ナイジェリア国鉄旅 2
第1章 旅の出発はラゴスから
2019年4月19日金曜日の朝、どんよりとした空だが雨は降らなそうだ。長旅になることはわかっていたので、家の近くのスーパーで水や多少のお菓子を買い込んで、発車予定時刻2時間前の午前10時にラゴスターミナル駅に到着した。実は一人旅とはいうものの、ナイジェリア国内での私のボディガードである私服警官ローランドも一緒だ。彼は胸板が厚く、精悍な雰囲気を漂わせた30代後半の民間貸し出し警官で、2017年5月から私のボディーガードをしている。会社が定めたリスクの少ない特定エリアの外に出る時は、会社が休みの日も私服警官と共に行動することが会社のルールになっており、今回の旅はローランドに同行してもらうことになった。イースターの4連休でローランドも家族と一緒に過ごしたいだろうが、実は彼はナイジェリア南東部デルタ州ワリという街に家族を残しラゴスに単身赴任中で、ひとり退屈な4日間を過ごす予定だった為、好奇心旺盛な彼にとって人生初の鉄道に乗るというイベント、しかも時間外手当までつくとなればモチベーションが上がらないはずがない。実はローランドと一緒というのは、ボディーガード以外にもいろいろメリットがある。特に写真を撮ってもらいたい場合のカメラマンとしても重宝する。張り切っているローランドは早速ラゴス駅長に掛け合い、ファーストクラスの良い席を用意してもらうよう話をつけてきてくれた。まだ時間があるのでローランドと駅の外に遅めの朝食を食べに行くことになった。駅から歩いて3分ほどの路上でローランドと同じワリ出身のマダムが作るぺぺスープが彼のお気に入りだ。
食事を終えて戻ると、駅のホールはインフォメーションブースがDJブースとなりアフリカ音楽を流していた。乗客の殆どが終着駅まで行くのであろうか。見たところ殆どが北のハウサ族である。
本当かどうかわからないが、駅員は毎週ほぼ定刻に出るとはいうものの、12時になってもチケット売り場が開かない。そこで「出発が2時間遅れる」と、口コミで連絡が入る。一方自動小銃AK47を持った多くの警官がウロウロしていてヤバめなのかなとも思ったが、どうやら12人の武装警官もセキュリティーとして列車に同乗してカノまで行くらしい。これは頼もしい!
待つことさらに1時間、13:07にチケット売り場と改札がオープン。その瞬間に駅長からすでに日本ではほぼ滅亡した硬券の切符が届いた。さて、ラゴス駅のホームは1-5番線まであり、1番線の列車 B号車の17番と手書きで書かれている。B号車は前から2つ目の客車だ。
客車はこれまで見たことのない白と水色のツートンカラー。この車両が2台連結されていてファーストクラスなのだ。
エアコン車両なので窓は開かない。ここで二つのガッカリがあった。ベットになる寝台タイプを期待していたが、日本の特急列車のような少々リクライニングできる程度のシートであったことと、座席が180度反転せず、私の17番は、窓側であるものの、背中が進行方向になるということだ。
B号車の後ろのC号車は「Sleaper」と書いてあり、昨日見た年季の入った寝台車だ。こちらに乗せて欲しいと交渉するも、どうやらこの寝台車は12人の警官の休憩専用車両で、一般客は入れないとのこと。残念!でも寝心地だけ確認させていただこう。・・・・うっ!けっこう臭い。その後寝台車の警官が「一晩5000ナイラで貸してやろうか?」と、寝台席を売りに来たが、丁重にお断り申し上げた。
結局のところ、窓にヒビが入っていて全く景色の見えない座席もある中、まあラッキーだったと納得して、背中方向の座席で納得するとした。
さて、である。
エアコン車両というものの、全く電源が入っていないので蒸し風呂状態だ。発車までは外にいよう。
余裕をこいて大半の他の乗客と一緒に外で待っていた14:19に、突然先頭の気動車が大音量のホーンを鳴らすと、列車が動き出した。
「ちょっとまてぇい!」ホームにいる全員が一斉に怒号を上げて、動き出した列車に我先に飛び乗った。
ラゴスでいきなり置いていかれそうになってキモをひやしたが、相変わらず車内は蒸し風呂で、汗が噴き出した。
ラゴスを出発して3分後、列車は突然ストップ、なぜかバックして、またラゴス駅に戻ってしまった。なかなか再出発しないのでいつでも飛び乗れる準備をしながらプラットホームに下りてみると、普段着のニイちゃんが車両の下で何らかの調整をしていた。
そしてまた出発、3分走ってバックで戻る。意味がわからない。そんなことを3回ほど繰り返して、ラゴス駅で16時になってしまった。
この列車はキャンセルになるのだろうか?車内温度は間違いなく40度を超えている。汗だくで朦朧となり、そんなことを考え始めた16:06、エアコンに電源が入り急に車内が冷えてきた。よかった!息を吹き返すことができてきた。
そして4時間遅れの16:13、カノ行き列車は背中方向に向け、ゆっくりと4度目の正直の出発をしたのだった。