出かけてきたよ⑭(越後①)
(この夏の思い出を綴っています)
関西育ちの私だが、生まれは母の郷里だ。
毎年の夏休み。
夜、大阪から寝台特急に乗る。
線路の音を聞きながらまどろむうち、朝陽に包まれた、その街に到着。
早朝に関わらず、いつも改札口に、懐かしい人達。
興奮気味の祖母と優しい伯父に出迎えてもらい、親族宅へ。
起きてきた従姉妹も加わり、美味しい朝ご飯を囲む。
その日一日、どこで何をするかを語り合いながら。
そんな思い出いっぱいのその街に、
ここ数年間は、出かけることが難しかった。
しかしようやく、訪問ができそうな状況となった。
旅の予定を立てようとしたところ、行き詰まる。
大阪からの特急列車は、なくなっていた。
東京を経由するルートをとることを考えると、もう何日かは必要。
滞日中も仕事をする私の都合に合わせにくい。
「もしかして、大阪からその街までのバスはあるかな。」
ふと、ひらめいて調べる。
なんと。大阪から直通の深夜バスが、ちゃんと運行している。
知らなかったなあ、驚いた。
そのままバス座席を申し込んで。
親族に訪問の旨、連絡した。
バスに乗る前の日、突然体調不良に見舞われた。
なぜそうなったか、原因がわからない。
しかしこれを機に、親族に会う約束を全部キャンセルした。
越後訪問自体をキャンセルしないといけないかな、と思いながら
バス・宿泊のキャンセルポリシーを調べる。
日が近すぎて何もできないことがわかった。
そうか、仕方ないかなと思いつつ、
そうこうしていると、体調が戻った。
急展開に戸惑いつつ、行かない理由もなかったので、
結局予定通り出発した。
バスは早朝、懐かしい街に到着。
祖母達の出迎えと、親族宅を訪問する予定は無い。
これは、初めての経験だ。
この街に、私は初めていち”観光客”として降り立った。
駅に行くと、早朝から開いているカフェがあった。
そこでのんびり、その日一日どこに出かけるか考える。
どこに行きたいかと自分に問う。
「弥彦神社」、だって。
早速、公共交通機関を使ってどうやって行けるかを調べた。
切符を買って、何気なく駅員さんに電車の乗り方を聞く。
「かなり本数が限られているから、接続はあんまり・・・。
え、あれっ、お客さん、タイミングがいいですね。
あと8分後に、この駅を出る列車に乗ってください。
これだと、スムーズに行けますよ。」
いつも親族に色々なところに連れて行ってもらっていたため、
”観光客”の今、新たに知った。
車社会のこの街は、電車の本数も限られるのだ。
弥彦神社は、祖母とよく訪れた。
穏やかで、緑多い境内。
その祖母が故人になって久しいけど、
御神木は、今も大きな枝を空へ伸ばしてそこにいらした。
弥彦神社は「二礼四拍手一礼」
近日ご挨拶の予定がある、出雲大社も同じ。
大国様に「早くおいで」と呼ばれているような、そんな気がした。
「玉の橋」。それは、神様が渡る橋
赤いその橋を眺めながら清いせせらぎに手をひたすと、
何とも言えない清々しさに満ちていく。
大好きな祖母と、ここに再訪したかったと思った。
それは叶ったと思う。
参拝前、弥彦神社の手前のお茶屋さんで、
祖母が大好きだった甘酒を飲んだ途端、
「祖母は私のそばにいる。」そう感じたからだ。
今日は時間が無いから、弥彦山に登れないけど。
また一緒に、お参りにいこう。
随分前、祖母達と弥彦に到着したが、弥彦山に行けなかったことがある。
「お山様、他の日に私達を招待してくださっているんだね。」
ロープウェイに乗れなくて残念だった幼い私だが、
その言葉を覚えている。
きっとこの日もそうだったんだろうな。
今度は一泊して。温泉につかって、ゆっくりしたいな。
そっと「祖母」に、そうつぶやいて、駅へ向かう。
すると無料で利用できる足湯を発見。
「足だけでも浸かって、ゆっくりしていきなさいよ。」
という、祖母からのサインかな。
足はもちろん、心もあたたかくなった。