「時空を超えて出会う魂の旅」特別編~印度支那⑪~
東南アジアのある地。
出家を経て、戒名「慧光」を私は授けられる。
仏縁により、故郷より遠方にある大寺院に入門。
”巨大寺院”入門への推挙を受け、試問を受ける。
大寺院の誰もが驚くほど、慧光への講評はごく短時間で終了した。
巨大寺院の僧なのに、なぜこの程度の見識かと、訝しきものばかり。
大寺院の大尊師が、慧光推挙に関する巨大寺院の大尊師からの意向を
検めたいと伝えたところ、詭弁を弄するばかり。
これにより、今般の試問は、巨大寺院一部の僧達による独断での
無礼な振る舞いであると推察されることが明確となった。
巨大寺院の僧達を丁重に見送った後、
大寺院では、急遽、今後の対応を協議する会議を開いた。
巨大寺院の挙動不審な動きを鑑み、
慧光の推挙を取り下げる意見が大半となった。
そこに、慧光と懇意の尊師が発言する。
「皆様のご意向まとまりつつあるところ、大変失礼いたします。
慧光殿。貴殿はどのようなお考えなので?」
「はい、この身、御仏の導きに従います。」
その場は、水を打ったように静まり返った。
翌日。巨大寺院からの使者が、知らせをもたらした。
一、慧光の推挙を受け、試問の結果、巨大寺院入門を許可する。
二、慧光入門にあたり、九日後、使いが訪院する。
三、同日、巨大寺院で慧光の入門式を挙式する。
前日に続き、大寺院内では再び、緊急会議が開かれた。
会議が始まるや、把握しかねる巨大寺院の真意を問う者、
謀があるのではと、陰謀を唱える者など喧々囂々と発言が飛び交う。
「尊師各位、鎮まれよ。慧光殿、意は如何に?」
大尊師の問いに、慧光はその場に立った。
その瞬間。
慧光の内に、不思議なことが起こった。
自分が見たことがない風景が、次々広がっては、消失する。
空を舞ったと思えば、地を走り、水中に揺蕩う。
漆黒を抜け、光へ。光を抜け、漆黒へ。
そうだ。たった今、我が、この大寺院に立つことも。
”我”が通り過ぎる数多の瞬間に、過ぎぬ。
仏よ、あなたは私に何を見せ、どこに導くのか。
”慧光。歩め。
我が意は、そなたの意。
そなたの意は、我が意。”
万感の思いを込めて、言葉を放した。
慧光は、この大寺院、僧達、街の人々を愛していた。
「大尊師様、皆様。
御仏の導きのまま、巨大寺院へ入門いたします。」
九日後。
朝から、大勢の人々が大寺院周辺に集まっていた。
中天の頃、巨大寺院からの一行が現れた。
陽に照らされた僧達の姿を一目みようと、人々がさらに集まる。
大寺院に、喜捨と読経が満ちた。
慧光は、皆の中心にいる自分を感じていた。
生きるはなんと、興味深きものか。
遥か農村で生まれ育った、我が。
ここに導かれ、今は発つべく、座している。
これから巨大寺院に導くは、
我が出向く、所以があるからであろう。
厳かにつつがなく、式が終わり。
巨大寺院の僧達を先導に、慧光、大寺院の僧達が続いた。
人々は、たくさんの喜捨をぞれぞれの手に、沿道に立つ。
勿論、この地で敬愛されている仏僧の修行を
在家信者として支える意図もあるが、
喜捨は人々が自分自身が幸せとなるための行動である。
「徳を積み、現世来世をより幸せに生きたい。」
その人々の強い想いを、慧光は感じた。
確かに。この世は厳しいところ。
人々は、足らないものに執着の心を向け、
足るよう、補えるよう渇望の心を向けて、生きている。
一体、幸せはどこにあるのか。
巨大寺院に、一行は到着。
すぐに、慧光の入門式が行われた。
巨大寺院の大勢の僧達に対して、今は来賓の大寺院の僧達が参列し、
自分を見守ってくれていることが、心強い。
美しく広大な境内に、荘厳な伽藍。
今よりここで、修行をするのだ。
その現実を、慧光は感じていた。
ふと、並み居る僧達の中に、鋭い邪気を感じた。
眼を向けると、ある年若い僧と視線が合った。
見覚えのある面だ、どこかで・・・・。
そうだ、我の試問を終いにした、あの僧だ。
慧光が式典に心を向けようとするも、
尚も執拗に、その気は絡みついてきた。