見出し画像

第一章:AI 技術要素と営業における実用化例

AI の技術要素には大きく分けて下記の6分野が存在します。2024年1月現在、営業においてそれらの技術要素が実用化されているかを見ていきます。

AIの主要な技術要素

まずは「機械学習」に焦点を当てて実用化例を見ていきます。

機械学習

機械学習は、大量のデータを分析し、データ内のパターンや規則性を見つけ出すことです。また、見つけ出したパターンや規則性を利用可能としたものをモデルと呼んでいます。

機械学習は、学習に利用するデータや、データから得たい知見によって、下記の6種類に分かれます。

①:回帰

1つ以上の入力値と出力値のデータを学習することにより、未知の入力値に対する出力値を予測するモデルを構築します。

例えばですが、ウェブ広告を配信している際に、入札単価、配信時間、商品特性を入力として、その広告による売上のデータを学習することで、広告配信の方針ごとに期待される売上を予測するといった利用が考えられます。

②:分類

数値予測と同様に、1つ以上の入力値と出力値のデータを学習することにより、未知の入力値に対する出力値を予測するモデルを構築します。ただし、分類予測の場合は、出力値はあらかじめ設定した有限個のラベルのいずれかであり、対象とする入力データにどのラベルが付けられるべきかを予測します。

例えば、SaaS のサービスを運用において、直近のユーザーの行動を入力データとし、3ヶ月以内に解約したかどうかの2値のラベルを出力データとして学習することで、特定のユーザが3ヶ月以内に解約しそうかを判別すといった利用が考えられます。

他にも、画像認識では犬・猫・鳥などのクラスに対して、画像のオブジェクトを識別し、画像内の特徴量などの法則をもとに、新たな画像をいずれのクラスに属するのかを予測します。2つのクラスでは、迷惑メールか否かの分類等もできます。

③:次元削減

次元削減とは、多数の項目のデータから結果を予測する際に、判断に利用するデータ項目を減らす手法です。もともとは、学習の計算量を低減させる、あるいは、不要なデータ項目を学習してしまうことによるノイズの抑制のために利用されてきました。また、多数のデータ項目の状態では、人間がデータを見て、その妥当性や判断を行なうことは難しいため、次元削減をすることで、判断がしやすくなるかもしれません。

例えば、性別、年齢、年収など、多数の顧客属性をもった顧客に対して、手法を変えてアプローチした場合に、各項目とアプローチ結果に対して相関が見えないということがあるかと思います。その場合に、多数の顧客属性から、アプローチ結果と、次元削減によって作成された項目であれば、相関が確認できるという場合があるかもしれません。

このような指標をもっていると、市場の状況が変わったなどの洞察を、人間の目でも得られる可能性があります。

④:クラスタリング

クラスタリングは、入力されたデータを、データ同士が近いものを集めてグループ分けするものとなります。つまり、前述の分類のようにあらかじめ分類するラベルが不明であっても、類似する群にデータを分けることができます。

例えば、アプローチすべきユーザの特性が分からない場合でも、複数のクラスタに分けた際に、分析した結果、対象としたいユーザーは特定のクラスタに多いといった傾向が見つかる可能性があります。

⑤:レコメンデーション

ある事象と同時に発生している(共起と呼ぶ)ことが多い事象を提示することを、レコメンデーションといいます。この手法は、既に色々な形で実用されています。例えば、Google で「映画」と検索しようとすると、同時に検索されることが多い「上映中」というキーワードがレコンメンドされます。

Amazon のような ECサイトでは、過去の購入履歴から、こんな商品に興味はありませんか?といったレコメンドが表示されることも多いです。

⑥:異常検知

正常な状態を認識しておくことにより、一定以上、正常な状態と異なっているものを異常として検知することを異常検知といいます。言葉にしてしまうと当たり前のことですが、近年のセンシング技術、解析技術の向上により、人間では到底不可能な精度やスピードで実現することができます。

例えば、工場の生産において、製品の画像から不良品の検出をする、クレジットカードの利用履歴から、通常と異なる利用を検出することで、不正利用の可能性を検知するといった形で実用化されています。

自然言語処理

自然言語処理とは、人と人とがコミュニケーションに利用する言葉を解釈する処理のことを意味します。普段、誰かと会話をしている際には意識することは少ないかもしれませんが、普段会話で利用している自然言語には、意味を解釈する際には曖昧な表現や構造が含まれています。そのため、機械に正確に自然言語の意味を解釈させるのは、非常に難しい処理となります。

この分野においては、ChatGPT、Bert に代表される大規模言語モデル(LLM)という手法が一躍脚光を浴びています。

やや込み入った話になりますが、LLM を使うと自然言語の意味を解釈できるようになったのかという点についても、専門家によっても意見が分かれるようですが、自然言語で入力した文章に対して、人間が見てそれらしい返答を文章でできるようになりました。

自然言語の利用は多岐に渡りますが、LLM の登場により、文章の要約、文章の作成など、これまで人間しかできないと思われていた処理も実現できるようになってきました。Gartner社の調査では2025年までに大企業ではメッセージの30%が生成系AI から作られたものになるとまで予測されています。

画像認識

画像の処理も機械が実施することが難しかった領域の1つです。機械にとって画像とは、画素の集合であり、近傍の画素を考慮した計算をするなどにより、画像をぼかすといった画像処理は実現できておりましたが、画像にどんなものが写っているかといったことを認識することは困難でした。

近年は計算基盤の強化の影響もあり、深層学習(Deep Learning)により、画像認識の精度が飛躍的に向上してきています。

例えば、人間が画像を見て、犬の写真か、猫の写真かを判別することは比較的容易ですが、一昔前の画像解析においては、精度の高い判別は困難でした。しかしながら、深層学習の利用により、このような処理を高精度で実現できるようになっています。

顔認証、自動車の自動運転など、画像認識の利用は、一層、広まっていくと思います。

音声認識

画像認識と同様に、深層学習の利用により、精度が向上したものが、音声認識です。前述の自然言語処理の技術の進歩とともに、身近で利用されるようになっています。

例えば、Amazon の「Alexa(アレクサ)」、Apple の 「siri(シリ)」、Android の「Googleアシスト」などの音声アシスタントは、その代表的な活用例です。また、通話データの文字起こしといった使われ方も増えてきています。

推論・探索

既知の事実やルールから新たな知識や答えを導き出す技術です。1950年代後半〜60年代に起こった「第一次AIブーム」では研究の中心として注目を浴びました。

推論とは、ルールベース推論に基づいていて、具体的に最も基本になっているのは三段論法(これは「ソクラテスは人間である。人間は死ぬ。よって、ソクラテスは死ぬ」という三段階で結論を出すもの)です。特定の問題に対して、専門家のような受け答えをするエキスパートシステムなどに活用されています。

探索とは、データの集まりから条件に合うものを見つける手法です。推論の基盤となる技術です。具体的には、麻雀の AI が切る牌を決定する(「自分の捨て牌がこれで、他者の捨て牌がこうであるときに、最も点数の高い役に向かうためにはこれを切る」)ときなどに使います。ゲームに使用されているゲームAI などに活用されています。

営業の分野では、過去の取引履歴をもとに案件毎の成約確率を算出しフォーキャストを出すことに活用されています。

データマイニング

膨大なデータの中から有用な情報や知識を発見する技術です。例えば、ビッグデータ分析やビジネスインテリジェンス(BI)などがあります。データマイニングは、上記1〜5のベースとなる技術でもあります。

営業においては、自動記録、商談分析、ユーザーの質問や疑問に応対するチャットボットでの活用が見込まれます。

次回

本記事では、現在どのような AI の技術的要素が存在し、どのように機能しているのか及び、営業での身近な活用例などをご紹介してきました。

次回は、海外の調査機関等のデータをもとに、BtoB営業が中長期的なトレンドのなかでどのように変化し、各企業がどのような変革を求められてくるのかについて解説します。