生徒による学校自治を民主主義の学校にしたい
高校生の頃、私を含めほとんどの生徒が校則に不満だけ言って誰かが変えてくれるのを待っている、もしくはもうあきらめている、そういう態度だった。そして、学校を出た後も会社や国の政策に対して同じような態度をとっている。
働き方や政治に関する国際比較を見てみると、日本の不満だけど何もしないという特徴が数字に表れている。じゃあ、どうしたらいいのか、その問いへの答えがなかなか見つからなかった。
そんな中、 #みらいの校則 という企画のおかげで、自分の学校の校則を良くしようと活動する学生達を知った。学生時代、校則に不合理さを感じじながらも、行動することなく不満を言うだけだった私とは違い、彼らは時間をかけ、仲間と一緒に試行錯誤しながら着実に活動を進めている。
不満を感じたものに対して、それを改善しようと行動できる立派で貴重な人たちだ。
そんな彼らの活動に参加したいと思った。
だから、学生でもなく、親でもなく、住む地域も違うけれど、同じ社会にいる市民として、私も校則について考え、noteを上げる。
noteのテーマは彼らのように不満に対して行動できる人を増やす仕組みを校則を使って作れないか、というものだ。
そもそも今の校則の何が問題なのか
ブラック校則の内容にばかり目が行きがちだが、校則が抱える一番の問題はその制度的な未熟さではないか。校則の決め方も、運用方法も基本的には学校長にその権限があって、決め方や運用方法も教師側が自由に決めることができる。
何十年も教師としていろいろな学校を見てきた人に話を聞いたところ、現状、多くの学校では教師のみの話し合いで校則が決められ、教師によって運用されているとのことだった。
それでは教師の質によって校則の良し悪しが決まってしまうし、生徒が介入しにくいのは当然だ。
とはいえ、校則の内容に制限がないわけではない。ざっくりいうと、校則が学校教育にかかわる正当な目的のために定められたものであって、その内容が社会通念に照らして合理的なものでなければならないといった制限がある。(詳しくは、大津尚志『校則を考える ー歴史・現状・国際比較ー』を見てほしい。)
この社会通念に照らし合わせて合理的、というところが難しく、これまでの裁判ではブラック校則は全面的にではないにしろ認められている。
そんなこんなで「髪を染めると非行にはしる」「ツーブロックは学生にふさわしくない」というただの感想のような理由で校則を維持できてしまっているのが現状だ。
生徒側はこれに対抗する手段をほとんど持ち合わせていない。生徒が生徒会を通してアンケートや調査をして校則を変えようとしても、校則の権限は校長に存在するため、簡単に無視できる。
可能性があるとすればメディアやPTAを巻き込、世間の目という圧力が必要になるだろうが、高校生ならその大変さをすぐに想像し、普通はあきらめてしまうだろう。
この状況では、良い校則が生まれるパターンは、志の高い教師が自ら根拠にもとづく校則を作るか、偶然、生徒と教師で共通する常識や価値観の範囲内で校則を作ったときぐらいだろう。
ちなみに、日本の公立学校職員の平均年齢を見てみると小・中・高すべてで40歳を超えている。ジェネレーションギャップという言葉があるように、今の10~20代の持つ常識や価値感とそれを支える経験が40代とは大きく違う。
であれば、仮に生徒の声を聞かず、教師側の常識や価値観からのみで校則を作った場合、生徒側が納得する校則を作り、維持し続けるのは難しいだろう。
そもそも生徒が校則に納得することを目指すべきなのかという論点もある。生徒の納得よりも、大学進学等のため勉強に専念させることや、非行に走らないようにすること、ルールに従うことを覚えさせた方がいい、という意見だ。
ただ、その考えのもとで規則を定めるのであれば、髪や、スマホの制限が学力向上や非行防止などに良い影響があることを明確に示す必要がある。示せないのであれば、その規則はただ生徒の自由を奪うだけのものでしかない。
私たちの国は、個人の自己決定権を憲法で認め、子供の権利条約にも批准している。それ以前に、身分制でもあるまいし、人から自由を奪うのに、その理由が曖昧なものでいいはずはない。
根拠もなくよくわからない理由で自分の見た目や行動を強制される経験は生徒にとっては社会のルールを守る練習ではなく、不合理や理不尽に対して文句を言わず耐える練習でしかない。
真に社会のルールを守る練習とは、ただ今あるルールを維持し、強いられて従うということではなく、今の社会に必要なルールを考え、必要に応じてルールを改善し、納得の上で自ら従う経験を積むことだと思う。校則はその大切な力を学ぶいい教材になるはずだ。
現状、「前髪は眉毛の上まで」「髪を染めてはいけない」といった、髪の長さや色が生徒に与える害を根拠や理論を持って説明できず、生徒やその保護者などから理解されない校則が長い間維持されている。一つ例を挙げれば、髪の長さが過剰に短く定められ、ツーブロックも禁止される校則は私が知る限り10年以上もそのまま残っている。
残ってしまっているのは教師がほぼ自由に校則を決めることができ、生徒にそれを変える機会と力がなかったからだ。このような変えられない不合理に対して従うことを強いられた経験は、生徒に不満があってもどうせ意味がないから行動しないという社会への向き合い方を強化してしまっているのではないか。
新しい校則には、生徒側に変える機会が明確に存在し、変えようとする生徒を後押しする仕組みが必要だ。
みらいの校則
ブラック校則を問題視し、校則とはこうあるべきだという議論は様々な場所で行われている。そこで話されている内容をまとめると、大体このような感じだった。
・校則が生徒の権利を不当に奪わないよう、教師だけでなく、生徒と保護者等も参加できるようにする
・校則を決める際はその話合いを公開し、記録する
・少数の声を尊重する
・校則の内容を公開する
これらの点については私も同意見であり、すでに何度も語られているので改めて話す意義を感じない。このnoteで私が話したいのは、あくまで不満に対して行動できる人を増やす仕組みを校則を使って作れないかである。
もっと詳しく言えば、不満があったときに、その問題を自分たちの問題だととらえ、そこに強い関心を持ち、仲間を募り、改善していける力を生徒が校則にかかわる中で養っていくにはどうしたらいいかということである。
結論から言えば、実際に試すのが1番だろう。教育の中で、仲間を募り、自分が生活する環境を作り上げているものを改善したり、運営したりする経験をすることが必要だ。
学校をでた後に直面する不満・問題は、より複雑で変えにくく、1人では解決できないのに、仲間を集めるのも大変だ。そんな難しい状況でいきなり行動するのは難しい。練習する場が必要になる。
その練習の題材として校則はすぐれている。教師と生徒と生徒の親、そして地域という複数の立場の視点を認識できる機会となり、身近で、自分達のことであるため議論にも参加しやすい。さらに、自分たちが話し合った結果が学校生活という変化が体験できる場で反映される。
校則の見直しなら、授業やイベントとして定期的に行うことで練習回数も確保できるだろう。生徒が自ら扱う規則をきめ、同じ目的を持つもの同士で仲間を作り、その仲間たちと校則を考え、教師や親、地域住民が参加する場で議論する。それを毎年行っていく。議論で決まった校則を運用するのも生徒が行う方がいい。より現実的な校則を考えられるようになるだろう。
それらの取り組みを通して、自分たちの生きる環境は自分たちで作るものであり、変えるのも自分たちだという認識や、実際に活動する際に求められる仲間を募る力、議論する力、運営する視点や能力を養うことができる。
もちろんそれらの活動には教師の適切なサポートが必要だ。そうなれば教師に求められるスキルや負荷は増えてしまうことになる。教師の業務内容の見直しやスキルトレーニングの仕組みも同時に必要になるだろう。
おわりに
校則の見直しが求められている中で、生徒が主体となって校則を変えようという動きが広がっている。それが、ただ一部の生徒の体験、かつ、校則の内容変更で終わってしまってはもったいない。これまで話した内容は民主主義への理解を深めることにもつながるはずだ。
日本では学校で民主主義の制度と、民主主義の危険性を暗記に近い形で学ぶ。「地方自治は民主主義の学校である」という言葉を覚えていても、その意味をしらない人がほとんどだ。今の教育内容では、生徒たちは民主主義のことを知らないまま、体験しないまま学校を卒業していってしまう。
例えば、よく言われる日本人の政治的・社会的な活動意欲の低さは、そもそも知らない・やったことがないのであれば当然である。人はやっても意味ないと思えることや知らないことには興味をもてない。日本の場合は政治の話も避けられてしまうので、なおさら政治や社会に興味関心を持つ機会が少ない。
さらに、たまにある貴重な議論の場も、自分の意見を言うことや、批判する•されることに慣れていない人が多く、議論の目的も「どう改善していくか」ではなく、中傷、悪者探しや知識をひけらかすことになりがちである。結果、政治の話っぽいことが行われても大体があたり触りのない話、もしくはただの悪口の言い合いで終わってしまっている。
働いてしまうと、自分の仕事に多くの時間と体力が割かれてしまい、仕事や娯楽以外のことを新しく始める人は少ない。だから、高校や中学の早いうちから、教師というサポートがあるうちに体験するのがいいだろう。
校則にかかわる中で仲間を作り、自分たちの生きる場を変える・運営する経験を通して社会を改善する力を養えるもの、それこそみらいの校則だ。
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