004 不思議の村のアルカナウィア
arcanum villaを知っているかね?
何を以ってして神秘や奇妙と言うか、その決まりは在って無いようなものだけれど、貴方が驚異や畏怖を感じたならば、それはきっとarcanaだろう。
そしてそのarcanaを構成する諸技術の一つひとつをarcanumという。
arcanum villa
はじめにやってきたソイツは、此処を自分のVillaにしようと言った。
別荘だと言うからには、ほんとうの棲み処もどこかに在るのだろう。それはもしかすると城のようなものかもしれないし、ただの洞窟かもしれない。
けれど、それについては知る由もない。
Mira
ソイツはヘンテコなものを幾つも創って、何か新作が出来上がる度にそれらをMiraだと言った。生み出した本人もびっくり仰天のヘンテコだと思っているらしいが、どこか誇らしげでもあった。
Miraというのはくじら座のオミクロン星の名であることは周知のことだろうが、その巨星が膨張したり収縮したりすることで明るさを変えるものだから、実は「びっくり」を意味する言葉でもある。
つまり奇妙でなんだか凄くて不思議で尚且つ素晴らしい!と思えるものをMira!と一言で称賛できる。
確かにヘンテコを発明する度にソイツの営みは変わっていったし、いつの間にか〈ソイツら〉になっていた。
さらにソイツらが増えたり減ったりする中で解ったことだが、どうやらソイツらの中でも一握りのものだけがヘンテコを生み出し得るようだ。
Miraは仰天するようなヘンテコというだけでなく、少なからず羨望を集めるものでもあるらしかった。
arcana
arcanumはMiraを生み出すためのれっきとしたお作法だ。
そして自然界のMiraをお手本にしてarcanumを見出すこともある。
arcanumを幾つか繋ぎ合わせ組み立てたものをarcanaと言うのだけれど、例えばたんすの引き出しから恭しく取り出され調合される薬なんかが分かりやすいだろう。
隠されていたあれこれを、刻んだりすり潰したり、混ぜたり煎じたり。そうして出来上がった秘薬は何がなんだか分からないけれど、良い塩梅にすると体がポカポカしたり痛みを忘れられたりする神秘的な力を持っている。
その色々をひっくるめた摩訶不思議な「何か」をarcanaと呼ぶ。
もしかすると魔術めいたものに感じることもあるかもしれない。そもそもarcanaとは門外漢にはよくわからない深遠な領域にあるものだから。
arcanavilla
そんなこんなで、その驚異に満ちた空間はarcanum villaと呼ばれるようになったってわけ。
その奇妙な家々が寄り集まって、また別のarcanaと組み合わさったりすることで、より一層複雑怪奇なヘンテコ仕掛けになった奇天烈がarcanavillaと呼ばれるようになったことについては、もう説明は要らないだろう。
なんだかよく分からないが、驚異の村ではなんとも絶妙なバランスでソイツらの営みが成り立っているらしい。
arcanuvia アルカナウィア
けれどいつしか、ソイツらは居なくなった。
何処からともなく現れて、そしてまた何処かへと旅立った。
そう、まるでViatorのように。
あとにはarcanavillaだけが遺った。
その不思議を寄せ集めた村は、確かに彼らが存在したという痕跡なのだ。
僅かな時をひと処で過ごし、ただ通り過ぎてゆくだけでなくarcanaやarcanavillaを遺して逝く。
それは単なる|旅人《ウィアートル》というだけでなく、それ自体arcanaに値するとされ、彼らの存在はarcanuviaとして語り継がれるようになった。
これはarcanuviaの起源、或いは終焉の物語だ。
興味の琴線に触れたあれこれを抽出・精製し、第一の人生を編纂しています。Festina Lenteの信条に則り、「もっとやれ」というサポートによる加速度の変化はありませんが、私の心は満たされます。いつもご覧くださり有難うございます。