これからの広告がやるべきことってなんだろう?
僕は広告代理店を経営しています。
「デジタル×クリエイティブ」を強みに成長しており、ありがたいことに5期目でメンバーは50名を超えています。
そんななか、デジタル広告がいま大きな転換点を迎えていることを感じつつあります。今回はその話をしたいと思います。
「課題解決型」広告の限界
デジタル広告の転換点。
それは「課題解決型」広告の限界が見えてきているということです。
課題解決型広告とは、悩みを抱えている人に「こんな悩みを抱えてますよね? ではこの商品どうですか?」と訴求するやり方です。
顧客の課題を起点にしたこうした方法はとてもよく使われています。当然ながら成果に繋がりやすいからです。業界では「ダイレクト広告」と呼ばれています。
しばらくこのやり方はうまくいっていたのですが、最近は限界も感じるようになりました。
というのも、そもそもダイレクト広告というのは「顕在化している需要」を売上につなげる手法です。ダイレクト広告のみに傾倒してしまい「そもそもの需要をつくる」部分に投資をしなければ頭打ちがおきるのは必然です。
さらには、そもそもあった需要自体も競合が増えることによって奪い合いになってきています。最近は似たような商品が巷に溢れています。こうした状況下で商品を売るには「わざわざその商品を選んでもらえる理由」をつくらないといけない。
そうなったとき、課題解決型のダイレクト広告では限界があるのです。
「これがいい」と思ってもらうには?
たとえば、化粧水を売りたいとします。
課題解決型の広告だと「保湿に困ってますよね? じゃあこれをどうぞ」という訴求になるでしょう。
これまではお客さんも「これでいいか」という反応をしていました。でも、今は商品が溢れているわけです。「保湿だけなら、あの商品もあるし、この商品もある。別にこれでなくてもいいか」となってしまうのです。
今必要なのは「これでいいや」ではなく「これがいい!」と思ってもらえるような訴求です。
つまり「ブランド」を作っていかなければいけない。
課題解決型だと、課題が深刻であるほど売れやすくなります。そのため、ともすると強い言葉や表現で引っ張ることにもなりがちです。それだと一時的に商品は売れるものの、一方でブランドを毀損することにもなりかねない。
いま、多くの企業さまはそこに悩んでいます。
「ダイレクト広告にたくさん投資をして、順調に売上は伸びてきている。けれど、ここから先は今のやり方だと難しい。とはいえ、いまダイレクト広告に使っている予算を、いきなりブランド広告にかけすぎるわけにもいかない……」
ダイレクト広告にも投資しながら、どうやってブランド形成やブランド認知に拡張していけばいいのかーー。
この問いに対して、僕らは答えを持っています。
それは、
「ダイレクト広告の数値分析に基づいた広告運用」と「ブランド作りに寄与するクリエイティブやコミュニケーション設計」。この2つを両立し、最適な投資バランスを実現できる広告を生み出すこと。
それができる会社が、今後の広告業界では求められていくはずだと考えています。
これからの広告クリエイターに求められるスキル
時代の変化によって、最適な広告のあり方が変わってきている。
それに伴って広告クリエイターに求められるスキルも変化しつつあると思っています。
広告クリエイターと聞いて思い浮かべるのは「クリエイティブディレクター」でしょうか。CM制作や商品パッケージのディレクションなどを幅広く行なうのが主な仕事です。
そこからダイレクト広告が増えたことで「ダイレクトプランナー」という職業が生まれました。CMは主にクリエイティブディレクター、ダイレクト広告はダイレクトプランナー。そうやって分かれて発展してきました。
(実際、デジタル代理店では「クリエイティブディレクター」という肩書きのダイレクトプランナーも結構いるので、実際役割を果たせてる人はほとんどいないのが実態です。)
しかし今、従来のダイレクト広告は限界が見えてきている。
そこで優位性を作るために、ダイレクトプランナーであっても従来のクリエイティブディレクターが持っているような知見や考え方を持たないといけなくなってきました。ブランド形成に寄与するには、クリエイティブやコミュニケーションの質を高めることがとても重要だからです。
動画広告も媒体ごとに高度な設計が必要
逆にクリエイティブディレクター側も、デジタル広告の知見が必要になってきています。
たとえば最近の動画広告を見ていると、運用した際の「視聴率」まで考えて設計しているクリエイティブディレクターはなかなかいません。
例えば「15秒フルで見てもらえる前提」で動画広告を作ってしまうと、TikTokやYouTubeではスキップされてしまいます。ほとんどのユーザーは見てくれない。
テレビCM、YouTube、YouTubeshorts、TikTok、Instagram、X……それぞれの媒体に合わせて、より高度な設計が必要なのです。そこまで考慮しないと、視聴者の大半は商品名にすら辿り着きません。
いくらクリエイティブがよくても、デジタルの知見がなければ、なかなか顧客の成果にはつながらないのです。
求められる次世代のクリエイティブディレクター
このような中で必要とされるのはクリエイティブのスキルとデジタル広告の知見、両方を持ち併せているクリエイティブディレクターです。
ただ、こうした人材は現状かなり少なく、希少価値が高いと思っています。僕らも、採用の時点で両方のスキルがある人に出会えることは、ほぼありません。
だから弊社では、ひとつの案件に「制作プロダクション出身のメンバー」と「デジタル代理店出身の営業のメンバー」を入れるようにしています。
出自の違うメンバーが集まったうえで「最大の効果を出すにはどうしたらいいか?」を議論する。そうやって経験を重ねるうちに「ダイレクトにも強いクリエイティブディレクター」が育っていくようにしているのです。
そうすることで、クリエイティブディレクターがCMなどのクリエイティブだけではなく、ダイレクト広告も含めて一貫でお客様を担当できる体制をつくっている。これは他社と比べても珍しいことかなと思っています。
テレビCM×縦型SNS広告で売上が伸びた
ここで実際にクリエイティブとデジタル、両方の知見を掛け合わせることで大きな成果に繋がった事例があるのでひとつご紹介させてください。
セルフで簡単にヘアカラーができる「got2b」という商品を展開しているヘンケルさんという会社があります。FUSIONでは、SNSでの縦型動画に加えてテレビ・ウェブCMを支援させていただきました。
ポイントは縦型広告とテレビCMとで見せ方を大きく変えたこと。
縦型広告では「got2bを使うと髪色がどんどん変わっていく」動画を作成。美容師さんがよくTwitterやインスタでやっている「ハサミをかざすとお客様が変身する」フォーマットを参考にしています。
TikTokとの相性がよさそうだと思って実施してみたところ、とても高い効果が得られました。
一方でテレビCMは、エンタメ感よりも「ブランド感」を重視して作りました。TikTokの動画だと髪色のニュアンスまではきれいに見えないので、そのぶんCM動画では「色」の表現にもこだわりました。
TikTokでは「まずパッケージを認識してもらうこと」に目的を置いています。そして、テレビ・ウェブCMでは「こんなにキレイな発色なんだ」と認識してもらう。媒体それぞれで役割を補完しながら展開していったのです。
施策の結果、ブリーチシリーズはアマゾンでの売り上げが昨年対比163%、ボンディング・メタリックスというブランドに関しては昨年対比2倍となりました。
分析してみると「テレビだけ」「インスタグラムだけ」で接触したユーザーよりも「両方の媒体で接触した」ユーザーのほうが、ブランドに対する好意度が高いことがわかりました。
メディアミックスでのコミュニケーション設計が、潜在顧客の意識変容につながり、成果が出た事例です。
クリエイティブと商品訴求の両立
僕らはものすごく特別なことをしているわけではありません。
コミュニケーション戦略と設計をしっかり立てたうえで、一つひとつのクリエイティブのクオリティーをすべて高めることを意識しています。
たとえばテレビCMのクリエイティブは、冒頭の撮り方をあえて違和感のある構図にすることで視線を引きつけています。
動画の最初からいきなりロゴを入れたのもポイントです。
クリエイティブを優先させすぎると商品ロゴは最後に入れることも多いのですが、今回は最初から入れている。商品も最後に紹介するのではなく、最初にすぐ出てきます。
全体を通しておしゃれな印象ではあるのですが、実はけっこう強めに商品やロゴを出している。こういうCMは意外とない。
音声でも「ボンディング・メタリックス」「got2b」などの商品訴求をかなり行なっています。6秒ごとに3連続くらいやっている。それをいかに広告っぽくなりすぎないようにして成立させるか? という部分を意識しました。
クライアントからの要望で「極上ツヤ」のようなコピーも入れています。訴求メインになると、クリエイティブとして見せるのが難しくなるのですが、うまく落としどころを探りました。
「数字」と「資産」を同時に実現する
クリエイティブとしてしっかりカッコいいのに、商品訴求もできる。
ここには技術が必要です。冒頭から訴求していこうと考えすぎると、つまらない広告になってしまう。そこにはクリエイティブの力が必要です。このバランスが重要なのです。
ダイレクト広告は、数字を作ること。
ブランド広告は、資産を作っていくこと。
ひとつの広告予算で数字と資産の両方をつくることができたら、お客さんにとってもすごくいい投資になります。ブランドイメージを保ちつつ、メディア上で数字が出るような設計に落とし込む。そうすることで結果的に、本質的で効果の高い広告になると考えています。
僕が言いたいのは「ダイレクト広告でもブランドをつくっていくことは可能だ」ということです。
実際にうちでは、ダイレクト広告であっても「ブランドリフト調査」を実施しており、効果を実証できています。多くの代理店さんは「できない」と思っているかもしれません。でも、できるんです。
「獲得単価」だけではなく「ブランド作り」にどこまでいい影響を与えられたか? そこを大切にすることで、顧客にとってより本質的な価値を提供していきたいと思っています。
高品質なクリエイティブをデータで運用する
運用に関しても、必要なのは「高品質なクリエイティブ制作」と「データ分析による最適化」の2点だと思っています。
つまり、高品質なクリエイティブを複数制作し、データを分析して「良い」となったものを前面に出していく。
僕が最近の広告業界に対して課題に感じているのは、クリエイターではない人がクリエイティブを作るようになってきていることです。
「クリエイティブを大量に作ってデータをとる」ことは、すでに多くの代理店がやっています。ただ、デジタル的な思考が強いと、どうしても「とりあえず100個作って、どれかが当たればいいや」となりがちです。
数百本のクリエイティブを作らないといけないため、1本あたりの単価は数千円程度になる。そこに良いクリエイターがアサインされることはあまりありません。
結局、手数が足りなくなるので、営業担当者などがなんとなく考えたクリエイティブがお客様に提供されることになりがちなのです。
ダイレクトの訴求だけでは差がつかなくなってきている時代の中で、クリエイティブのクオリティは、差分を作るための重要な要素です。
ところが、それを提供できている会社は少ないのが現状だと思います。
また、仮に当たりのクリエイティブが出たとして、そのクリエイティブがユーザーに当たり続けることが、ブランドにとってどういう意味を持つのか? 印象やブランドのトンマナをコントロールできるのか?
そういったコミュニケーション設計ができる人もチーム内に必要です。
「売上」より「顧客価値」を追いかける
僕らが大切にしているのは「売上」より「顧客価値」という指針です。
全員がお客さまのほうを向いて仕事をする。それを会社の行動指針として決めています。
短期的な売上を追いかけてしまうと、お客さまのほうを向かずに「代理店都合」の空虚な売り方をしてしまいます。「キャンペーン中でキックバックがあるから」とか「安く枠を仕入れてるから」とか。そういう「空虚なもの」を売ってしまいそうになる。
空虚とまではいかなくても「自社で売れるもの」の範囲内だけで考えてしまうこともあります。クライアントにとってはダイレクト広告をやったほうがいいのに、YouTuberしか売れないからYouTuberを売る。僕も若手のころ、そんな経験をしてモヤモヤしたことがあります。
だからこそ、当たり前だけど「顧客価値」を第一に考える。
これを会社全体で徹底していれば「空虚さ」は生まれないと思います。お客さんの役に立つことを本当にいちばんに考えていたら、自社の都合で、価値を出せるかわからない商品を売ったりはしないはずです。
価値創出が先で、お金は後。この順番を間違えてはいけません。
僕らは「新しい答え」を出し続けたいと思う
いま、広告業界は過渡期にあります。
従来、別々のものとして捉えられていた「ダイレクト広告」と「ブランド広告」。しかしそれは「業界の成り立ち上、そうなっていただけ」で、お客さんにとってベストな状態とはいえません。
価値ある広告を作るには、そこに対して「新しい答え」を出していくことが必要だと思います。
今回僕らは「New Answer Company(新しい答えを出す会社)」という言葉を会社のタグラインにしました。
新しい答えを出す。
それは働き方などの社内環境に関しても同様です。広告業界は特に、いまだにブラックなイメージがあったりもします。だからこそ、ベンチャーでも子育てしながら働けるような制度や風土づくりに力を入れています。
自社だけでなく、どの会社もみんな、自分たちなりの「答え」を出す存在になってほしい。そう僕は思っています。
既存の指標や価値観にとらわれることなく、真の価値を追求する。そうすれば、どんなに時代が変わっても、売るものが変わっても、本質的な成果を出し続けることができると思うのです。
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FUSIONで手がけた広告はこちらにまとまっています。よろしければご覧になってみてください。
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