前島賢の本棚晒し【復刻版】18:鏡貴也『黙示録アリス』

本記事はマガジン『前島賢の本棚晒し【復刻版】』に含まれています。連載の更新分と、今後更新される予定の記事が含まれているため、個別に購入して頂くよりお得になっております。

本記事は、電子書籍ストアeBookJapanに、連載「前島賢の本棚晒し」第11回として2014年11月28日に掲載されたものを、加筆修正の上再公開したものです。記述は基本的に連載当時のもので、現在とは異なる場合がありますが、ご了承ください。連載時に大変お世話になりました、そして、再公開を快諾頂きました株式会社イーブックイニシアティブジャパンの皆様に厚く御礼申し上げます。

 どこの業界にも共通する問題だろうが、コアなファンや評論家が褒める作品と、実際に売れてる作品というのはなかなか一致しない。
 ライトノベルなんて、特にこの乖離が激しいというか、ネットに上がる書評・感想の数と、売り上げが反比例してるんじゃないかと思う時があり、ライターとして反省することもしばしばであるorz。

『伝説の勇者の伝説』や『いつか天魔の黒ウサギ』といったベストセラーで知られるライトノベル作家・鏡貴也も、まさにそれゆえに読み逃してしまっているファンが少なくないのではないかと思い、今回取り上げる次第。

 ほぼ月刊~隔月刊というハイペースで新刊を出す速筆家として知られる著者だが、その原動力のひとつが彼の文体だろう。
 しばしばライトノベルは、会話文ばかりとか改行で紙幅を稼ぎ過ぎとか批判される。一見、彼の文体は、その典型のようにも思える。改行の頻度であったり、あるいはあまりにざっくりとした描写――というより説明――であったり、文学ファンの目線からは稚拙にさえ感じられるかもしれない。
 しかし、それゆえにこそ、この作家の小説には、書き手の書く速度と読み手の読む速度が一致するかのような、「リアルタイム感」「実況感」とでも呼ぶべきスピードが存在する。
 そこには、間違いなく、この作家独自のリズムが宿っている。

 この文体=「語り口」が、みずからの特性に適した物語=「語るべき内容」を得たとき、まさにオンリーワンな小説が生まれる。
 それが本作『黙示録アリス』だ。

ここから先は

1,144字
この記事のみ ¥ 150

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?