マガジンX 2024年9月号『ざ・総括。』デザイン総括【前編】
日本車のデザインはどうか【前編】
カーデザインの本場はヨーロッパだ。アメリカ車のデザインは大味、日本車は線が細い…など、いまも昔も、世の中にはこういう声がある。でも実際のところどうなのだろうか。「ざ・総括。」のデザイン評価陣は、ひとりが某OEM(自動車メーカー)の現役デザイナーで、ひとりは欧州で活動していたデザイナー、もうひとりはOEMにアドバイスする立場のデザイナーだ。3人ともプロフェッショナルである。この3人にとって、いまのカーデザイン、とくに日本車のデザインがどのように映るのか。個人的な好みではなく、世の中に商品を提案する「工業デザイナー」の立場から語ってもらった。今回と次回の2回に分けてプロの見方をお伝えする。
<評価メンバー>
エ=エンジニアリングコンサルタント
部=元部品メーカーのエンジニア
通=自動車業界の事情通
デ=デザインコンサルタント
独=独立デザイン事務所のデザイナー
メ=某自動車メーカーのデザイナー
トヨタが変わった理由
エンジニアリングコンサルタント(以下=エ) 昨年のJMS(ジャパン・モビリティ・ショー)の開催後に、「ざ・総括。」デザイン評価陣のお三方に集まっていただいて以来の評価会議だ。あのときはJMSに出品されたショーカーがテーマだったが、今回は市販車のデザインについて語ってもらいたい。中心は日本のクルマ。はたしていま、日本車のデザインはどうなのか。メインテーマはこれだ。
デザインコンサルタント(以下=デ) 日本車と言ってもいろいろあるし、OEM(自動車メーカー)ごとに事情がある。たとえば世界最大のOEMであり、世界中でビジネスを展開しているトヨタは近年、設計や生産技術がデザインに協力的になっているようだ。旧知のデザイナー諸氏からもそう聞いている。デザイン部がやりたいことを、「オレたちが実現させてやろう」と製造現場が取り組んでいる、と。一例がプリウスだ。バッテリー搭載配置を変更して後席HP(ヒップポイント)を低くしたから、あのシルエットが実現した。レクサスISでは、トランクリッドやリアフェンダーのプレス成形で、従来なら不可能なほどの深絞りをやり遂げた。
独立デザイン事務所のデザイナー(以下=独) そもそもプロポーションを決めるは中身だからね。スタイリング(造形)はパッケージングに左右される。トヨタは駆動系モジュール、ソフトウェア、車両パッケージングなどにTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を導入し、現在のプリウスは車両プラットフォームとしてのTNGAを使い、ユニットのレイアウトを少々変えた。つまりパッケージングが変わった。だからデザインも変わった。
自動車業界の事情通(以下=通) いきなり核心の話になったな(笑)。たしかにそのとおりだ。で、知りたいのは「なぜ、トヨタ社内はデザイン部に協力的な姿勢になったのか」なんだ。
某自動車メーカーのデザイナー(以下=メ) それは直接トヨタに公式見解を聞かないと分からないことですが、個人的な感触では、マツダの影響があったのだろうと思います。海外のモーターショーへ出かけるとほぼ毎回、他社のデザイナーと顔を合わせる機会がありますが、マツダは初代CX-5が成功して以後、設計や生産技術がデザインに積極的に協力するようになったと聞いています。トヨタとマツダが資本関係を持つようになって、トヨタは直にそれを認識する機会があったのだと思います。
元部品メーカーのエンジニア(以下=部) トヨタとマツダは合同で試乗会を開催したりしていましたからね。テストコースで互いに相手の商品を観察し、実際に運転し、エンジニア同士、デザイナー同士が語り合う機会ができた。当時の豊田章男社長もマツダのデザインは「すばらしい」と社内で言っていたそうです。
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