良い豆から作ったコーヒーは、きれいで果実味がある|「FUGLEN TOKYO」小島賢治(後編)
インタビュー | CRAFTSMAN × SHIP パネリスト | 富ヶ谷「FUGLEN TOKYO」小島賢治
11月23日(土)13:30から、渋谷の国連大学で開催される、食の職人によるトーク&イート・イベント「CRAFTSMAN × SHIP」の公式ノートの第4回は、パネリストの一人で、ノルディックコーヒーを日本に紹介し、現在のコーヒーのトレンドのひとつを築いた「FUGLEN TOKYO」の小島賢治さんです。前後編の後編では、産地とのつながりについて話してくれた小島さん(前編「フェアでありたいから、同じ生産者から豆を買い続ける」はこちら)。後編では、良質なコーヒーの味について話してもらいました。
質の悪さからくる味には共通点がある
――小島さんが求めるコーヒーの味とは、どんなものでしょうか?
お客さんのためにはコーヒーを作ってはいなくて、ずっと、自分の好きな味を作ろう、それを極めたいと思ってきました。自分が好きな味を出すために、最適な豆を買って焙煎する。それを飲んでたまたま好きって言ってくれる人が多ければ、それは良かったなとは思うんですけど。お客さんの好みを考えて、豆を買ったり、焙煎することはしないですね。
――でも、もし自分が好きな味が売れなかったらどうしますか?
後味がきれいな豆を買いたいと思っています。ダスティだったり、後味が短かったり、甘さがずっと続かなかったり、香りが木っぽかったり。そういうのは、良くない豆の味。
たとえば梨とかも、時間が経つと味が真っ平になったり、ミカンも甘さだけになって、果汁が甘い水みたいになりますよね。人は良い味と悪い味を分けられると思うので、きれいで果実味があるものであれば、好き嫌いはあるかもしれないですが、まずいという評価はされない。
その味がずれていない限り、つまりきれいで果実味があり、心地よいものを作れていれば、それは素材が良いという証拠なので、人の口に合わないということはないと思います。
6カ月後の味を想像してテイスティングする
――産地でのカッピングは、コーヒーのどんな味をみているのですか?
コーヒーではカッピングもフレッシュな状態で、現地でします。収穫後すぐに飲むと、まったく味が違うんですよね。ですから、6か月後にコーヒーになってからテイスティングするのとは、みるところを変えています。
でもそれが最初に産地に行った頃は、まったくわからなくて。
カッピングして飲んでいて、わたしとしてはまったく良いと思わなくても、みんなコメントは「良い」ってつけてる。「ええ?」みたいな。向こうは水も違うし、焙煎も別の人がやっているし、自分の知っているコーヒーの味と方向が違うなかで、素材の良さを取らなきゃいけない。でもみんな「慣れるから大丈夫だよって」って言ってくれて。
ようやく、きれいさとか、後味とか、フレーバーのたち方とか、おいしいまずいじゃなくて、質を細分化していくことがわかってくるんですね。そして、そのポイントポイントで得点をつけていくんです。
――カッピングには、どれくらいで慣れてきましたか?
1回の旅で、何度もカッピングをするので、3回目くらいで慣れましたね。慣れるようになって、その豆を自分で焙煎してみて、その時の味わいが出せるかどうかとかというのが考えられるようになりました。
――豆を買い付けたあと、焙煎の役割とは、どんなことでしょうか。
豆の味をどう活かせるか。本来、素材が良ければおいしいコーヒーができて、素材が悪ければおいしいコーヒーはできない。その素材の味を引き出す方法が焙煎です。
たとえば、キャラメルの味が欲しかったら、素材を煎ってキャラメルの味を出すのではなく、キャラメルの味がする豆を探します。
ブラジルは酸味がやわらかくて、ナッツの香りもして、クリーミーなんです。そういうのがエスプレッソに合うなと思っているんで、ケニアでそういう味を出そうと思って深く煎ったりするんだったら、ケニアではなくブラジルの豆を買います。
わたしの仕事は、味を作ることではありません。ベストな味になるように、素材を焙煎して、飲んで、そして微調整して、を繰り返して、いい方向にもっていくだけ。そういうこだわりは、職人なのかもしれないですね。
どんな環境下でも評価できる味覚を準備しておく
――良い豆をきちんと評価するためには、小島さんの努力も必要なのではないですか?
わたしは、豆を買う側。「酔っぱらったときに、このロット買わされちゃったんだよ、ハハハ」みたいなことはしたくなくないです。現地で豆を出されたときに、雰囲気でおいしいと思わされて、買ってしまったら、あとあと後悔することもあるので、どんな環境でも、それを評価できるように、マインドを持っていかないといけません。
しかし、海外ですと水も違うし、移動の疲れもある。いつもと違った過酷な環境下でも、フラットに自分のとれる味にもっていけるような訓練をしています。それができないと、だまされて買ってしまいますからね。
――その訓練はどうしていますか?
体調を万全にしておくのは当然ですし、前日は食べるものに気をつけています。ニンニクとか刺激物を取らないようにとか、ストイックにならないと。お酒もタバコもだめですし。何十時間もかけて産地にいっているのに、そんなので味がとれないとかは、言い訳にならいですよね。
――過去にコーヒーの豆の買い付けで失敗した経験が、そうさせるのですか?
大きな失敗はありません。それは、おそらく、これまでの普段の生活の中で、食べ物によってコーヒーの味が違ってしまう体験をしていますからね。たとえばお菓子を食べて、そのなかのシナモンの香りなどで、味が左右されたりします。そういう経験から、フラットに味がとれる訓練をすべきと思っているのだと思います。
対価をしっかり払い職人や生産者に投資する
――「CRAFTSMAN × SHIP」のイベントでは、お客さまからの質問にどんどん答えていこうと思っています。もし小島さんが会場にいたとして、3人のCRAFTSMANにどんな質問をされますか? まずは、山下さんに質問をするとしたら?
チョコレートとコーヒーは、ほかのお二人に比べて方向が似ていますよね。産地に行って買い付けているのとか。カカオの買い付けを、どういう基準で買っているのかとか聞いてみたいですね。チョコレートになる前のものを味わう可能性もあるので、その素材をどうやって製品になるのを想像しているのかとか。
――藤川さんには?
目指す味はどこなのか? いままでおいしかったチーズはどこですか? というのを聞いてみたいですね。世界に出て食べた人だからこそ、人が普通よりおいしいと思えるものを作れると思うので、それをどこで得たかを聞いてみたいですね。
わたしもコーヒーであったんです。オスロにいるティム・ウェンデルボーのコーヒーで、彼はわたしと同じ歳で、世界バリスタ・チャンピオンになっていて。彼のやり方はおいしかったので、彼を越えられるようになれるようにしたいと思っています。
――杉窪さんには?
まだ杉窪さんにお会いしたことがないので、実際にお話を聞いてみてから質問したいですね。お客さんを意識してた展開をしている印象があるので、そういう戦略の話を聞いてみたいですね。自分にはできない話なので。
――イベントに参加していただくお客さまにメッセージを。
わたしはいつも、お金を払うことが、ものを買うだけでなく、その人に投資をして、サポートをしているって思いながらお金を払ってくれる人が増えたらいいなと思っています。そうすると払う先をもう少し考えるじゃないですか。その人のものを買って支えたい、いつまでも存続させて、発展していってもらえると、それが自分のおいしさに返ってくる。
そういう人が増えれば、もっといいものも増えていくと思うんです。
パリとかそうだなって思って。おいしかったり、ストーリーがあるものに、しっかりお金を払う文化ですし、サポートするっていう文化が根付いていると思うんです。日本だと、これよりこっちの方が安いからいいとかっていう選択になりがちじゃないですか。
払う先っていうのが、自分のことしか考えないのではなく、投資しているという気持ちでお金を払う人が増えてもらえたらなと思っています。
CRAFTSMAN × SHIP(クラフトマンシップ)
【出演】 CHEESE STAND ー 藤川真至/Minimal ー 山下貴嗣/365日 ー 杉窪章匡/FUGLEN TOKYO ー 小島賢治/and You.
【日時】 2019.11.23 sat open 13:00/start 13:30
【参加費】 3000円(税込)
【場所】 青山・国連大学
【協力】 ファーマーズマーケット・アソシエーション
13:00 開場
13:30 第1部 CRAFTSMAN TALK
藤川真至/山下貴嗣/杉窪章匡/小島賢治 各20分
4人のCRAFTSMANが作った商品を食べながら、そこに込めた想いや開発の秘話などを聞くことができます。
15:20 第2部 交流会
藤川真至×山下貴嗣×杉窪章匡×小島賢治
CRAFTSMANと参加者の質問を中心としたディスカッションのほか、各店のブース出店もあり、商品を実際に購入することができます。
16:30 終了
※内容は予告なしに変更になる場合があります。
「CRAFTSMAN × SHIP」前売りサイトはこちら
こじま・けんじ
ノルウェー首都オスロにある、ヴォンテージの北欧家具を扱うカフェ&バーの国外1号店「FUGLEN TOKYO」代表。バリスタ世界チャンピオン監修のカフェ「Paul Bassett」にてバリスタ修行の後、単身オスロに渡りさらに深くコーヒーを学ぶ。帰国後、奥渋谷エリアにFUGLEN TOKYOをオープン。その後、焙煎所「FUGLEN COFFEE ROASTERS 」の設立や、コーヒー業態に参入する業種に対するコンサルティングや技術サポートなどにも積極的に取り組み、全国の若いコーヒーの従事者から特に支持を集める。
構成・文/江六前一郎 edited by MAGARI