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100m選手の練習例③~ウエイトトレーニング~

アスリートが運動指導者として活躍する為に必要な学びを提供しているメディアです。

早いもので今年の国体が終幕した陸上競技。
まだ一部試合は残っていますが、シーズンを終えて来季に向けての取り組みへと移っていく選手も多くなってくる時期です。
そんな陸上競技の花形である100mの為の練習例を取り上げるシリーズをお届けしておりますが、今回のテーマはみんな大好き(?)ウエイトトレーニング!
では早速参りましょう!

適切なトレーニングができているか?

近年では24時間ジムが乱立していますので、ウエイトトレーニングにアクセスしやすい環境になっています。
かつては大学のトレーニングルームや郊外のジムに行かないとウエイトトレーニングが出来なかった人も、今では比較的安価で時間を気にせずジムに行けるようになったのは非常にいいことです。

その様な時代の変化に伴って、実業団やクラブチームに在籍する選手も最近はウエイトトレーニングを取り入れているケースが多いように思われます。
しかし、適切なトレーニングが出来ているかというと「?」となることも多いのが実情です。
この件については、ウエイトリフターでもあるパーソナルトレーナー山城氏とのコラボ企画でお話をしていますので、是非ご覧ください。


目的はなにか?

さてここからが本題。
今回の記事では上記マガジンでは語り切れなかったなかったことを綴ります。

それはまさに「目的はなに?」ということです。
トレーニングというのは必ず目的が先立ちます。
スプリンターの場合、ウエイトトレーニングを行うことは手段であって目的ではありません。
「手段の目的化」が起こりやすいのがウエイトトレーニングの罠です。

例えば先のマガジンで取り上げたクイックリフトやデッドリフトも、その重量を高めることや、そもそも取り組むことは手段でしかないわけです。
100m選手がウエイトトレーニングに取り組む時、「目的はなに?」と問われればそれは間違いなく「100mを速く走る為」ということになります。

ウエイトトレーニングをやって筋力を高めたり筋量を増やしたりすることが、100mを速く走る為に役立つかどうかはその選手個人の現状がどうかによるでしょう。
もしウエイトトレーニングの実施レベルが高まることが速く走ることに直結するのであれば、ウエイトリフターやボディビルダーは走りが速くなるということなりますが、それはどう考えても違うということは分かるでしょう。

目的は「100mを速く走る為」であるということを忘れないようにしましょう。

筋の弾力性

骨格筋(以下、「筋」)は本来、弾力性に富む組織です。
あまり生理学的な話に傾倒するとややこしくなるので、この記事では簡単な表現で申し上げますので予めご了承ください。

例えば筋が急激に引き伸ばされる局面があったとしましょう。
そうすると筋に「おいおいそれ以上引き伸ばされちゃ痛んじまうぜ。だから俺は縮むぜ」という反応が現れます。
この反応を「伸張反射」と言います。
この性質を利用した「ストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)」によって筋は弾むように働きます。
多くのスポーツ動作はこの「弾み」によって成り立っています。
当然、走りはこのSSCを大いに活用すべしです。

ボディビルディングでは、この「伸張反射」が極力働かないように「ジワジワ効かせる」ようにやることがあります。
これはボディビルなら大いにアリですし、トレーニング初心者が適切なフォームを獲得する場合においては必要な局面であるとも言えます。
また、明らかに筋量が不足している選手には役立つかも知れません。

しかし速く走る為には、伸張反射を大いに活用したいわけですし、この反射を消すような「ジワジワ効かせる」ような手法ばかりやっていては、「体は大きくなったけど一向に走りが速くならない」ということが起こります。

ここでも「目的はなにか?」ということが大切だということが分かりますね。
その選手がどの様なレベルにあって、どの様なトレーニングをする必要があるのかはそれぞれですが、いずれにしても筋の弾力性が失われるような鍛え方ばかりしていてはスプリンターとしては勿体ないですし、逆に言えば鍛え方によっては筋の弾力性を高めることもできるということです。

ちなみにレベルの高いウエイトリフターやボディビルダーも筋も非常に高い弾力性を誇っています。
ただ走る練習はしていないので速く走れるわけではありません。

これは私の経験談ですが、大学生の時に怪我をしてウエイトトレーニングばかりしていてベンチプレスが100kg挙げられるようになり、見るからにムキムキになった時期があります。
ベンチプレス100kgというボーダーを突破したこと自体は何となく嬉しかったのですが、お察しの通り走りは全く速くならなかったばかりかむしろちょっと遅くなっていたのを今でも思い出します。
その後、今述べた様な筋の弾力性を高める手法でトレーニングを再構築したところ、走りの感覚も良くなって無事にそこそこのアスリートとして競技に復帰することができました。

「それは正しくない!」に注意

ウエイトトレーニングというとやはりボディビルディング的な手法が主流と言って差し支えないでしょう。
また一般の人がムキムキを目指す為にジムに通うというのは、ある意味では健全なことで大いに結構なことだと思います。私のジムにもそういったお客様は沢山いらっしゃいます。

筋の弾力性を高める手法というのは、ボディビル的な考え方で言うと邪道というか、チート(ずる技)とか、「それは正しくない!」という風に言われがちです。
これは特に「トレーニー」と呼ばれる、特に指導者として活動していない方から思われがちです。

特に24時間ジムなんかに行くと、スプリンターよりもボディメイクをしている人の方が圧倒的に多いはずですから、「ジワジワ効かすような」トレーニングをしている人が多数でしょう。
ですからスプリンターがやるべき手法で行っていると「あいつ何やってんねん」みたいな奇怪な目で見られるかもしれません。
しかし睨み返してはいけませんよ。穏やかに穏やかに。

何度も言いますが、「目的はなにか?」が最も大切です。
スプリンターでも「ジワジワ効かすような」手法で行った方がいいこともあるかもしれません。

「正しい」とか「正しくない」なんてことはなく、「適切か」「不適切か」のどちらかであって、要は是々非々なわけです。
自分のやるべきことに集中しましょう。
それはボディビルをやっている人がボディビルに集中するのとまったく同じことです。

重さで張り合うな!

ウエイトトレーニングは重量で比較しやすいものなので、自分より小柄な人が自分より重たいものを持ち上げていると「おい舐めんなよ」みたいな気持ちになって張り合いがちです。
落ち着きましょう。
あなたの目的はその小柄な人に重量で勝ることではなく、100mを速く走ることです!

また自分より遅い選手が自分よりも高重量でトレーニングをしていて悔しいとか、ライバル選手が挙上重量のベストを更新したというニュースを目にして焦るとか、そんな感情にも注意です。
100mで速く走ってその人たちに勝てればそれでいいわけです。
またその人たちはただ重たいものを無茶苦茶なフォームで挙げていたり、粘りに粘ってジワジワ挙げていたりしませんか?
その人たちに比べてあなたが美しく目的に見合ったフォームで実施できているのであれば、重量なんてそれほど大きな問題ではありません。

もしウエイトトレーニングで数値化できるもので勝負するなら(必要のないことですが、ライバルと一緒にトレーニングする際なんかはひとつの「やる気スイッチ」になるかもしれません)、「重量×挙上速度=パワー」の数値でやりましょう。(※挙上速度を測定し、「パワー」を算出してくれる機器があります)
簡単に言えば、100kgを1という速度で挙上する(100×1=100)のと、50kgを2という速度で挙上する(50×2=100)「パワー」は同じということです。100kgが0.8という速度でしか挙がっていなければ(100×0.8=80)、50kgを2で挙げた人(50×2=100)の方が「パワー」は上回りますね。
「パワー」を逐一モニタリングし、それがが下がってきた時点でそのセットを終了するトレーニング方法もあります。

まとめ

100m選手がウエイトトレーニングを取り入れる場合、まず目的を明らかにしましょう。最終的な目的が「100mを速く走る為」であることは疑いの余地がありません。

速く走る為には、ウエイトトレーニングによって筋の弾力性が高まるようにすることがオススメです。もちろん筋肥大を狙う場合もありますが、ただデカくするだけで速く走れるならボディビルダーは世界陸上で天下を取れることになってしまいます。

またクラシカルなボディビルディングの世界に引きずり込まれないようにしましょう。ボディビルダーにはボディビルダーにとっての、スプリンターにはスプリンターにとっての「適切」と「不適切」があります。その世界が交わってしまうのが不特定多数のトレーニーが入り混じるジムという空間です。お互いの世界を尊重し合って、気持ちよくトレーニングしましょう

そして最後に、ライバル選手と重量だけで張り合うのはやめておきましょう。(張り合いたかったら勝手にすればいいですが……)
もし勝負するなら「パワー」という土俵で!

最後にもう一度だけ申し上げますが、「100mを速く走る為」にウエイトトレーニングに取り組んでいるのだということをお忘れなきよう。

かなり抽象的な表現が多くなりましたが、参考になりましたら幸いです。
最後までお読み頂きありがとうございます。

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