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組織のジレンマ 権限移譲ゆるめるか締めるか

いつも楽しみに見ている脱日本おじさんさんのNoteに、組織におけるルールの重要さというテーマがありました。
彼はカナダのMBAに通っており、年が行ってからチャンレンジするところに勝手に親近感を持っています。

今回は権限移譲のジレンマについて記事にしたいと思います。わたしのMBA論文のテーマ「現地法人のローカライゼーション(現地化)」と関係しています。


まずはルールから

組織として守らなければならないルールは幅広いです。
広い意味では日本の法律や規制に縛られるし、海外展開していれば海外の法律や規制にしばられる。分かりやすいルールです。
あるいは、マニュアルや手順書もルールの範疇です。日本のメーカーでよく起きる不正問題は、たいていこの手順書の通りにやらないために起きています。

ルールを決めるのは誰なのか。ルールに従わせる人、従う人は誰なのか。
この大きな枠組みの一つが今回テーマにする権限移譲です。

権限移譲って何?なぜ必要なの?

例えば、日本の会社法の建付けでいえば、会社の権限はすべて株主が持っています。それを取締役会に移譲し、取締役会が執行役に移譲し、さらには執行役から本部長、部長、課長と移譲していく仕組みになっています。

なぜ権限移譲が必要なのか?といえば、組織が日々起きる問題に素早く対応するために、事情をよくわかっている現場に決定させる方がなにかと便利だし、正しい結果になることが多いからです。

例えば、わたしが先月参加したインドネシア国際モーターショーで、わたしの古巣、三菱自動車が出展していました。
チラシを用意していたら全部配り終わってしまって、いそいでコピーしたいとき、普通はすぐにコピーしますよね。そんなとき、決裁を取ってくださいとか、日本本社にお尋ねしてからですなんてやっていたら、モーターショーは終わります。
車の横に立つ女性がコロナに感染してしまったので、別の人を雇ってもよいかとか、感染した人に休みの間の手当てを払うべきかとか、いちいち本社に聞いたりしませんよね。
そんなことはその場で決めたっていいし、せいぜい現地法人の人事課長とか人事部長が決めればよい話です。

じゃあ、どこまで権限移譲するべきなのでしょうか。金額が大きい小さい、企業イメージへの影響(たとえば全世界同じロゴマークや色合いにするとか、標語を統一させるとか)、時間的制約があるかないかとか(ようは緊急事態)、会社の業種や、その会社が置かれている状況でも変わってきます。

なぜ全面的に権限移譲をしないのか?権限を与えないのか?

権限移譲をどんどん進めればいいじゃないか。現場を知らない無関係な人間に判断できるわけがないし、そんな時間をかけているうちに競合先が素早く対応して負けるし、待てば待つほど被害がかさんだり費用が増えたりするんだよ、というクレームがよくあります。

青島刑事の名ゼリフ「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きているんだ!」の世界ですね。

わたしはVC時代は現場側、シャープ、三菱自動車時代は本社側でコントロールする立場だったので、両方の気持ちが分かります。

(1)牽制機能が必要
稲盛さんの「実学」にもありますが、人間は不正をするもの、自分によいように変えてしまうものなので、必ず誰か別の人間が決定プロセスに入る必要があります。

一番分かりやすいのは、経費申請です。経費を使う人がいる=申請者。中身(金額、使途)が正しいか見る人がいる=確認者。経費を送金する人がいる=実行者。というように複数にプロセスを分けています。
もし一人で全部できるようになると何が起きるかと言えば、もっとたくさん使ったことにしようとか、自分の口座に振り込んでやれとか勝手にできるようになります。

サラリーマンならわかると思いますが、よい成績を出してボーナスを多くもらい、高い評価を受け出世したいという欲がありますよね。
倫理観のない人は、後任者の迷惑も考えず、費用を下げようと極端に長期の契約を結んだりします。
あるいは長期的にブランド力の向上につながるマーケティング費用を使わず、商品の値引きに使ってしまい、その時は売上があがるけど後から安物イメージの払しょくに苦労するとかも起きます。
ダメ営業マンです。

こういうことをさせないように、本社がコントロールする必要があります。

(2)全体最適の視点が必要
現地法人の経営でいえば、予算があります。
今年はこれこれにいくら使ってもよいという取り決めです。
売上、利益、設備投資、労務費、広告宣伝費、研究開発費とかですね。
ある拠点が計画よりもかなり上振れると、来期に使う予定だった費用を今年に使ってやれとか、たくさん設備投資してやれとか、研究開発を前倒しで始めてしまおうとか、考えがちです。来期に余裕を持たせたくなるんです。
それを勝手にさせてしまうとどうなるか。調子のよい拠点と悪い拠点がいるので、それぞれのでこぼこが全体として調整され、予算通りになるはずなのに、勝手に費用を増やして利益を消すと、落ちますよね。

その手の調整は、本社のCFO部門が、CEO、COOと連携しながら決めていくレベルの話なんです。全体が見えるポジションですから。
一拠点の拠点長は全体を見ることはできません。

なので、権限を与えないというわけですね。

権限移譲をしなさすぎる=コントロールを強めることの弊害

どういう状態かというと、本社側で全部コントロールするということです。
よく「はしのアゲサゲまで口を出す」という言い方をします。

これをやると決定スピードが遅くなります
例えばよくあるのが、予算申請して通れば決裁なしに費用を使えるか、もう一度費用申請すべきかの議論です。

海外の営業拠点、たとえばシャープでも三菱自動車でもBtoCを行う企業は広告をうったり、販促費を使います。これは競争相手次第で戦略を変えますし、広告枠がたまたま安く空いているとか、まとめて1年分取れば安いとか、タイミングで費用が大きく変わります。

本社にお伺いを立てているうちに機を逸するんですね。結果として費用が高くついたり、タイミングがずれ効果が落ちたりします。
現地に任せることで効果的な運用をするか、効率が多少落ちても本社が使う内容を確認するかはポリシーの問題です。

現地のモチベーションが下がる
人間の心理として、信じて任せてもらえるとやる気が出ますよね。
常に疑われ、いちいち確認を求められ、しかも質問内容がピント外れなんてことを繰り返すと、やる気がなくなります。
利益を最大化しようと一生懸命やっているのに、妨害しているのか?とさえ思います。

シャープにいたとき、高橋社長(鴻海が来る前の最後の社長)がよく仰っていました。
「檻の中で虎や熊と懸命に戦っているときに、一緒に戦わないばかりか、檻の外からこっちを槍で刺してくる奴がいる。」

この気持ちはすごく分かります。せめて黙って見ていろ、邪魔すんなということです。現場にいると、こういう気持ちになるんですよね。
特に大企業になればなるほど、事なかれ主義になっていきますので、この傾向は高まります。

出向者はまだ日本本社への忠誠心が高いから、文句を言いながらも頑張ってくれますが、現地スタッフはそうはいきません。
本社のコントロールが強い会社というのは、日本人で現地法人を回そうとする傾向も強まりますので、現地スタッフにとってガラスの天井ができます。

ここにいてもこれ以上よい待遇は望めないと思い辞めていきます。
あるいは、よい駐在員や現地法人の社長が、本社との防波堤となって、現地スタッフを自由に信頼して働かしているのに、人事異動で本社に戻ってしまうタイミングとかも危ないです。

ろくでもない日本人が来たな、もう辞めよう、となってしまいます。

長くなってきたので、今回はここまでにします。
次は、具体的な事例を使いながら、権限移譲のバランス、管理軸(縦軸、横軸)はどうあるべきかの話を書く予定です。


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