400字ショートショート「人魚のコレクション」
いつからかハンカチを集めている。人間が海に落としていったもの。
手に入れても使うことはない。濡れても拭うだけだ、私達は人魚なのだから。
そのハンカチを拾ったのは春待ち時だった。まだ冷たい水を吸って吐いて、水面下を遊泳する私。尾に銀の小魚がまとわりついて、くすぐったい。
ぽちゃんと音がして、見上げたら紺色のハンカチが浮かんでいた。持ち主はどんな人だろう。見えたのは船上の後ろ姿だけ。かっこいい気がする。優しそうな気がする。
私、あの人がいい。
彼を一目見たい私は計画を立てた。あの船が同じルートで帰ってくる日に雲を集めて波を追い立てて、大きな嵐を起こしてしまおう。
私の部屋にはキャビネットがある。海水に耐えるメルバウ材でお父様が作ってくれた三段のもの。一番上の段には地球儀サイズの瓶が並んでいる。
「今度の人も私を愛さなかった」
分厚いガラスの中、布きれが折り重なっている。もう二度と陸に戻らない男達のハンカチが。