インドネシアの法律を勉強して面白いと思った点をいくつか
倫理の授業の正式名称は、Business Ethics, Law and Sustainabilityで、順番に進んでいきます。Ethicsが終わりLawが始まりました。
わたしの学生時代を思い出すと、法学部でしたが法律の授業が本当につまらなかったです。
クラスメイトに聞いたらわたしの若い頃と同じで、「Ethicsの方がおもしろかった、Lawは退屈だ」と言っていました。
さらにわたしにとって困ったことに、授業はすべてインドネシア語で進められています。外国人がいるとは先生も聞いてなかったらしいです。インドネシアらしいいい加減さを見ました。
通訳を一人つけてもらってもちょっと厳しいです。通訳はパジャジャラン大学の法学部の学生です。
インドネシアの法律は大陸法
世界の法律は大きく分けてCommon lawとCivil lawに分かれます。Common lawは判例法とも呼ばれ英米法の体系です。Civil lawは大陸法で日本はこっちに入ります。明治期にドイツとフランスから法律を導入したので、両国が採用する大陸法になったというわけです。
インドネシアはオランダ植民地時代に最初に法体系が整備されたため、大陸法を採用するオランダの影響を受け大陸法になっています。
ざっくりと違いを説明すると、Common lawは過去の判例と比べて該当する事例を判断します。大陸法は明文化された法律に基づいて該当する事例を判断します。Common lawも大陸法のような成文法はありますのであくまでも一般的な話です。
インドネシア法とイスラム法の関係
どっちが優先するかといえばインドネシア法になります。わたしは日本人でイスラム教徒ではないのに、イスラム法に従ういわれはないですからね。
ただ、イスラムの影響を受けています。それがHalal Causa(ハラルカウサ)です。最近日本でも耳にすることが多くなったハラルですね。ハラル食品とか言います。最初先生はHalalに従わない契約は無効と説明しました。
わたしは質問しました。Halalって同じイスラムでも解釈が違うんでしょ、しかも弁護士がイスラム教徒じゃなくてキリスト教徒だったらどうする?ハラルの内容なんて分からないですよね。それが後からイスラム教徒にこの契約はハラルに反するから無効ですと言われるんですか?法律なら明文化させるべきなんじゃないですか?というものです。
先生は明文化はできないといい、休憩時間にさらに詳しく話を聞いたら、Halal CausaのHalalはイスラム教のHalalとは違い、日本でいう公序良俗に近いとわかりました。英語だと、Public order and moralsです。
日本でいう民法第90条「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」ですね。公序良俗に反するってどういう行為ですかというのは細かすぎて明文化に向かないんです。
分かりやすい例でいえば、賭博の契約、人身売買や奴隷契約などは無効です。
インドネシアではイスラム教の教え、キリスト教の教え、仏教、ヒンドゥー全部の教えが混ざり合って、判断されるのだろうと思います。
小テストでHalal causaが適用される実例が出てきて驚く
例題はこんな感じでした。
口頭の契約が成立するのは、OfferとAcceptanceがあるかどうかで、今回は労働を提供(Offer)、収益の2割だといって報酬を支払っている(Acceptance)ので、成立しているでしょと思いました。わたしは授業で話している内容がほぼ分からないのでアメリカ法の解釈で進めています。
インドネシア法の口頭契約の成立要件を確認してもらったら、アメリカ法とはちょっと違うのですが、そこはそこまで違和感は感じませんでした。
ところが、法学部出身者によれば、カフェの運営の過程で、男性客向けの女性によるダンスショーを提供しているのがHalal causaに引っかかるので、労働の提供の部分は無効(Null and void)だというではないですか。パートナーシップ契約は成立しないということです。
口頭契約じゃなくて、書面の契約でサインしてたとしても無効になるはずです。
ストリップ小屋の運営をしているのであればわかりますが、普通のカフェでおそらく夜営業のときにライブ演奏をやったり、ダンスショーをやっているだけなのが、なぜ公序良俗にひっかかるのか理解に苦しみました。
ビールを売ったり、タバコを売ったりしてもそうなる可能性があるということですよね。
わたしはVC時代にマレーシアの国営銀行とやっていたシャリアファンドのことを思い出しました。シャリア=イスラム法なので、イスラム法にのっとったファンドということです。
もう20年近く前の話になりますが、当時あるコンビニチェーンへの投資話が持ち上がり検討していたことがあります。まだインドネシアの所得が低い時代で、そのコンビニは店舗の大半をバリ島で展開していて、売り上げのトップ3が、ビール、タバコ、コンドームだったんです。
「Mr. Uda、これは無理。」と言われました。シャリアに引っかかるということですね。ハラム(ハラルの反対で教えに反している)の商品を売っていますから。
もしコンビニ運営のパートナーシップを作って、お金を出す人、お店を経営する人に分けてやったとしても、酒、たばこ、コンドームが主力商品の店なので、Halal Causaで契約は無効になるということですよね。
なんかやりすぎなんじゃないかという気はします。非合法のドラックを販売しているとかではなく、合法的な商売ですからね。
次の授業で先生に聞いてみようと思っていたら終わってしまい聞けませんでした。
インドネシアの汚職防止法
インドネシアの場合、国家公務員が決められたプロセスに反して国に損害を与えたときは、贈賄の有無を問わずに汚職法の罪に問われる。
わたしの感覚では、公務員が金銭の要求をするとか、見返りに便宜を図ることを約束するとかは最低ないと罪に問えないはずですが、インドネシアは動機は問わず、単に国家に損害を与えただけで汚職法が適用されてしまうのです。
民事責任を負うのであればまだ理解できますが、刑事罰を負うというのはどうなんでしょうか。決められたプロセスに従わなかったというのは、言い換えれば、決裁ルールを無視したとか、決裁に反した行為をしたとかだと思います。それって犯罪ではないですよね。
該当する条文を見せてもらったらはっきりCriminalと明記してあったので、これ以上つっこんでも哲学論争になってしまうので止めました。
インドネシアの司法試験
興味があったのでいろいろと聞いてみました。
質問:インドネシアは法学部の卒業生の何割が司法試験を受ける?
答え:年によって変わるのでなんともいえないが半分以下
質問:司法試験の合格率は?
答え:3割くらい。年によって変わる。
質問:弁護士、裁判官、検察はどうやって振り分けるの?
答え:弁護士になりたい人は司法試験を受ける前に、研修をうけないといけない。研修は試験ではなくただ研修を受ける。
裁判官と検察は別の試験を受けるCivil examination(たぶん国家公務員試験のことかと思います)。
質問:成績がよい生徒が行くのは裁判官と検察どっち?
答え:裁判官。理由は裁判官の方が給与が高いから。
わたしのクラスメイトのインドネシア大学法学部出身者は、1セメスター終了時点で中央銀行での採用が決まりMBAを中退してしまいました。
わたしの通訳をしてくれているパジャジャラン大学の法学部4年生は二人とも法律事務所で働きたいので弁護士の道を目指すと言っていました。
法律の授業は終わり、サステイナブルに入りました。