前島賢の本棚晒し【復刻版】20:中村航/中田永一『僕は小説が書けない』
本記事はマガジン『前島賢の本棚晒し【復刻版】』に含まれています。連載の更新分と、今後更新される予定の記事が含まれているため、個別に購入して頂くよりお得になっております。
本記事は、電子書籍ストアeBookJapanに、連載「前島賢の本棚晒し」第13回として2014年12月5日に掲載されたものを、加筆修正の上再公開したものです。記述は基本的に連載当時のもので、現在とは異なる場合がありますが、ご了承ください。連載時に大変お世話になりました、そして、再公開を快諾頂きました株式会社イーブックイニシアティブジャパンの皆様に厚く御礼申し上げます。
『夏と花火と私の死体』や『失踪HOLIDAY』など、乙一の名義ではライトノベルからも作品を発表していた中田永一と、『デビクロくんの恋と魔法』、『100回泣くこと』などの映画化作品を持つ中村航が合作した、小説を書くための小説が本書だ。
ライトノベルではなく、一般文芸の棚に置かれるハードカバーだが、主人公の高校生が作中で書こうとするのはライトノベル風のファンタジーなので、ここで取り上げても問題はないだろう。多分。実際、ストーリーやキャラクター造形はわりとライトノベルっぽいのだ。
みずからの出生にまつわる事情から、家族とギクシャクしている主人公の光太郎は、「なぜか不幸を呼び寄せる」体質の持ち主。それが起こしたありがちラッキースケベイベントをきっかけに、先輩女子・七瀬と出会い、文芸部に導かれ、小説を書き始める。
一見、優しそうに見えて、光太郎の作品を容赦なく批判する隠れドSな七瀬先輩に加えて、アニメオタクの部長やら、ござる口調の歴女な副部長やら、イラストが付けば、ふつーに人気が出そうなキャラが揃っている。
しかし何より、光太郎の作家修業に大きな役割を果たすのはふたりのOBだ。
ひとりは、ゲームのシナリオなどをてがけるプロの「ギョーカイジン」である原田先輩。そしてもうひとりは、卒業後、畢生の大作をものにすべく四畳半のオンボロアパートで貧乏生活を続ける修行僧じみた大男の「御大」。
ところが、このふたりの先輩のアドバイスはまったく違う。
光太郎に、プロットの作り方やシナリオ理論の存在を教え、才能がない者がそれでも小説を書くためには技術に頼れと諭す。ところが御大はそれを全否定し、小説とはただ己の才能のみを信じて、おのれにしか書けないものを書くものだと主張する。
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