前島賢の本棚晒し【復刻版】07:滝川羊『神々の砂漠 風の白猿神』
毎月、膨大な数の新刊が刊行されるライトノベルだが、裏を返せばその分だけ既刊が書店から消えていくわけで、そう考えると売り切れも在庫切れも品切れ重版未定もない電子書籍というのはありがたい。eBookJapanのラインナップを眺めていると、新刊書店どころか古本屋でさえ見かけなくなった、我が青春のライトノベルたちが最新刊と一緒に普通に並んでいて、思わず目頭が熱くなった。うぉう『友井町バスターズ』! きゃあ、『ねこたま』! ああ、何もかもが懐かしい……。
そんなわけで、そんな電子書籍ならではの環境に合わせ、本連載では、新刊とともにそんな過去の名作たちも取り上げていきたいと思う。
さて、ライトノベル読者であれば誰しもひとつやふたつ、あるいはもっと沢山、ずっと出ない続編をそれでも待ち続けているシリーズがあるはずだ。いや『E.G.F』の話ではない。eBookJapanに『E.G.コンバット』は未入荷のようだ。「デストロイの季節」についてはいずれ存分に語ろう。今回取り上げるのは、そんな『E.G.コンバット』と一緒に、我が魂の未完作品棚の特等席に並ぶ一冊だ。
滝川羊『神々の砂漠 風の白猿神(ハヌマーン)』(富士見ファンタジア文庫)。
本書の刊行は1995年。第6回ファンタジア長編小説大賞(現ファンタジア大賞)の大賞受賞作で、古くからのライトノベル読みには、新人賞受賞作品なのに一冊丸ごとプロローグという掟破りっぷりで知られている。
現在ではシリーズ前提のデビュー作は珍しくないが、当時はやっぱり完結が大前提。そんな時代に、未完という大きなハンデを抱えて投稿されて、なんと見事大賞を射止めた作品だ。しかもなかなか大賞が出ないことで有名なファンタジア大賞で!(大賞受賞作は26回で8作、最初の10年に限れば本作含めてわずか2作!)
この一事からも本作の尋常でない魅力を察していただけると思う。
本書の舞台となるのは、機械知性と人類の大戦争〈聖戦〉が文明社会を滅ぼし、地球の1/3を砂漠に変えた未来。それでも人類は砂漠の大地で強く逞しく生きていた。
空母・箱舟を拠点に、交易から傭兵稼業までこなす砂漠の何でも屋・大槻キャラバンに所属する整備員の少年・古城宴は、前文明の遺跡から前大戦の超兵器「神格匡体」ハヌマーンを発掘、そのコクピットの中に眠っていた記憶喪失の美少女と出会う。やがて宴は、彼女を守る為、風の白猿神のパイロットとして戦いに身を投じていく……というのがあらすじだ。
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