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インドネシアにおけるRide-Hailing(配車サービス)のインパクト試算 【2023】

バンドン工科大学の研究者(Dr. Yos Suntiyoso他)が2500人もの関係者へのインタビューを通して、経済インパクトをまとめましたのでご紹介します。
英語ですが、ご興味のある方は以下のサイトの記事の一番したにあるPDFのところから、資料請求していただければと思います。


■ Ride-hailingとは何かのおさらい

日本だとあまりなじみがないと思うので、簡単に説明します。
アメリカのUberが配車サービスをスタートし、すぐにLyftなど競合ができました。そのうちRide-hailingからFood deliveryにも進出しドライバーの空き時間の有効活用と収益化を始めます。
日本だと配車サービスよりUber Eatsの方がなじみがありますね。

東南アジアではシンガポールのGrab、インドネシアのGojekが事業を開始します。
Gojekの創業者で、今は教育大臣を務めているNadiem Makarim氏は、Gojekのビジネスモデルを「お金はあるが時間がない人と、お金はないが時間がある人がそれぞれ足りないものを交換する仕組み」と言っていました。
こういうことを言える人ってVCに好まれるんですよ。

ASEANのGDPの半分はインドネシアなので、インドネシアが主戦場となっており、GrabとGojekのマーケットシェアは50%ずつで、激しい競争を繰り広げています。簡単にいうと販促費を大量に使ったプロモーション合戦です。

■ インドネシアにおけるRide-hailingの市場規模

まず消費者が何を目的に使っているかのデータです。複数の目的で使っている場合はダブルカウントするので合計が100%を超えます。
1位:移動手段 60%
2位:フードデリバリー 55%
3位:ショッピング 26%
4位:個人の荷物の配送 6%
5位:ビジネスの荷物の配送 1%

フードデリバリーの利用者は78%がレストランなどの業者で、一般消費者は22%。一方でフード以外のデリバリーになると逆転し、業者が29%、一般消費者が71%になります。

それぞれの利用者が何名いて、年間いくら使っているのかの数字があります。どうやってはじいたのかのやり方は記載されていませんでしたが、インタビュー結果の回答率から全年代別の人口に当てはめて計算したのだろうと思います。

総利用者は1億900万人(利用目的別に集計しているのでダブルカウントあり)、わたしの方でざっくりダブルカウント効果を差し引くと7400万人なので、人口の27%が何かしら利用していることになります。

総消費額は年間383 trillionルピア(3.6兆円)です。インドネシアのGDPの2%にあたります。日本で比較するとGDPは550兆円なので、経済インパクトとして11兆円くらいあるということですね。

■ 時間節約、コスト節約効果の試算

この調査のおもしろいところは、Ride-hailingのアプリを使うようになって、個人の時間がどれくらいセーブできたか、お金がセーブできたかも調べているところで、その経済インパクトも試算しようとしています。

はっきり言って、どれくらい時間が余ったかとか、空いた時間を何に使っているかなんて、正確に覚えているわけがないので、いいかげんな数字だろうとは思いますが、それでも興味深いです。

総節約時間は39.8億時間、余った時間の利用は以下の結果です。
1位:なにもしない 37.2%
2位:家族との団らん 26%
3位:散歩にいく 12.4%
4位:ショッピングにいく 7.4%
5位:オンラインショッピング 5.8%
6位:運動 3.7%
7位:お祈り 2.5%
お金を生みそうなのはショッピングと運動くらいで、直接的な経済インパクトは低そうです。心の余裕をもたらすことで、副次的な効果はあるでしょう。

そしてインタビューの結果、なんと96%がRide-hailingに非常に満足または満足と回答しており、不満と回答した人は0.1%もない(わからないくらい少ない)です。

さらには、Ride-hailingを利用した結果、自分の所有するバイクや車の利用頻度を減らしたという人が、2輪で57.68%、4輪で7.04%います。
4輪がたったの7%なのは、ちょっと意外でした。日本で都市部を中心にRide-hailingが浸透すると、車の所有率が下がると言われていますが、もしかするとそこまで下がらないかもしれませんね。
ここはもう少し深堀した情報がほしいです。自分でバイクや車を持っているのに配車サービスを使う用途別の数字とかですね。

■ 業者(レストラン等)への効果

フードデリバリーのパートナーになる前と後で、どれくらい収入に変化があったのかのデータがあります。10都市の平均ですが、パートナーになる前の月収が360万ルピア(3.4万円)、パートナー後が920万ルピア(8.7万円)となんと2.5倍以上になっています。

東南アジアは伝統的に自炊しないで外で食べ物を買う人が多いのですが、もしかするとフードデリバーのおかげで外食率がさらに高まっているのではないかと予想しています。
そのデータは取られていないようで残念です。もし先進的な取り組みをしたレストランが、変化に取り残された小さな町かどレストランのシェアを奪っているだけの構図だと、何も経済インパクト生み出していないことになるので、ここは調べないといけない部分です。

■ ドライバーたちの実態調査

正規社員かパートタイムかの聞き取りについては、2輪でパートタイム率7.6%、4輪で5.6%と意外に低いです。日本のウーバーイーツに影響されたため、わたしは副業のイメージが強かったです。

副業が総収入に占める割合は、2輪のパートタイムは46%、4輪は32%で、当然ですが収入総額はフルタイム従事者よりも大きいです。
ちなみに、フルタイム従事者の月収は2輪で400万ルピア弱、4輪で800万ルピアと倍も差があります。
初期投資の差を考えればこんなものですかね。

運転手の就業動機の調査です。これもちょっと意外でした。トップは業務時間の融通が利くところと思っていました。
1位:収入がほしい 37%
2位:業務時間の融通がききやすい 24%
3位:より高給を求めて 13%
4位:前職を首になった 11%
5位:他に仕事がない 8%

ちなみにドライバーになる前に失業していた人の割合は2輪で23.6%、4輪で22.4%です。失業者対策としても本当に有効ですね。
Gojek創業者が考えた、「金はあるが時間がない人と、金はないが時間がある人が、互いにないものを交換する」結果、40億時間の余暇と3.6兆円の経済効果をもたらしたのです。すばらしい。

ドライバーが何を恐れているかの調査もおもしろいです。これは率というよりも回答数だったので、多い順だとこんな感じです。
1)なかなか仕事が入ってこない、2)収入が安定しない、3)道路が混みすぎて危険、4)ボーナス、インセンティブがよくない、5)強盗にあう、6)客からのレーティングが低い、7)ドライバー待機所で脅される、8)携帯電話の番号が駄々洩れでプライバシーが守られない。

金を稼ぐっていうのは簡単ではないということですね。

わたしは道を間違えたり、お釣りを用意していないドライバーがいると辛口の評価をつけているので、レーティングをこんなに気にしているのならちょっと手加減しといた方がいいなと思いました。

この次に飲食店をはじめとしたビジネスサイドの調査が続くのですが、文字数もかさんできたので、この辺で止めます。
ご興味があるかたはサイトから直接資料を請求しお読みいただければと思います。

■ 最後に

今回の調査内容は非常に興味深かったので、みなさまにもぜひ共有したいと思い記事にしました。

うまくいっているビジネスモデルを学ぼうとすると、頭の良い人が後から理屈づけてきれいに整理されたストーリーに仕立ててしまいがちで、ストーリーから外れる話や矛盾する話は切り捨てられる傾向にあります。

大多数のスタートアップは、やっている本人すらもよく分かっていないぐちゃぐちゃな状態で、あっちこっち右往左往しながら(いわゆるピボット)、なんか最初に思っていたのと全然違うけど、できましたみたいな感じです。
だから起業家はすばらしく、価値が高い。VCも同じですがアートの世界と思います。理屈や再現性のあるシンプルな世界ではありません。
言い換えれば、答えがない世界に挑戦しているということですね。

本当に大事なのは裏側にある話、実はこうなんですよというリアルな話の方なんですよ。その事業をやっている本人にしかわからない本当のノウハウが詰め込まれている可能性がありますし、何か新しいビジネスの話を聞いた時に、より深く洞察する訓練にもなります。

この手の経済レポートや産業レポートでおもしろいものがあれば、また共有するようにします。

本当は自分で調査したいですが、もっとインドネシア語ができるようにならないと話にならないですね。

GrabのヘルメットにGojekのユニフォーム


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