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15歳の娘が男だと言い出した。(その5)

ドアが勢いよく閉められてから、一体、何週間が経過しただろうか。

本格的に、寒くなったある朝、娘Sは、視線を合わせず横を向いたまま
こう言った。
「ママ、サイズが合わなくなったから、新しい制服をかって」

サイズが合わない、という表現に違和感しかなかった。
中2から身長は伸びておらず、完全に成長が止まった彼女に
制服のサイズが合わないという現象が起きるはずがないからだ。
悪戯がバレて、これから怒られることを予感しているかのような表情のSが、
心細そうに突っ立ていた。
ここで余計な一言を言えば、また大きな喧嘩になりそうだと感じた私は、
「そう。。」
とだけ答え、彼女からの次の言葉を待つことにした。
「寒いから、スカートじゃなくて、パンツが欲しい」
(さっきはサイズが合わないから、って言っていなかったっけ?)
「わかった。じゃあ買っておくよ。」
「ママと、一緒に行く。試着したいから」
「はい、じゃあ、放課後学校で待ち合わせしようか。」
「うん!」

ホッとしているような表情を見届けるやいなや、ハンガーに吊るされた冬物の制服をチラッと見た彼女。
(今日は、とりあえず今あるものを着ていったら?)と言おうと思ったが、そう言われるのを悟ったかのように、急いで家を出ようとする。
寒いというのに、夏物の制服の上に、冬用のジャンパーをはおり、私の黒いマフラーを巻く。

刈り上げた短い髪ユニセックス体育着の短パンに、足元はアシックスの黒いスポーツシューズ、キーホルダーやマスコットなんて、1つもついていない真っ黒いだけのバックを肩にかける。

半年くらい前までは、制服も、私服もワンピースを着て、友達と出かけていた。
可愛いものが大好きで、ピンクの猫や
サンリオのシナモロールがカバンにはついていたはず。
そういや、最近、あの娘…ズボンしか履いていない。

玄関を出る彼女の後ろ姿は、年子の弟にとてもよく似ていた。
胸騒ぎしかしなかった。


続く



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