悪いお嫁さん。ラスト。
火葬が終わり、斎場に戻る。
お母さんの骨壷を、夫に持たせてあげたかった。だけど夫は車を運転しなくちゃいけない。わたしは免許がない。なので、お母さんが晩年ずっと一緒に暮らしていた内縁の方に持っていただいた。遺影は夫のお姉さんが。位牌はウチの長女が持った。
好きな人たちに抱かれて、お母さんも嬉しいだろうなぁと思った。
火葬場から斎場までの道のりを移動中、夫のスマホがなる。お姉さんだ。お姉さんは「来た道を戻るな。」と夫に告げた。理由は、道を戻ると魂が道に迷って成仏できないという事らしい。
「そんな言い伝えがあるのか。」
と、勉強になった。祖母の時もそんな事言われていたっけ?と記憶を辿るも、なんせ30年も前のことなので覚えていなかった。
斎場に戻ると食事とお酒が用意されていた。御霊前にも同じ食事が用意されていた。わたしはお母さんに一番近い席に夫と共に座らせてもらった。本当はお姉さんが座るといいのに。そう思っていた。ただ、長男の嫁という理由だけでここに座っていていいものか、と終始戸惑っていたけど、何も言わずにそこに居させて頂いた。
全ての事が無事に終わり、17時には解散となった。駐車場に行き、みんながタバコを吸う中でわたしはしきりに頭を下げていた。あまりちゃんと分かってはいないけれど、長男の嫁として、夫の母の葬儀が無事に行われた事に「ありがとうございます。」「ありがとうございます。」と言っていた。
親戚の方を見送り、お姉さん夫婦とお別れの時に、お姉さんの旦那さんがわたしに「まあ、いろいろあったけどさ。この機会にまた会ったりしましょうよ。」と言ってくださった。
16年前、妊婦の時に遺恨を残したままだった。その時もわたしの未熟さゆえに大変お叱りを受けた相手。その方からそんなふうに言ってくださると思ってもいなかった。
「今まで不義理をしていて申し訳ありませんでした。」と、深く頭を下げた。わたしがいないところで本当にお世話になった方だった。わたしが思うことなんてどうでもいいくらい、懐の大きさ、深さを感じた。
間髪入れずにその方は、「出会った頃はあなたもこーんなに小さかったもんねー!あ、ちがうかー!ワッハッハ!」と、冗談まで言ってくれた。お姉さんは「何言ってんのこのバカは!」と眉毛を下げてツッコミしていた。
冗談もツッコミも、思いやりで優しさで、所在ない私たちの拠り所であった。それは愛情にも思えた。
これからこの方々と、ゆっくりでいいから仲良くなっていきたいと、心から思った。
お母さんの彼氏は夫を指差しながらわたしに向かって「頼りない男だけどこれからもよろしく頼むよ。」と言ってくださった。
わたしは、「とても頼りになる人です。」と伝えた。
そうしてお葬式一連が終わり、私たちも家に帰った。帰りの車内は夫の昔話を聞いていた。娘たちは父親の"父親でない部分"を見れた事がとても面白かったようだ。
自分の父親が「こうちゃん」と呼ばれ、息子だったり、弟だったり、従兄弟たちからは兄のように慕われていたり、父親じゃなく振る舞う自分たちの父親の姿に愛しさを感じているように思えた。
多分これから我が家にはお仏壇がやってくる。野副家のご先祖様を供養する役割がやってくる。
悪い嫁ですが、仏様になったお母さんにお詫びしつつ、この家のお嫁さんになっていくその日がやってきたように思える。
おわり。