関西の私立男子御三家はどこなのかという問題

1/18、19は共通テストである。全国的にはその認識であろうが、もうひとつ重要なイベントがある。
それは関西の中学受験の統一入試である。
当事者としてはもう20年ほど経っているわけだが、今でもあの日の緊張感と高揚感は蘇ってくる。医学部入試はどこか1校に受かればよいし、浪人もあるので失敗しても最終的にはどうにかなったと思うが、中学受験は一発勝負なので落ちていたらそのまま浮上できず勉強への意欲をなくし、医学部合格など夢のまた夢となっていたかもしれない。
そう考えると、あの日の幸運と成功が今の自分につながっていると言えなくもない。

さて、東京の私立男子中は、御三家というグループがある。
それは「開成・麻布・武蔵」の3校を指す。
この呼称は一般受験生やマスコミ、受験産業に長年強く浸透している。この3校は元々は東大合格に強い私立中高一貫のトップ3であったわけだが、年月を経るにつれて武蔵の凋落が目立つようになった。そのため、武蔵はもはや御三家ではないのではといった言説も囁かれることがあった。
かつての横並びの御三家の時代から、「開成>麻布>武蔵」と序列が出来上がり、しかもその間に他の有名校も交じるといった具合になっている。
それでも、いまだ御三家というタームは中身はそのままに変わらず頻用され、一人歩きしている状態だ。まるでそれ自体がひとつの学校かのような振る舞いである。

ここで、関西に目を移してみる。
関西も東京と並んで中学受験が盛んな地域だ(ちなみに実は都道府県別中学受験の割合の1位はもちろん東京、2位はなんと高知県である)。
灘を始めとした有名進学校が軒を連ねており、その競争の激しさは首都圏を凌駕する。
今回は、関西の私立男子中学校において、東京の「開成・麻布・武蔵」のような「御三家」はどこになるのか考察していきたい。
なお、選抜対象はあくまで男子校であり、共学は除外する。
そして関西とは、兵庫県、大阪府、京都府、奈良県であると定義する。

今回の考察で私は以下のポイントを重視した。
偏差値、大学合格実績
進学校の議論であるから言うまでもない。
以前も引用したことのある下記記事を参照した。少し古いデータだが、学校の実力は概ね変わっていないだろう。


灘と併願できるか
関西の中学受験の不動のトップは灘中であり、絶対王者だ。各有名塾はどこも灘中合格実績をとりわけ大きな文字で取りあげており、灘中の合格者数だけで塾の評価が決まるといってよい。つまり、灘の御三家入りは確定事項だ。

浜学園の広告。灘中の強調具合が凄い。


私が御三家を選出するにあたって大事にしたいポイントは択一性だ。ポケモンの御三家(最初に3つのタイプから選ぶキャラ、初代はフシギダネ・ヒトカゲ・ゼニガメ)を思い出してほしい。1つ選んだら後は選べないシステムだったはずだ。「開成・麻布・武蔵」もこれと同じで、御三家は同一日程に入試を行うのでそれぞれ併願ができない。そこで今回は、関西王者の灘とその学校が併願できるかを考察ポイントとした。
日程は単一か複数か(後期があるか)
後期日程は明確に学校の威信とプライドを低下させる制度である。以前の記事でも述べたが、後期日程は学校の格を下げる代わりに高学力の不本意入学者を採用し、彼らの闘争心に火をつけて、大学受験の合格実績を底上げしようという制度である。それに、「1回しかチャンスがない学校」と「複数回受けられる学校」では前者のほうが格上と感ずるだろう。
このため後期日程があるとマイナスポイントになる。
不本意入学者の割合
これは前2つの要素と重複する。やはり第一志望者の割合というのは、学校の格を論ずる上で重要だ。本命入学者の割合が多いほど優れた学校であることは間違いない。

これらの要素を考えると、灘の次点の学校は甲陽学院に決まる。
ここに異論のある人は少ないだろう。甲陽学院は灘中と同じ日程に2日間連続の入試を行う。物理的に灘落ちはゼロだ。入試にセカンドチャンスはない。偏差値と進学実績も灘に次ぐといって差し支えないレベルだ。御三家入りは間違いないだろう。
さて、「灘・甲陽」が決まったところで、3枠目の議論になる。
ここからが複雑だ。というか、この手の議論は2枠はあっさり決まり、3枠目が争点になる。

灘・甲陽・東大寺説

純粋に偏差値と進学実績のトップ3を該当させるやり方である。これが一番フェアで賛同が得られるのではないか。むしろ東大寺は偏差値と実績において僅差で甲陽よりも上なので、「灘・東大寺・甲陽」といったほうが適切かもしれない。
しかし、甲陽と東大寺は明確な違いがある。
「甲陽に灘落ちはいないが、東大寺にはいる」
ということだ。
東大寺は灘中より後の日程に入試があるので併願ができてしまい、灘中落ちが集まる学校となっている可能性がある。
したがって、上記のポイントの②と④で引っかかってしまう。

灘・甲陽・六甲説

これはトラディショナルに何世代にもわたって浸透している説だろう。3校とも兵庫県阪神間という同地域に存在し、長年名門校として認知されてきた学校だ。私の通っていた中学受験塾でも「灘・甲陽・六甲」の順に合格実績が載っていた。
しかし、六甲は偏差値実績ともに甲陽に大きく離されているのが実情だ。昨今では、「灘・東大寺・甲陽・大阪星光・西大和・洛南・洛星」が難関7校と呼ばれ、六甲は入れていない。実際、上述のリンクのランキングでも7校に溝を開けられている。①の時点ですでにアウトなのではないか。
しかし、よく見ると難関7校を除いた関西男子校でランク入りしているのは六甲だけである。しかも、東京御三家の武蔵と同じくらいの位置にいる。武蔵が御三家なら、六甲もギリギリ御三家でいいのではないか。
ここで、武蔵と六甲の相違点を考えてみる。武蔵は東大実績において以前は紛うことなきトップクラスにいたが、次第に凋落していったという経過があり、過去の栄光をもって「御三家」と言われている。一方六甲は、京大合格実績において昔からあまり変わっておらず「トップクラス」というには寂しい。東京でいうと芝レベルだろうか。また、中学受験の偏差値はどうか。武蔵は大学実績が下降した今でも、中学入試の偏差値においては麻布と肩を並べており、御三家と読んでも遜色ないレベルだ。ところが、六甲は甲陽と大きく離れてしまっており、日能研の偏差値の差は10近い。
そして、武蔵と六甲の最大の違いは後期日程の有無である。武蔵には当然後期はない。六甲学院にはいわゆるB日程がある。後期日程は学校の格下げを代償に、高学力者を入学させ大学入試の実績を上昇させる仕組みだと述べた。しかし、六甲学院のB日程の導入以前と以後であまり大学合格実績は変わっていないように見える。
(wikipediaによると、2001年度からB日程を始めたらしい。彼らが卒業する以後と以前ではあまり実績に変化はない。このサイトを参照した。https://www.shindeme.com/school/data/28504j/
要するにB日程は学校の格を下げただけの失敗策であったというわけだ。もっとも、B日程を導入しなければもっと実績が下がっていた可能性がある、と推定することはできる。
六甲御三家説は①を許容したとしても②から④でひっかかってしまう。

灘・甲陽・洛星説

洛星は京都を代表する老舗男子校であり、難関7校であるし、御三家に名を連ねてもいいかもしれない。実際、京都大学や国公立医学部の合格率はかなり高い。昔の洛星は今にもまして猛威を振るっており、京都で一人勝ちであった。下記参照である。
https://www.shindeme.com/school/data/26509j/
しかし、洛南の台頭でパイを奪われてしまい、京大合格者を減らした。そのため、洛星は凋落校と言われることもある。この意味では洛星は武蔵に近いかもしれない。
洛星が大きく味噌をつけるポイントは六甲と同じく、後期日程が存在することだ。つまり、洛星は①は軽々クリアしても、②から④で引っかかる。
洛星も六甲と同じく後期日程開始前後で比較したかったが、いつ後期日程を始めたか、情報が得られなかった。洛星ほどの名門であれば元々は単一入試であったと思うが、どうなのだろう。

灘・甲陽・大阪星光説

私が一番推したいのはこの説だ。
星光学院は甲陽ほどではないにしろ、かなりの実績があり、大阪では公立の雄である北野よりも格上でトップである。
星光には洛星と六甲で問題となっていた後期日程もないし、東大寺で問題になった灘との併願もできない。
ところが、最近だと星光を第2志望で併願校として受験し、後日東大寺や西大和を本命校として受けるケースがあるようである。信じられなかったので、浜学園の合格体験記をチラ見してみたが、確かに複数そういう子がいた。首都圏だと、御三家が併願校で、筑駒や栄光、聖光が本命といったパターンに近いだろうか。
ということは、星光は①から③はクリアしているが、④にのみ引っかかる可能性があることになる。

この点、やはり甲陽学院は賢い。甲陽は灘と同じく2日間とも学力試験を要求するので、大して熱意のない併願組は、この重量入試を避けようといった心理が働くはずだ。甲陽は星光のような「前受け併願組」を除外して、不本意入学組を可能な限り減らして学校の威信を保っているわけだ。もしこれを意図的にやっているとしたらかなりの戦略家だ。

いかがだっただろうか。
所詮学歴厨の実験的な考察なので、お遊び程度に読み流してもらいたい。
関西で御三家という呼び名が浸透しないのは、灘があまりにも強大すぎるからだと思う。言うなれば、開成と筑駒と聖光学院が合体した学校があるようなものだ。

ちなみに、この手の議論で噴出しやすい「伝統校か新興校か(設立当初から名門だったか)」というテーマがある。
私は今回この点は考慮しなかった。
なぜなら、肝心の灘中のルーツが新興校チックだからである。この状況で伝統校に下駄をはかせても議論がこじれるだけだ。
王者の灘が成り上がり校という事実は、関西と東京の学歴観を比較する上で大切なので、また今度にとっておきたい。

中学入試の偏差値は下記の日能研のR4を参照した。


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