私、次はシャチなんで。

あ、どうも。

いきなりで恐縮ですが、
私の来世はシャチなんです。

もう人間には転生しないんです。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※受付期間は終了しました。

文化祭、お楽しみ頂けてます？

ただ前を通りかかっただけなのに
こんなお声かけしてすみません。

怪しい屋台だなって
思われましたよね？

いえ、いんですよ、
その感覚は正常です。

今、ちょうど休憩入って
お茶淹れたとこなんです。

一緒にいかがですか？

よかったら、さっきの続き、
話します。

ちょっと興味あったりしません？

あ？

「そのハナシ聞いちゃったら
石とか、壺とか
勧めてくるんじゃないの？」

そう思っちゃいました？

ですよね～～～

いえいえ、大丈夫です。

文化祭の屋台なんで、
バックエンドなんてありません。
ご安心ください。

時間潰し、ちょっと休憩がてら
しばし、お話をお聞きください。

さっきの「来世がシャチ」のハナシ、
なんですけどね、

次に生まれ変わることがあるとしたら
自分はシャチなんじゃないかという
そんな疑念を
私、20年近く持て余してたんですよ。

疑念というか、確信に近いかな。

昨日の晩ご飯が何だったか、
小学生のときの修学旅行で
どこへ行ったかとか、

そんな感覚と変わらないんで。

人の記憶って
そもそも怪しいと思ったこと
ありませんか？

私は昔からそう感じてまして。

いえね、どうも人の記憶には
今世とは思えないものが
混在しているんじゃないか、

そんなふうに
私には思えてならないんですよ。

まあ、それに気づくのは
もっとずっと後のことだったんですが。

あれは…10代後半でしたかね。
ある夜中のこと。

ふと目覚めるとそこは海、
深い海の底だったんです。

光のない、
でもどこまでも透き通る紺色の
その中に自分が漂っているんです。

私はそこをなぜか
「海中」だとわかってました。

ああ、そうか…

何故だか納得して、
私はまたそのまま眠りました。

そんなことが何度かあったんです。

朝になって、
あれは何だったんだろう。

夢だったかな…？

多くの人がそうするように私も
特に気に留めることもなく
忘れて行きました。

時は経ち、大人になって
職場の飲み会の席で
ある程度話題も尽きたとき、

「輪廻転生」はあるのかなんていう
話題になったんです。

どんな流れでその話題になったのか
あまりよく覚えてないんですが、

「自分の前世は何だったんだろう」

確か、上司が最初に呟いた気がします。

「輪廻」するかどうかは
わかりませんけど、

「転生」はあるんじゃないか


私は何となく答えました。

「生まれ変わったら、次は
男、女、どっちがいい？」

そんなことを訊かれ、

「どっちでもいいっていうか…
自分はもう人間じゃないんで」

ふいにそう答えてました。

みんな目を丸くしましたが、
誰より一番驚いたのは
自分だったと思います。

あれ？私、今何を言いました？

そんな感じです。

「じゃあ、何に転生するの？」

「シャチみたいな生き物ですね」

「シャチ⁉」

みんなさらに目を見開きました。
そして次の瞬間はみんな大笑い。

え？え？何？

シャチ？
あたし、来世はシャチなの⁉

考えてもないのに自分の口から
勝手にスルスルと出てたその単語に
自分でどん引きしながらも

「ああ、そうだったんだ」
私はなぜか腑に落ちてるんです。

そういえば昔、
何度も見たあの光景は
水中を漂う自分の視界だったんだと。

「あ、そうか～」
「うんうん、そうそう！」
という感覚。

もっとちゃんと言葉にしたいんですが
言いようがないんですよ。

妙な納得感、としか…

・・・

あらあら、
お客さん、口が開いたままですよ。
大丈夫ですか？

どうです？このお話。

よく、わかんない？

いえいえ、気にしないで下さい、
正直にありがとうございます。

でも、私のような感覚を持つ方、
口にされないだけで
意外に少なくないかもしれませんよ。

ここ数年、
特にあの感染症の騒ぎもあって
人がむやみに動かなくたったことで

結構、ココ地球のエネルギーも
随分と軽くなりましたから

お客さんもそのうち、
私のヘンな話が妙に腑に落ちることが
あるかもしれませんよ…

あ、お時間気にされてます？
弁論大会を聞きにいらっしゃるんですか。

はいはい、
イケメンについて何か
論じるんだとかで、
鼻息のえらく荒い方が通って行かれました。

ホントは私もこの「未来世シャチ」
弁論で出場しようかと思ったんですけど、

「論理性を欠く」とかで、
あえなく予選落ちでして…

で、こうして誰か捕まえて喋ってみてるんですけどね。

すいません、お時間頂いちゃって。
では引き続き、文化祭をお楽しみください。

はい？
ええ、ええ、私のブースもまだまだやってますよ。

気が向いたら帰りにでもまた、
覗きに来てやってください。

スタンプラリーもお楽しみですか？
なんならそれ、ヒントお教えできますけども。

…あ、いらない？

ですよねー！