前島賢の本棚晒し【復刻版】22:伊藤ヒロ『女騎士さん、ジャスコ行こうよ』
本記事はマガジン『前島賢の本棚晒し【復刻版】』に含まれています。連載の更新分と、今後更新される予定の記事が含まれているため、個別に購入して頂くよりお得になっております。
本記事は、電子書籍ストアeBookJapanに、連載「前島賢の本棚晒し」第17回として2014年12月12日に掲載されたものを、加筆修正の上再公開したものです。記述は基本的に連載当時のもので、現在とは異なる場合がありますが、ご了承ください。連載時に大変お世話になりました、そして、再公開を快諾頂きました株式会社イーブックイニシアティブジャパンの皆様に厚く御礼申し上げます。
勝手に行け。
……の一行で終わらせたいんだが、それだと原稿料泥棒の誹りは免れないので、しょうがないのでもうちょっとだけ書く。
今回取り上げるのはコレ。
https://ebookjapan.yahoo.co.jp/books/419530/
編集者が「ジャスコ」の文字を入れていいかどうか、イオングループに問い合わせたということで、一時期twitterでも話題になった一冊。
http://blog.mediafactory.co.jp/mfbunkoj/?p=27584
どう見ても出オチである。正直、このブログ記事が「本篇」であって、小説はただのオマケなんじゃなかろうかという感さえ漂わせる、圧倒的な出オチ力である。
内容はと言うと、あるところに女騎士がいて、ジャスコに行きました。
めでたしめでたし。
…………。
……。
まだページが埋まってない。
仕方ない。もう少し解説すると、本作はいわゆる落ちモノだ。
オークの軍団により滅亡したファンタジー王国から、幼女プリンセスのポー姫が、忠実な女騎士クラウゼラとともに日本のド田舎に逃げてくるというよくある話。
けれども舞台の平家町と来たら、超ド田舎にもかかわらず、宇宙人やら吸血鬼やらと言ったラノベっぽい勢力がすでに住み着いていて、ファンタジー世界からの亡命者なんて別に珍しくもなんともなくなっている……というのが新味か。
幼女のポー姫は近頃のラノベキャラらしくオタク文化をはじめとした日本文化に精通しており、主にジャスコに行きたがるのは彼女。
そんな姫に、オークにあんなことやこんなことをされちゃう低価格陵辱エロゲーとかをプレイさせられたせいで女騎士のクラウゼラは、「クッ殺せ」が口癖になってしまっている。
そんな連中がオタネタ連発のイージーなページ稼ぎ、もとい、抱腹絶倒のパロディギャグを繰り広げるので笑えばいいと思うよ。
……。
まー、あれですよ、とにかく真面目に書評する気が失せるほど、なげやりでいい加減な雰囲気のラノベであることが伝われば幸い。たまにはこんなノリで勘弁してくださいよ、悪いのは私じゃないですよ、こんな本出した著者ですよ。
著者の伊藤ヒロは、美少女ゲームのシナリオライター出身のライトノベル作家。
ゲームの方では『夢幻廻廊』や『ク・リトル・リトル』といった、かなりフェティッシュでハードコアで上級者向けな作品を多数手がけている。
小説の方では、スーパーヒーローの活動が法律で禁止された世界を描いたアメコミの名作『ウォッチメン』を、現代日本の魔法少女に置き換えた『魔法少女禁止法』や、『ドラクエ』のパロディとして書かれた『魔王&勇者モノ』作品群をさらにパロディにしたような、『魔王が家賃を払ってくれない』(本作のノリに一番近いのはコレか)などがある他、水島ジュンジ名義で『ラノベの教科書』というライトノベルの書き方本も出している。
いや、もうこれもヒドい本でねぇ。
とりあえず今(刊行当時2012年)の時点でラノベ作家になりたきゃ、バトル展開ナシのラブコメ書いて応募しろ、凝った文体を使うなら最初の一文以外読み飛ばされても大丈夫なように書け、そもそもラノベなんて中高生が登下校中の空き時間に読み飛ばすものなんだからちゃんと読まれると思うな(いずれも評者要約)等々、あまりに身も蓋もないアドバイスばかりで、現役ラノベ作家による「ぶっちゃけラノベ語り」として、作家志望者以外にもめっさ面白い。
ラノベ評論として、間違いなく名著である。
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?