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営業部におけるAI活用の未来。AIで消える仕事・消えない仕事

ChatGPT をはじめとするジェネレーティブAIの急速な実用化に伴い、営業領域においても AI の活用可能性が日本のみならずグローバルで注目されています。

日本では労働人口不足の課題感が強く、特に人材が不足していると言われている営業では、AI活用が業務効率化の打ち手として必須になってくるでしょう。ただし、AIにも強みと弱みがあり、AIによる業務の代替が可能な領域と、人が価値を発揮し続ける場所がそれぞれ存在すると思います。本記事では、AIの得意不得意を分析しながら、今後営業組織と個人に求められる役割の変化や、人が注力すべき領域について考察します。

営業の省力・無人化が進む未来

日本では今後100年で人口が半減し高齢化も進むなかで、ベースとなる労働供給が減少していくことが見込まれます。

日本の労働力不足(出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」)

中でも特に営業職における人材不足は多くの企業で課題となっており、生産性向上に向けた省力化・無人化の傾向は、AIの浸透でいよいよ待ったなしで進んでいくと言えるでしょう。
ただし、合理性や正確性の点で優れている AI ですが、全ての業務を完全無人化できるかといえばそうではなく、絶対的に人間由来の付加価値の提供を必要とする領域もあると考えられます。

人材が不足している部門は営業職がトップ(出典:エンジャパン「人手不足の状況について」)

AI の技術要素と多様なユースケース

まず、そもそもの基本について立ちかえると、AI は「人工知能」の意味をもつ言葉です。その名が意味する通り、人間の脳が普段行っているような思考や学習、認識、予測などの活動を、テクノロジーを使用して人工的に再現できる点に強みを持ちます。

そして、その種類は大きく6つに分類されます。(既にご存知の方は、「AIの強みと弱み」まで読み飛ばしていただいて大丈夫です!)

①:機械学習

データからパターンやルールを自動的に学習する技術です。教師あり学習を行なった上で、未来を予測する技術の「回帰」や、何かを分類するアルゴリズムの「分類」、教示なし学習で勝手に分類してくれる「クラスタリング」、商品や情報をより個別的に提示する「レコメンデーション」、イレギュラー発生の検知機能をもつ「異常検知」など、実用化例も幅広いです。

②:自然言語処理

自然言語(人間が話す言語)を理解や生成する技術で、近年では高精度な機械翻訳ツール「DeepL」の登場やGoogle検索エンジンの検索精度の向上により、コンピュータが長文の文章を的確に処理できるようになってきました。

③:画像認識

画像や動画から物体、人物、場所、動作、表情などを識別する技術です。例えば、顔認識によってスマートフォンのロックが解除されたり、無人販売店での安全確認に利用されているのがこの技術であり、他にも自動運転、がん細胞の検出といった幅広いユースケースがあります。また、リアルタイム化も進んでおり、リアルタイムに表情を分析するようなツールも出てきています。

④:音声認識

音声をテキストやコマンドに変換する技術です。身近なコンシューマー向けの活用例としては、Amazonの「Alexa(アレクサ)」をはじめとするスマートスピーカーや、Appleの「siri(シリ)」、Androidの「Googleアシスト」などの音声アシスタントが有名です。

⑤:推論・探索

既知の事実やルールから新たな知識や答えを導き出す技術です。1950年代後半〜60年代に起こった「第一次AIブーム」では研究の中心として注目を浴びました。

推論とは、多数のルールを用いて矛盾のない答えを導き出す手法で、具体的に最も基本になっているのは三段論法(これは「ソクラテスは人間である。人間は死ぬ。よって、ソクラテスは死ぬ」という三段階で結論を出すもの)です。特定の問題に対して、専門家のような受け答えをするエキスパートシステムなどに活用されています。

探索とは、データの集まりから条件に合うものを見つける手法で、推論の基盤となる技術です。具体的には、麻雀のAIが切る牌を決定する(「自分の捨て牌がこれで、他者の捨て牌がこうであるときに、最も点数の高い役に向かうためにはこれを切る」)ときなどに使います。ゲームに使用されているゲームAIなどに活用されています。

⑥:データマイニング

膨大なデータの中から有用な情報や知識を発見する技術です。例えば、ビッグデータ分析やビジネスインテリジェンス(BI)などがあります。データマイニングは、上記①〜⑤のベースとなる技術でもあります。

これらの技術を組み合わせて、既にたくさんの分野でユースケースが実現しています。

AI活用のユースケース

AI が得意なこと・不得意なこと

ただし、AI には強みと弱みの両方があります。

AIの強みと弱み

AI の強み

  • データ処理と分析:AI は大量のデータを高速に処理し、パターンや傾向を抽出することが得意です。

  • 精度と一貫性:AI は高い精度で作業を実行し、そして一貫性があります。人間に比べてミスやエラーが少なく、与えられたルールや手順に忠実に従い、タスクを確実に実行することができます。

  • パターン認識と予測:AI は複雑な相関関係を認識し、将来の動向を予測することができます。

また、AIには弱みもあります。

AI の弱み

  • 創造性:機械は自ら目標を選んだり、創造的に思考することができません。

  • 感情と共感:人間的なサービスを求められる分野では、情緒的な要素や人間らしさを再現し、人間同様に交流ができるまで技術を高めることは難しいでしょう。

  • 器用さ:手先の器用さや目と手の正確な連携が求められる複雑な身体的作業は、AI とロボット技術では再現はできません。

優秀万能に見える AI ですが、”創造性” “共感” “器用さ” には弱く、これらが求められる仕事は人の手に残る、というのが我々の見解です。AI の得意不得意領域を分解すると明らかに、自動化が進みやすい領域とそうでない領域があります。

営業はオペレーションが消える。価値を作るために組織と個人に求められるものは?

すでにAI活用によるオペレーションの自動化が進んでいる

21年後半に実用化が進み、営業領域で注目を集めるテクノロジー「Revenue Intelligence」は、営業担当の日々の活動に加え、マネジメント業務の自動化が議論されるレベルの技術をもちます。豊富な営業データを読み込むことで、営業担当には推奨行動を提案し、マネージャーにはパイプラインの健全性についての洞察を与えたり、案件レベルでのリスクとチャンスを検知・報告したりといった機能を備えます(Revenue Intelligence に関する記事はこちら)。

データが貯まれば貯まるほど、顧客にとって最適なアクションのタイミングやそのアプローチ方法がデータドリブンに特定できるようになるので、案件毎の指示だしや確認、進捗管理といったこれまで行っていた業務自体が必要なくなる可能性があります。ワークフローがAIにより自動化されれば、将来的に人間がオペレーションを作るという工程がなくなります。

営業組織に求められること

Revenue Intelligence のようなテクノロジーの組織実装が進みAI活用が当たり前になれば、AIが学習するためのデータを組織的に持っていること、またその有用性が重要になります。データを蓄積できるようにオペレーションをしっかりと作り込む動きは引き続き強まり、組織的には顧客接点毎の個々のチャネル(テクノロジー)を管理する役割などが必要になるのではないかと予想しています。

また、機械による定型的・反復的な業務がオペレーショナルに自動化されるようになれば、人は通常の営業プロセスでは対処できない例外対応、契約業務、顧客との対話や交渉など高度な問題解決など、人間が介在した方が価値を発揮する部分を行うようになると考えられます。マネージャーの業務も、案件の進捗管理といったマネジメント業務から、人材育成やコーチングなど人材に主軸が移っていくことも期待できます。

個人に求められること

今後、人材不足の社会背景のなかで、AIは営業担当の業務を補完する存在として役割を強めていくことが予想されます。営業活動のAI化が進めば、個人には AI に指示を出して仕事をマネジメントする、また人が入るべき部分で人に対して創造性を持って対応できる能力が求められるように変わっていくと思います。

戦略、想像力、共感性が求められる時代がくると、人材の実力差が極端に表れるでしょう。個人としてアンラーニング、リスキリングしていく姿勢も重要になります。

最後に

今回は、AI が営業の自動化を行うことが当たり前になる時代に備えて、AI活用の波に取り残されないよう、「営業」におけるAIが出来ることとAIではなく人が価値を発揮すべきこと、営業組織に求められる準備について考察しました。自社の競争優位につなげるためには、まず第一歩としてAIが学習でき、信頼できるデータを持っていることが重要です。

データの蓄積・運用は組織横断の取り組みであり、かつデータが一定量貯まるまでは時間がかかりますが、その分、組織的な取り組みを推進する意思決定ができるかどうかが、10年後の競争力を左右することになると思います。
本記事が、営業業務にAIを活用しようと奮闘されている方のヒントになれば幸いです。