前島賢の本棚晒し【復刻版】21:滝本竜彦「ネガティブ・ハッピー・チェーンソーエッヂ」
ふとした偶然から、日常の裏側で戦い続ける美少女と出会った少年が、彼女とともに戦うハメになる……というのがごく一般的な現代学園異能のストーリーの導入である。平凡な十代の少年は可愛いヒロインとともに戦うのである。いやいやだったり、むりやりだったり、しぶしぶだったり、やれやれだったりしながら。
だが、そんなのは嘘だ、絶対。
十代の男子なんて、本当は戦いたくて戦いたくて仕方がないはずだ。少なくとも僕はそうだった。理由なんて必要ない。敵の正体も設定もどうだっていい。とにかく戦えればそれでいい。夜の街で美少女とともにバトルでもしなけりゃ、こんな退屈な日々なんて、とてもじゃないが生きていかれない。十代の頃は、ずっとそう思っていた。
滝本竜彦と言えば、ひきこもりラブコメ『NHKへようこそ!』で有名だが、そのデビュー作である本書は、そんな僕にとって、今に至るも一番しっくりくる現代学園異能だ。
いや、この本が出た時には、この「現代学園異能」というジャンル名は生まれていなかったが、ともかく本書は異能バトルである。
異能バトルであるからもちろん、主人公の山本くんは平凡な高校二年生である。
異能バトルであるからもちろん、山本くんは、夜の街で謎の怪人と戦う雪崎絵里ちゃんと出会う。
そして異能バトルであるからもちろん、絵里ちゃんは美少女だ。
けれども、異能バトルであるにもかかわらず、絵里ちゃんは山本くんに一緒に戦えと誘ったりお願いしたり命令したりは全くしてくれないのである。
絵里ちゃんにとっては山本くんなんて通行人Aみたいなもんだからである。
さて山本くんはどうするか。
勝手に付いていくのである。山本くんには戦う理由がない。絵里ちゃんにも山本くんを連れて行く理由がない。だいたい山本くんは何の役にも立たない。ただの邪魔である。しかし、それでも山本くんは絵里ちゃんに無理矢理付いていくのである。
とにかく戦いたいから。
……ぶっちゃけただの現実逃避である。
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