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「時空を超えて出会う魂の旅」特別編~印度支那⑥~

東南アジアのある地。
出家を経て、戒名「慧光」を私は授けられた。
15歳の誕生日・剃髪式の夜を迎えていた。

慧光には、もう迷いがなかった。
宴席の末席で不貞腐れていた弟の剛充を、そっと庭に呼び、告げた。
「剛充よ。我は皆の幸せのため、今から出家する。
この家と蓮花の家、両家の繁栄に生きよ。達者でいるのだ。」


相変わらず慧光に反目して、顔も合わせぬようにしていた剛充だが、
さすがに驚き、体を向け、目を見開いた。
「何ということだ。お前は、仏と共に生きるとな。
 そして、私が家督を継ぎ、蓮花を妻に・・・」


「剛充よ、この家に、この世に生まれてくれたことに感謝する。
 仏の加護が末永く、あろうぞ。この家を守ってくれ。
 蓮花は、心身美しい女性だ。そなたと似合いだ。」

そして、慧光は。
そのまま、屋敷を去った。
剛充は呆然と、その後ろ姿が消えゆくのを見ていた。


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剛充は、嬉しさと共に、狂おしい嫉妬に苛まれていた。
なぜか恨んでしまう慧光が、ついに屋敷からいなくなったこと、
自分が家督を継ぎ、蓮花と結婚できることは、嬉しかった。

しかし、同時に耐え難い辛苦に、窒息しそうであった。
俺は、最後の最後まで、
兄の慧光を越えることができなかった。
自分が根拠なく否定している人間に、
優しさをもって、肯定されてしまった。

おまけに、密かに蓮花を慕っていたことも。気取られていたとは。

幼い頃から、母から、なぜか疎まれた。
父は母にだけでなく、剛充にもぎこちなかった。
・・・・・俺は、望まれぬ存在だったに違いない。
何不足ない、暮らし。
しかしそれは、真綿でしめられているような日々。
あからさまにはしなかったが、父はいつも兄を頼みとし、
弟の自分には、期待・信頼を向けていないことも知っていた。

さらに父は、兄が家督を継ぐことを誰からも阻まれないよう、
これ以上、家庭内の不和を続けないためにも、
自分を出家させようとしていることも、察していた。

そうか。
そこまで慧光のやつ、見通していたのか。
この事態となれば。さすがに父は、俺を頼みとするだろう。
蓮花と、その家族のためにも。俺と蓮花を結婚させるだろう。

行き場のない憤怒で、自らの口の中は血の海となっていたことに気付き、
剛充は、我に返った。

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満月の光の中を、慧光は駆け抜けていた。

誰も、気付いていない。
誰も、追いかけてこない。
前に進む我を知るは、仏のみ。
林の中、感じるのは、我の息吹だけ。
このまま、走り抜ける。


夜と、林を抜け。
朝と、村を抜け。
前に進むばかりであるのに、さすがに疲れた慧光は、
地面に崩れ落ちるように横になり、しばし休みを取った。

剃髪して、法衣のような衣装をまとっていたためか、
はたまた、御仏からだったのか。
微睡みから覚めると、たくさんの喜捨が、慧光に供えられていた。
感謝に、慧光の眼から熱いものが溢れ出た。
自然と合掌し、経を唱えてから、全て有難くいただいた。

72110739-熱帯のタイで背の高い木々-の木陰。

紅碧の空の下、慧光は木陰で休んでいた。
そこに現れた少年僧の道案内で、近くの寺院が宿を提供してくれた。
その寺院で、慧光が目指す大寺院の名を告げると、
途中まで、供の僧をつけてくれることになった。

早朝出発し、慧光は供の僧と共に歩をすすめた。
次の寺院に到着すると、今度はその寺院が慧光に宿を提供。
そのまた次の寺院へと、供の僧をつけてくれた。
道中、慧光一行は、人々から豊潤に喜捨を受けながら進んだ。

このようにして日々着々、慧光は大寺院に導かれていった。
寺院と僧達はもちろん、人々の厚意を非常に有難く思った。

ある寺院の老尊師から、
慧光は、これまでの経緯をたずねられる機会があった。
生後から、これまでの人生。
剃髪をして、自分はこれから得度する身であること。
不思議な導きをもって、遥か遠方の大寺院を目指していることを語った。

「なるほど、慧光殿。
 貴殿は、すでに得度された生をお持ち。
 今、ここにいるのは、御仏の導きあってのこと。」

これをご覧あれと、老尊師は若い僧から白い反物を預かり、慧光に見せた。

そこに、経典と同じものと思われる文字が記されていた。
その様は、河の大きな流れであり、小さな潺。
空へ枝伸ばす樹木であり、顔を出した双葉。
我の手のひらであり、天高い世界。

「おわかりかな、慧光殿。
 ここに、貴殿の導きにこれまで力添えした寺院、街の名が記されておる。
 皆は、貴殿を支援することで各々の功徳を積んだかのようだろう?
 しかし、仏と共にある貴殿の行動全ては、この世そのものの輝きと
 陰りとなるのであるぞ。心して、生きよ。」
この事実に気づき、慧光は身が引き締まる思いだった。 



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magenta-hikari
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