前島賢の本棚晒し【復刻版】23:佐藤大輔『皇国の守護者』
本記事はマガジン『前島賢の本棚晒し【復刻版】』に含まれています。連載の更新分と、今後更新される予定の記事が含まれているため、個別に購入して頂くよりお得になっております。
本記事は、電子書籍ストアeBookJapanに、連載「前島賢の本棚晒し」第18回として2014年12月19日に掲載されたものを、加筆修正の上再公開したものです。記述は基本的に連載当時のもので、現在とは異なる場合がありますが、ご了承ください。連載時に大変お世話になりました、そして、再公開を快諾頂きました株式会社イーブックイニシアティブジャパンの皆様に厚く御礼申し上げます。
『魔弾の王と戦姫』『覇剣の皇姫アルティーナ』『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』など、昨今、にわかにファンタジー戦記が盛り上がっており、各レーベルからも次々、このジャンルの新作が登場している。
戦記モノの面白さに目覚めた読者の方に、是非手にとってほしい殿堂入りのシリーズを紹介したい。
https://ebookjapan.yahoo.co.jp/books/171250/A000147018/
著者の佐藤大輔は、おそらくライトノベル読者には、学園ゾンビパニック『HIGHSCHOOL OF THE DEAD』の原作者としての方が有名だろう。が、もともとは軍事シミュレーションゲームのデザイナーとして出発、後に架空戦記小説の分野で創作活動を開始し、かの押井守をして、「仮想戦記なるジャンルは佐藤大輔において頂点を極めた――というより、佐藤大輔という作家を世に送ることにおいて自己実現を果たしたのだ」とまで言わしめた作家である。
本書は、そんな戦記小説の大家によるファンタジー戦記だ。
物語は皇国と呼ばれる日本風国家に、帝国と呼ばれるロシア風国家が侵攻、北海道にあたる土地での決戦で皇国軍が無惨に敗北することから始まる。主人公の新城直衛は、味方の本土への撤退のため、わずか5百の兵で帝国軍4万を足止めをする「捨て駒」に命じられる……。
ファンタジーと言ったが、超常的な要素は控えめ。
作中の文明レベルは、蒸気機関がようやく実用化されたぐらいで、銃も本込式だから、だいたい19世紀中頃、隊列を組んだ歩兵同士が鉄砲を撃ち合う時代が終わろうとする、ちょうど過渡期だ。
大砲はどうやって狙ってどうやって撃つのはなんてやたらと細かい話にはじまり、兵站(補給)の重要性、経済と戦争の関係なんていう、そもそも戦争とは何か、といった基礎の基礎の話、そして火器の発展がいかに密集陣形や要塞と言った存在を時代遅れのものにしていったか、あるいは「無線通信」というものがいかに恐るべき兵器だったかという歴史のお話など、説得力にあふれた解説は、それだけ取り出しても十分に面白い。
世界観もいい。「天龍」と呼ばれる不思議な生き物が存在し、これと人類が結んだ「大協約」と呼ばれる契約が国際条約のような扱いになっていたり、月のかわりに輪があることで、「光帯の向こうに行く」といった独自の慣用句があるなど、時制も習慣もこっちとは微妙に異なっている。黒茶というのは、果たして珈琲のことなのか、それともウーロン茶みたいなもんなのか……こうやってあれこれ想像を広げられるのも、本作が優れたファンタジーである証拠だろう。
が、やはりこの物語の一番の魅力として、私は主人公・新城直衛の特異な性格をあげたい。
小柄で凶相と、どうにもヒロイックな外見ではないが、やることはもっとヒドい。
最初の戦闘でいきなり無能な上官を見殺しにし、敵の侵攻を妨害する為に、味方の村を焼き、町を砲撃するなんて作戦を立てる。
冷酷無比の戦闘マシーンかと思えば、実は戦闘の度に恐怖で手を振るわせる臆病者で、けれどもそれが「殺られる前に殺れ」的な攻撃性に繋がっているからタチが悪い。卑屈な外見のクセに、プライドは高く、一度、恥をかかされたら、自分の安全はちゃんと確保した上できっちり復讐する。幼少期に、自分をいじめていた連中を事故に見せかけ抹殺した程度はほんの序の口である……。
しかも、これだけやりたい放題やっておきながら、実は人並み以上の優しさと自意識も備えており、年少の兵隊の命を助けるなどしたかと思えば、次の瞬間、偽善でないかと自己嫌悪に陥ったりするから、余計に面倒くさい。
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