査では、AIカスタマーには、以下の図に示される3つの発展が見込まれることが分かっています。
営業においてはもちろん、AIカスタマーに対応するための体制を整える必要があると考えられます。人間が顧客体験に介在しやりとりをするのか、あるいは次に紹介する「AIセールスマン」が人間に代わって自律的に対話をする可能性も考えられます。このケースにおいては、AIカスタマーに対応して AIセールスマン との間にて購買活動が行われるようになると予想されます。
デジタルヒューマン(AIセールスマン)
デジタルヒューマン(AIセールスマン)とは、人間と対話できるように設計されている AIアバターです。AIセールスマンはチャットボットやデジタルアシスタントを超え、言語によるコミュニケーションに加え、顔のジェスチャー(ウインク・うなずき・眉をひそめるなど)の非言語的合図を介して会話ができるようになっています。
Gartner社のレポートでは、2026年までに BtoB における買い手の半数が購買プロセスで AIセールスマンとやりとりをするようになると予測しています。実際に AIセールスマンが話している動画を見ると、説明がなければ生身の人間が話しているとも受け取れるレベルで人間らしい会話が実現しています。
営業においては、AIカスタマーへの応対や、人手不足に対する切り札として AIセールスマンを営業プロセスの一部で起用する事例が出てくる可能性があります。
一方で、職業代替性についてはシドニー大学上級講師のマイク・シーモア氏は、デジタルヒューマンがすべての役割において人間にとって変わることはできないと述べており、当面はあくまで人間の補佐役として活用が進んでいくのではないかと想定されます。
次回
本記事では、営業組織を取り巻く環境変化を促進することが予想される将来的なテクノロジーに焦点を当て、ご紹介しました。特に営業組織の責任者やプロダクト部門、カスタマー部門などはこれらテクノロジーがもたらす変革の可能性を認識しておくこと、また今後上記のようなテクノロジーが営業プロセスまたは、サービス改善のプロセスにおいてどのように位置付けられ、また比重を占めることになるかを想定しておくことが大切になってきます。
次回、第四章では営業プロセスやオペレーションの変化を含むさらに長期的なトレンド、またその変化の具体例をご紹介します。