前島賢の本棚晒し【復刻版】17:富野由悠季『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』

 本記事はマガジン『前島賢の本棚晒し【復刻版】』に含まれています。連載の更新分と、今後更新される予定の記事が含まれているため、個別に購入して頂くよりお得になっております。

本記事は、電子書籍ストアeBookJapanに、連載「前島賢の本棚晒し」第10回として2014年11月28日に掲載されたものを、加筆修正の上再公開したものです。記述は基本的に連載当時のもので、現在とは異なる場合がありますが、ご了承ください。連載時に大変お世話になりました、そして、再公開を快諾頂きました株式会社イーブックイニシアティブジャパンの皆様に厚く御礼申し上げます。

 GレコのGは元気のGだ!
 小生は、富野由悠季監督のアニメが本当に大好きでありまして、『ガンダム Gのレコンギスタ』のおかげで毎日、元気でいられる昨今。ウェブの片隅から富野御大を応援すべく、今回は、この作品を紹介したい。

 偉大なるアニメ作家・富野由悠季は、みずから手がけた『機動戦士ガンダム』シリーズのノヴェライズをはじめ、多数の著作を持つ小説家としての顔も持つ。本作は、なかでもとりわけ評価が高く、「小説としての最高傑作」に推す人も少なくない作品だ。

 物語の舞台は、映画『逆襲のシャア』で描かれた宇宙世紀0093年の「第二次ネオ・ジオン抗争」「シャアの反乱」から12年後の宇宙世紀0105年。大好評のうちにOVA版が完結した『機動戦士ガンダムUC』の宇宙世紀0096年から、さらに未来の物語だ(正確に言えば、本書は、アニメ『逆襲のシャア』ではなく、その小説版の『ベルトーチカ・チルドレン』の続編となる為、『ガンダムUC』とはパラレルな関係にあるのだが、詳しいことは近くのガノタのお兄さんに訊いてほしい)。

 ホワイト・ベース隊をはじめ、数々のニュータイプ部隊を率いて戦ったブライト・ノアの息子であるハサウェイ・ノア。「シャアの反乱」において無断で出撃、愛する少女クェス・パラヤを殺害するという結果を招いた彼は、その記憶の呪縛から、反政府組織・マフティーに加わることとなる。
 時に宇宙世紀0105年、オーストラリアのアデレードでは、地球連邦政府高官の地球居住を認める法案の採決が行われようとしていた。これが可決されれば、地球環境の汚染が深刻化するばかりでなく、連邦政府の中枢は、地球に住む特権階級により事実上、世襲化される。
 ハサウェイ・ノアは、マフティー・ナビーユ・エリンを名乗り、法案の成立阻止と、腐敗した政府閣僚の粛正を掲げ、新たなるガンダム・Ξガンダムでエアーズロック上空を駆け抜ける……。

 本作は、テロ組織マフティーのリーダー・ハサウェイと、それに対抗する連邦軍キルケー部隊を率いるケネス・スレッグ大佐というふたりの男の対決を主軸として展開されていく。
 ゲームなどでΞガンダムに触れたことのある方なら、そのライバルとして即座に思い出すのは、異形のMSペーネロペーとそのパイロットのレーン・エイムだろうが、意外なことに原作小説では、その影はけっこう薄い。
 本書の主題は、若さゆえに、テロという短絡的な戦いに走ってしまう、MSに乗った未成熟な青年・ハサウェイと、自己の所属する組織の腐敗に気付きながら、そこで生きることをみずからに許してしまう、MSを降りた老練な大人・ケネスという対比にあるからだろう。
 そして、だからこそΞを最後に迎え撃つのは……いや、ネタバレはすまい。

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