2021年ペルー大統領選の話(決選投票前)
ペルーの大統領選は決選投票になって、なんかようわからんペルー人と元フジモリ大統領の長女ケイコの決選投票になっている・・・くらいの情報しか持っていない方は多いかもしれない。
しかし実はこの決選投票、ペルー独立以来最大の決選投票で、ペルー国内では国家の一大事なのです。日本に届くニュースだと、背景がよくわからないので、今回はアフリカではなくペルーの話をなるべくわかりやすく書いてみましょう。
ペルー大統領は任期5年で再選なし、選挙の勝利には有効投票の過半数をとることが必要で、1回目の選挙で誰も過半数を取れなければ、2ヶ月後に1位と2位の2名で決選投票となるルールなのです。
今回は、4月11日の大統領選に20名以上が立候補し、ペドロ・カスティージョが票の19.099%を獲得してトップ、次点が13.368%のケイコでした。誰も20%に届かず、近年稀に見る、票が分散した選挙でした。
トップのペドロに至っては、直前の調査で支持率が3%に至っておらず、いわゆる泡沫候補として全く注目されていなかった人がいきなりトップになってしまい、「誰なんだ?あの人は?」状態だったのです。
得票した証拠を写真に撮って見せるとプレゼントをもらえる作戦を貧困層に大々的に行ったペドロ(もちろん違反だが、なぜか選管に見逃される)
ともあれ、ペドロとケイコでの決選投票が6月6日に行われることになりました。
ここで、トップのペドロはどういう人なのかを紹介しましょう。
彼はアンデスの山の中のチョタという小さな街の小学校教師(6年前から勤務実績なし)。政党は、ペルーリブレ。しかし、彼は党首ではないんです。ペルーリブレのトップは、2007年にこの党を立ち上げたブラジミル・セロンという男で、彼が糸を引いています。そしてこの党は旧フジモリ大統領時代に世間を震撼させたテロリスト「センデロ・ルミノソ」(共産党の理想のために暴力を使った=テログループ)がルーツで、党のトップ方針として、「マルクス=レーニン主義」と「毛沢東思想」をあげています。そして、ベネズエラを成功事例としてベネズエラ化を目指すと公言しています。つまり、共産党というかもっとヤバいマオイストなのです。
↑ この男が超過激な、ペルーリブレ党のトップのブラジミル・セロン
ペドロは演説で、①憲法の全改定 ②国産資源産業の国有化(国有化しない企業は法人税は利益の80%)③教育は大切なため、教員になりやすいように教員試験は撤廃、そして教員の給与は3倍にし、国家予算の半分を教育に充てる。残りの半分は国民の健康に使う(その2つで使い果たすのか?!) ④ペルーに存在するものは一切輸入しない ⑤富裕層の財産の貧困層への分配 などなどと言っています。ここで公約と書いていないのは、どこにも書かれておらず、彼が演説で言っているだけだからです。
つまり今回の選挙は、マルクス=レーニン(毛沢東)主義 x 民主主義 という構図なのです。そのペドロは選挙管理委員会での4回の直接討論会も拒否、ケイコは政策論争に持ち込もうとしていましたが、ペドロは「直接の討論はなしで、民衆に演説するだけ」「場所は自分の出身地のチョタじゃなきゃやらない」という条件をつけ、5月1日アンデスの山奥のチョタが舞台となりました。チョタへの山道、ケイコはバリケードで妨害され45分の遅刻となりました。
理路整然と政策を説明するケイコに対し、感情に任せて具体例をあげずに怒鳴り散らすペドロは、ライブ見る限り、私の目ではケイコの圧勝でした。
なぜなら、はっきりいってペドロは政策を考えておらず、「俺たちは貧乏なんだ!生活が苦しいんだ!金持ちの富裕層は不公平だ!」と感情に訴えるスタイルなので、具体的なことを聞かれると全く答えられないからです。例えば、「コロナのパンデミックをどう抑えようとしていますか?」には、「優秀な医者をたくさん連れてくる!」というのが答えだったり、「その財源は?」とか「誰を大臣にするのか?」と聞かれると全く答えられず、しかも逆ギレするので、ケイコとの政策論争はもちろんマスコミの質問は一切受け付けることをやめました。
深い政策論争ができないので、次の公開討論会をやろうとケイコが呼びかけると、どうしてもやりたくないペドロが指定してきた場所は、ケイコが収賄の疑いで収容されていた刑務所の中でした。(これはケイコは断るだろうというペドロの読み)しかしケイコは刑務所での討論会上等!とOKしたのはペドロにとって想定外で、今度は「刑務所は興味なし、次の公開討論は、両親同伴で行おう」と言い出しました。ケイコの父、元フジモリ大統領は今も収監されており連れてこれないからです。
ここでペルーのソーシャルエコノミックレベルを見てみましょう。
2019年の調査で平均世帯収入7万円以下のDクラスとEクラス貧困層が全国民の約60%います。彼らがペドロを熱狂的に支持しているのです。一方ケイコは、熱狂的なフジモリファンは相変わらず20%程度はいるものの、思いっきり毛嫌いして、ケイコにだけは票を入れないという層は70%にも上ります。
なので、ケイコに入れたくないからペドロに入れるという層も 収入の高いA〜C層に結構いるのです。
↑ クラス別の支持率(5月3日)
ペドロは具体的な政策なく理想(思いつき)だけを怒鳴り散らす・・・
そんなペドロが逃げ回る様子を見て、どちらかに決めかねていた層がケイコ支持にまわり、5月14日時点での両者の支持率の差はわずか2%になってきました。また、マスコミ(もちろん民主主義支持)が散々過去のテロ映像とベネズエラの現状を放映するので、このままでは逆転されると、ペドロは危機感を強めてきました。
街のあらゆる掲示板に「子供達のために未来を考えよう。共産党はダメ」
そこで、セロンの過激な党方針を表に出したら選挙に勝てないと、過去の左派政治家らが応援に集まりセロンとは別の政策を作り始めました。これは民主主義が維持されるやんわりとした無難な政策です。これに怒ったのは党首のセロン。「色々手を回して、立候補させてやって得票トップまで持って行ったのに、俺を裏切って政策を変えるのか!(そんなんじゃベネズエラ化できないだろ!)」
そして、4月の大統領選と同時に行われた国会議員選挙(定員130名)で37議席獲得して第一政党になったペルーリブレ党の中でも、当選するためには過激さを抑えた政策にした方が良いというメンバーと、党首のセロンの方針でいくべきだに二分、この当選した37人の中には4人のテロリストとセロンの弟もいるのだですが、彼らは、「もし方針をかえたら今後ペドロには一切協力しない」と、もう党が分裂しはじめました・・・
先の、ペドロが指定したリマ(サンタモニカ)の女子刑務所での討論会前日、ペドロは「そんな所には行かない。私はその時間にリマで新政府の計画発表する」と言い出しました。ケイコは「あなたが言い出したのだから、その時間に待っている。来てください。」と、ペドロが行かないと翻したにもかかわらず5月15日の15時に刑務所の門の前に作られた公開討論用の舞台(司会はテレビ局)で待つことにしました。
一方、同時間に、ペドロは政策発表の演説を始めた・・・はずが??
「なぜ皆、私を批判する?私が間に合わせだとか、私が政府の計画を持っていないとか。誰か、新政府の計画を持っているか?私に持ってきてください。若者よ、計画があるなら持ってきてください。医者の皆さん、計画があるなら見せてください。政策チーム(ブレイン)が作るのは古い。それはみんなが作るんだ!」
〜集まる貧困層群衆は 拍手喝采、そして頭を抱えて唖然とするサラリーマン テレビのコメンテーターも経済学者もアナウンサーも発狂寸前〜
通常は決選投票前に4回の公式の直接討論会をするのですが、選挙管理委員会はペドロが逃げ回っているので「今回は4回の公開討論会はできない。討論会は2回にする。」と言い出しました。なぜ、ペドロを擁護するのか?と国民が怒っていたら、選挙管理委員会トップのホルヘルイスは、過去にテロリストたちの弁護士をしていた思いっきり左寄りの人だったこともわかってきました。
選挙管理委員会トップはホルヘ・ルイス、左派の前ビスカラ大統領が指名
ペドロ側だけ金で票を集めても見逃されているわけです。
今後は
5/23 両陣営の政策チームだけの公開討論会
5/30 ペドロとケイコの直接公開討論会
6/6 決選投票の選挙
5/23のペドロ側の政策チームはまだ決まっていない。現在絶賛探し中(!?)
5/30の公開討論会、選挙管理委員会が指定した場所は、アンチケイコがもっとも多い南部のアレキパでペドロの土壌。この選管の場所指定も、う〜む。。
公開討論会の5つのテーマは
①国家改革
②経済回復と貧困解消
③新型コロナパンデミックの対応策
④インフラ整備と地方分権
⑤地方含む各都市の安全対策
5/14時点での世論調査(調査会社IPSOS)
ペドロ 43.6%
ケイコ 41.7%
わからない その他 14.7%
簡単にまとめてみますと・・・
政策がおかしかろうが、テロリストだろうが、貧困層60%の支持を得られれば、大統領になれてしまう直接選挙の恐ろしさ。
そしてペドロが政権をとれば、憲法改正して長期政権となり、民主主義を取り戻すにはミャンマーのように相当に血を流さなければならないだろう。
選挙まであと3週間。
ケイコが好きとか嫌いは別にして、民主主義・資本主義のためには、ケイコしかないのだ。
そんな背景もあり、毎日目が離せないペルー大統領選挙なのである。
参考(支持率)データ (P:ペドロ、K:ケイコ 調査会社IPSOS)
P K
4/19 42% 31%
5/3 43% 34%
5/7 41% 36%
5/14 44% 42%
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