Rugir-光をつかむ-⑥
これで以上です。ありがとうございました。
ドナイレとリゴンドウに敬意を表して。
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空気が変わりパレはそのやりづらい空気に苦心する。するとヒダルゴが意地の攻めを見せる。だが、差は歴然としていた。攻め込もうと動くヒダルゴをパレは徹底してカウンターで迎え撃つ。再び作戦を切り替えたのだ。最後までぶれないその姿勢とスタンス。ではあの攻撃は何だったのか。負けないために手を抜いたのか。
それとも差を見せるため?
一瞬見せたのは本性かそれともただの力みか。いずれにしてもゴングは鳴り、試合は終わった。
中立地でやる試合なら118-108でパレ。10ラウンドのダウンとファイルラウンドのダウンを入れての計算だ。だが、ここはヒダルゴのホームタウン。異常なほどのヒダルゴへの依怙贔屓はどう働くのか。マイケル・バッファーも大変だ。
「ナウマッチイズ、スプリット・ディシジョン。ジャッジDJロス、114-113。ヒダルゴ」
にわかに、歓声が上がった。
「ジャッジRパーラ・シニア、115-112。パレ」
観客がざわめき始める。スプリット・デシジョン。どちらかを勝ちとするか、それとも。
「ジャッジDモラッティ、114-113」
「ソー、ニューWBAスーパー・WBCダイヤモンド・WBO&リングマガジンスーパーバンタムウェイト、チャンピオン・オブ・ザ・ワールド……」
一瞬だけ、マイケル・バッファーが発言するのをためらった。ように見えた。コンマ数秒の間は、誰もを緊張させた。
「ギリェルモ・パレ!」
ギリェルモの時点で、空気はため息に変わった。落胆を隠せないファンは肩を落とし、絡んできた男は「これからはパレだな。あいつは本物だよ」と言い出す。都合のいい男である。その空気を打ち破るようにぼくはマスターに声をかけた。
「お勘定」
吠えるパレに観客は関心を示さない。ブーイングから静寂が身を包む。横の観客はこう言った。「強いけど、つまんねえな」。真理を突いていた。だが、正しくはないと思った。戦いに面白さを求めてはいけない。大事なのは純粋なもの。勝ちか負けだけだ。それがボクシングというものであり、戦いというものである。明確に勝ったのはパレであり、糾弾は間違っている。パレは間違いなく、スターを倒して間違いなく名声を得る権利を得たのだから。満ち足りた気分。
表情が全てだった。その時点で負けは決まっていたようなものだろう。パトカーはもう音を止めていた。間違いなくパレは光をつかんだ。俺はパレに先を越されたような気分になった。だが、パレのボクシングはエキサイティングさには欠ける。いくら美しくとも、それをしていいのは一握りのスーパースターだけだ。
「ねえ、エッチしようよ」
ガールフレンドは甘えた声で言ってきた。
「減量中だからだめ」ふてくされる彼女の唇を俺は塞ぐ。それから、ささやく。「今はこれで我慢して」
ふてくされた彼女は俺の首に抱きついた。一度バランスが崩れてから、お姫様抱っこをして彼女をベッドルームへ連れて行く。パトカーの音がしない闇をにらむ。いずれ朝は来る。きっと光はやってくる。その時、俺に光をつかめるか。
店の外へ出る。マスターがお勘定の時に悪かったね。と言ったのが耳に残った。それから、ウインクをした。ぼくは驚いてから、笑った。純粋に勝利を目指したパレは客受けしないかもしれない。だが、最後までぶれなかったそのスタイルはやはりぼくに大きな感動をもたらすものだった。
陽の差す方向を見て思わず目を細める。暗い道に見えた光が差したようなイメージが浮かんだ。
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