「時空を超えて出会う魂の旅」特別編~印度支那⑦~
東南アジアのある地。
出家を経て、私は戒名「慧光」を授けられた。
15歳の誕生日・剃髪式の夜を経て、仏縁により遠方の大寺院に導かれる。
翌朝。
その老尊師、僧達に別れを告げ、慧光は供の僧と共に出発した。
次の寺院に到着。
その寺院の尊師に、供の僧が白い反物を厳かに引き渡す。
尊師はすぐに、少年僧数人を何処かへ使いにやった。
さらに翌朝、尊師は慧光に目通りをし、告げた。
「慧光殿。ここまでの道、なんと尊いことか。
5日後、大寺院より使いが参ります。
貴殿の入門式の支度、供は、
光栄なことながら、私共が務めます。」
有難く、その申し出を受けながらも、
慧光は内心、この事態の流れがどのようなものか定かでなかった。
その日から、その寺院内は非常に忙しない状態となった。
隅々まで浄められ、村の人々から喜捨が途切れなく届く。
そして5日後。
大寺院から、10人ほどの僧が来院。
慧光が驚いたことに、彼らこそが大寺院からの使いだった。
外で人々が祈り、寺院内は僧達の読経が満ちた。
その後、大寺院の僧達に先導され、その後を慧光は歩む。
さらにその後を、最後の宿を提供した寺院の尊師・僧たちが続く。
沿道に人々が立ち、僧達を祝福する。
慧光は、いよいよ大寺院への到着が近いことを嬉しく思うものの、
この厚遇への戸惑いが、それを上回る気持ちだった。
大寺院は、慧光を非常にあたたかく迎えた。
最後の供を務めた寺院の僧から、白い反物を受け取り、
その寺院の僧達を来賓として、
慧光を、正式にこの寺にて得度させる儀式が行われる。
故郷の村での寺院で、仏事に携わることはあった。
しかし慧光にとって、その規模の大きさは初めてのものだった。
格調ある美しい式事に、心が震えた。
しかし、すぐに我に返る。
慧光は、この厳かで晴やかな式の主役が自分だと知ると、
現実味を感じることができなかった。
故郷の屋敷で生まれ、育ち。
慧光はいつも、自分を控えて生きてきたように思う。
亡き母、父の愛は嬉しかったが、その大きな期待に戸惑ってきた。
父が希望とする生き方は、自分の魂が欲するものとは違っていた。
苦しいことに、元より、応えることが出来ぬから。
茉莉。自分を愛してくれた子守の茉莉は、どうしているのだろう。
あんなに素晴らしい人なのに、なぜ。夫に苦しめられてないといいのだが。
父母から、よそよそしくされている剛充。何と、辛いことだ。
剛充は、自分と異なる良さをもつ人間だ。彼なりに家を盛り立てるだろう。
蓮花よ。剛充はずっと、貴女を慕ってきた。どうか共に、幸せに。
様々、故郷を思い巡らしているうちに。
いつの間にかつつがなく、慧光の得度式が終わっていた。
10年ほど前より、還俗しきらず修行したものとして
戒名はそのまま同じ、”慧光”を名乗ることとなった。
大寺院での修業・厳しい戒律を守る生活がはじまった。
慧光は、得度式中での自分の気の乱れを深く反省した。
仏に導かれ、故郷でなく、この地の寺院で得度した事実を
受け入れていこうと改心した。
厳しい戒律を守る日々に、慧光は専心した。
大寺院は、多くの聡明な僧がおり、非常に触発された。
慧光はみるみる頭角を現し、その寺院で一番優秀な僧となった。
ある日、尊師グループから、慧光は招きを受けた。
「慧光殿。ここに来られて。三年ほど、経ちましたかな。」
「はい、尊師皆様。何とも、有難いことです。
この寺院で、修行できること。今、この上ない幸せです。
何より、遙か古の経典まで詳しく学べることを嬉しく思います。」
「そうか、慧光殿。さらに仏典の学びを深め、
仏の教えを世に広めたいと、お考えなのであろうな。」
「もちろんでございます。この身、御仏の導きに従いたいと存じます。」
「そうか。ならば、己に然るべき、仏の導きを受けよ。
我々は貴殿を、”巨大寺院”へ推挙する。」