THE MODEL から少し離れてフラットに考えよう。AI時代の営業データを整える 4 つのステップ
AI が一部の営業業務を自動化することが当たり前の時代になりつつあります。こうした時代に自社の競争力を上げるためには、AI の学習に活用可能なデータを持っていることが何よりも重要です。今回は、AI活用のためのデータの蓄積・運用に向けたステップを解説します。
データの取得と業務プロセスの設計
データを蓄積するためのファーストステップとして、まず営業活動をデータとして取得する必要がありますが、データが何らかの形で作られるまでには、記録、収集、統合など、一連のフローがあります。営業の業務プロセスの中で、プロセスを進めると同時に自然とデータが収集される仕組みが作られていれば、抜け漏れなく、人の工数を取ることなくデータを得ることができます。
ITソリューションや AI に投資をしなくても、この枠組みさえ整えば、営業個人に割り当てられた商談データの入力負荷の軽減や、経理部門の計算・請求といった業務の効率化など、副次的な業務効率化の効果も見込めます。もちろん、信頼性の高いデータは AI が学習するのに適したデータでもあるので、営業の AI化に備える意味でも重要な役割を果たします。
さっそく、AI が学習可能なデータを蓄積する仕組みを構築するための各ステップを解説していきます。
AI活用のためのデータ蓄積・活用に向けた 4ステップ
ステップ1:営業プロセスの全体像をデザインする
まず、営業プロセスを構築することの目的に立ち返ると、それは、「組織の成果最大化」が大上段にあります。データを残すことももちろん大切ですが、使われない・使えないデータが残ることや、データを残すために現場の時間を不必要に奪うような設計は、手段が目的化している状態です。この前提のもと、理想的な営業プロセスを追求していきます。
上記のイメージから、営業に関するデータは至るところに偏在していることがわかります。一部門の業務データだけを取得したとしても、一連の営業活動の最適化は難しいです。
業務の全体像が描けたら、ソリューション(ツール)群の設定とオペレーションの設計を行います。業務効率を高めることでき、かつ、運用過程でデータが取得・蓄積できる設計である必要があります。
ステップ2:適切なデータを定義する
全体像の設計が完了したら、可視化すべき指標を算出するために、データを定義します。
データ定義が明確でないと、未入力、誤入力、データ項目の欠損など、AI による活用が難しいデータを貯めてしまう原因になります。例えば「商談の成立有無」を記録する際、Aさんは「口頭発注を受けたタイミング」、Bさんは「見積金額の承認が通り、顧客からの発注の合意に関する言質がそろったタイミング」であったり、入力されるデータに差分が生じます。正確なデータが揃わなければ、意思決定ができません。
成果最大化に向けた洞察を得るために、どのような項目がデータとして必要なのかを定め、組織内で統一の「データの定義」を設定しましょう。
ステップ3:デザインしたオペレーションを実装する
取得すべきデータの定義が決まったら、ようやくオペレーションの実装に進みます。
誰のどのようなアクションがトリガーとなるのか、どのタイミングでどんなアクションが必要か、データは自動で連携されるのかなど、詳細を詰めて、実際に業務オペレーションとして実装し運用します。
上の図は「ナーチャリング」における営業オペレーションを細分化したものです。顧客から取得する情報や相手のリアクションに応じて、営業担当がとるアクションには複数のバリエーションが存在します。これらの行動をデータとして蓄積できるように、ソリューションに落とし込みます。
また、細かい点ですが、営業担当の負担を減らし、かつ粒度が揃ったデータを収集するポイントとしては、自由記述をなるべく排除し、チェックボックスやラジオボックスなどの選択式項目とすることも重要です。昨今では音声識別技術も台頭しているので、自動記録の実用化も検討できるでしょう。
MA や CRM を導入している企業では、設計した営業全体のオペレーションが機能しているか、定義したデータが想定通りにつながっているかどうか、確かめてください。
重複する入力作業を排除することや、営業サイクルの中で取得すべきデータを項目化し、抜け漏れがあった場合は営業プロセスが先に進まないような設定をするなど、些細なムラを見逃さないための仕組みを最初に作っておくことが重要です。
ステップ4:プロセスの改善
実装が完了したら終わりではありません。オペレーションを一定期間運用し、取得されたデータを分析しながら、プロセス全体を改善していきます。
蓄積されたデータの活用の流れとして、まずデータの作られ方・見方が分かる担当者が分析し、顧客の予算や導入時期などの条件面、課題感、営業担当のアクションといった変数のうち、どの部分がその後の受注率やサービスの継続利用と相関関係を持つかを見つけます。
情報の関連性から営業活動のどの部分が顧客にとってサービス利用の障壁となっているのか、また成功のポイントとなるかを導き出すことができれば、根拠に基づいてプロセスを改善できます。計測やボトルネックの特定に割く時間を最小化し、改善策の策定や実行に十分なリソースを割くことが重要です。
ご紹介したように、4つのステップを全て実行するのはハードルが高いと感じるかもしれませんが、全てを劇的に一挙に変える必要はありません。まずは、自社営業組織の中で分業によりサイロ化・複雑化・重複している部分に重点をおいて、業務デザインの一本化から検討してみてください。
オペレーションの効率化を司る営業のさらなる進化
ここまで、データを正しく取得するためのハードルやアウトラインを解説し、自社でデータをフル活用するためには複数部門の連携が求められることは納得いただけたかと思います。組織を横断する全社的な取り組みの規模の大きさから、複雑性が高く難易度を上げています。
このような課題感から、グローバル企業では全社横断的な取り組みを進めるために、デジタル基盤の統合や運用を一括管理し、推進する役割として「Revenue Ops」というポジションが存在します。
次の記事では、組織横断のオペレーションの効率化の役割を担う Revenue Ops について詳しく解説していきます。
また、本投稿の内容を ITmediaビジネスオンラインにて、当社代表村尾の連載企画としてご掲載いただいております。記事では、データの中でも特にどういった性質をもつデータが、示唆を得て顧客体験を改善するために重要になるかを解説しています。
営業業務の効率化に「AI」は必須ではない より重要な「ある条件」を満たすデータ(2023年9月7日公開)