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乾いた海、山に棲む象〜中編〜|Spain, Montserrat

こちらの記事は以下の記事の続きです

【前編の要約】
Montserratの最高峰 Sant Jeroniを目指すパーティ結成


Montserratはかつて地中海の一部だった。それが隆起して山へと変貌した。

そんな話を聞きながら、長い年月をかけて大地が空へと築き上げていく過程を夢想していると、ジリジリと天に向かって成長するサグラダ・ファミリアに重なった。

サグラダ・ファミリア近景|Barcelona, Spain|2023

バルセロナに遺されたもの

サグラダ・ファミリアはバルセロナの街から飛び出して天に伸びており、およそどの方角からでもその存在に気付かされる。何処か既視感があるような気がしたのは、日本における富士山のような存在感を思わせるからだろう。

日本では成層火山型の三角形をした山を〇〇富士と呼ぶ慣習があるからか、Montserratがサグラダ・ファミリアのモデルになったと聞いて、それは幾つも突き出した形状についての話だと安易に解釈していた。

バルセロナ大聖堂の屋上から見たサグラダ・ファミリア遠景|Barcelona, Spain|2023

ガウディの建築群を見物する中でその表現の妙に感動し、創り手が後世に伝えたいと心に抱いていたことを僅かながら理解できたような気がしていた。

一方で、計算と実験を重ねてイメージを形にしてきたガウディが実在の事物の形状をただ真似るだけで済ますとは到底思えなかった。

実際にMontserratへ足を運び、ノコギリ山と称される奇岩群を目の当たりにしてナルホドと思ったのも束の間、Toniの「海の生き物の化石がよく見つかる」という言葉が気づかせてくれたわけだ。

ガウディが描いた地中海

そうか、海だったのか。
ならMontserratに草があまり生えていない理由には、塩分による浸透圧を選択的に調整する機能を持つ植物が優位に生えている背景があるのだろうか。あるいは雨が降ることで流れ出した塩気がどこかに溜まり、固まってできた岩塩を求めて山羊たちが集まってくるのだろうか。

などと考えが駆け巡るうちに、それまでの日々で眺めてきたガウディ建築群が走馬灯のように思い出された。

海の波を想起するガラスとブルーの壁の共演が美しいCasa Battloカサ・バトリョ邸の階段| Barcelona|2023
青い光が散乱する海面付近は青く、海底に潜るほど光が届かないCasa Battloカサ・バトリョ邸内部

Casa Battloカサ・バトリョ邸のファサードの装飾も海の珊瑚礁をイメージしたものだとか。そしてガウディのこだわりが目一杯に詰まった豪華な邸宅の出口に向かう前に、最後に目にするのは日本人建築家・隈研吾氏による見事な空間インスタレーションだった。

隈研吾氏による大量の鎖を使った見事なインスタレーションを眺めながら階段をゆく

鎖が揺れていようとそうでなかろうと、歩くごとに移り変わる光の反射が波間の揺れを思わせる。たった一つの素材で、こんなにも壮大な自然を表現できるのかと心底感心した。

ガウディはバルセロナの街を海に見立て、そこから隆起した大地に宿る『生命の樹』を表現しようとしていたのではないだろうか。

そう思い至ると、大気という海の中で海底火山を歩いているような錯覚に見舞われた。

思考の海から逃れつつ、乾いた大地を踏みしめ登る

Sant Jeroniの住民

Toniによると、昔は山頂の近くに山小屋レストラン?があったらしい。跡形もなく、もはや言われなければ知り得ない。
馴染みのある人しか知らないような話なのだろうか。

夢の跡地

吹き曝しの樹に何とも言えない切なさを覚えながら先へ進む。標高はさておき、この乾いた土にこれだけの樹が茂っているのは何とも不思議だ。
「もう随分と長いこと雨が降っていない」とToniがちょっと深刻さを漂わせながら言う。おかげで地表はカラカラ、黒いパンツの足元は極めて細かな砂で真っ白になっていた。

夏場は貴重な木陰になりそう

登山道はしっかりと整備されているものの、剥き出しの岩を歩く感覚は何とも心許ない。Monserratではほとんど地震に見舞われることがないそうだけれど、強風が吹けば煽られそうだ。

山頂まであとわずか

見事なまでに堆積岩が続く。
もう間も無く山頂というあたりに、小さな住民たちが居た。

岩肌に馴染む鳥たち

森の中で声を上げる鳥たちは巧妙に姿を隠すけれど、ここに居る鳥は姿を晒すことには頓着しないらしい。近づくと引きはするものの、人を恐れるというほどには恐れていないらしく岩肌をトコトコ歩いている。
前編に登場したスペインアイベックスと同じく悠長で呑気なものだった。

後で調べたところ、恐らくイワヒバリだと思う。

Alpine Accentor(イワヒバリ)|Monserrat, Spain|2023

イワヒバリ
学名:Prunella collaris(スズメ目イワヒバリ科イワヒバリ属)
英名:Alpine Accentor
保全状況評価:低危険種(Red List ver3.1, 2011)

イワヒバリ|Wikipedia

学名のPrunellaは「褐色の小鳥」、collarisは「首に特徴」を意味し、咽頭部に白い斑点が入っているらしいのだけど、残念ながらiPad mini6のカメラの解像度ではわかりづらい。けれど多様な羽の色による紋様がおしゃれな鳥で、しましまパンツを履いているようにも見える。

その名の通り、高山帯のハイマツ林や岩場に棲み、卵も岩の隙間に作った巣で育てるそうだ。


山頂にて

完全なる360°パノラマの清々しい眺望を見せてくれるSant Jeroni山頂の、ちょっとしたスペースの中央には立派なモニュメント、そして崖っぷちには転落防止の柵が設けられている。

Highest peak in Montserrat|Sant Jeroni|1,237 m alt
歩いてきた道とMontserratの岩の塊の向こうに見えるのは空か海か判別が付かない
Sant Jeroniから望む断崖絶壁と気象観測所?

Sant Jeroniから眺めると、この岩山が如何に奇怪な地形かがよく解る。
下方に見える大地に街や凹凸が見え、その近くに何かを阻むような絶壁が存在している。確かにクライマーには魅力的な土地かもしれない。

この特異な岩の塊、全部を指してMontserratという。その天に向かって突き上がる大地に立っているのだと、あらためて実感した。

左手はるか遠方には風力発電のプロペラ群も見える

地理・地形に興味があるなしに関わらず、目の当たりにすると驚嘆に値する光景だった。

to be continued……


動物に関する記載等、誤りがありましたら教えていただけると嬉しいです。

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