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MBA(理系+インドネシア)の授業で出てきた面白い着眼点

わたしがバンドン工科大学の授業で期待していたことの一つに、インドネシア人の発想、若い人たちの発想から学ぶ、があります。
経験を積めば積むほど考え方が凝り固まっていきますので、自分の脳や発想に刺激を与えたかったのです。
1か月強の授業を通じて、そう考えるんだ!という驚きがいくつかありましたので、今回4つご紹介させていただきます。

またおもしろい話がたまっていきそうな予感がするので、数か月後に第2弾もあるかもしれません。


理系のあたまで会計を理解しようとするとこうなる。

Financial Reportの授業で、FIFOを習っていたときです。FIFOとは在庫評価の方法で、日本語でいう先入れ先出し法First in First out、つまり最初に購入した在庫を先に使う。反対がLIFOでLast in First out、最後に購入した在庫を先に使う。他に平均法もあります。
インフレの世の中では、同じ商品であっても昔に買ったものは今買うものより値段が安いですね。なので昔の在庫を先に使うと売上の原価は下がり利益が増え、在庫の金額の減りが少なくなるので期末の在庫の金額が増えます。LIFOにすると逆のことが起きます。
平均法を使っていた会社がFIFOに変えました、会計上のインパクトはどうでしょうか、という例題を使って先生が説明したところ、ある学生が質問しました。

先生、在庫の中身は何も変わっていなくて、数も変わらないんですよね。なんで価値が変わるのかが理解できないです。
英語で説明しないといけないので彼の思いがなかなか伝わらず、結局あとにしようとなったのですが、授業のあと彼がなんで納得がいかないのかインドネシア語と英語を交えて話をしていたのを聞いて驚きました。

わたしの想像も入るのですが、彼の頭のなかはどうやら物理学でいう質量保存の法則のような完全に理系の世界になっており、物理学の前提で会計をとらえようとしていたのです。在庫を質量のある物体とみて、最初の在庫を使ったことにしようが、最後の在庫を使ったことにしようが、今ある在庫=物体の質量の総量は何も変わっていないというわけです。

かなり斬新ですよね。彼の質問は他にもおもしろいものがあり、たいていが本質的な価値は何も変わっていないのに、数字だけを変えることに何か意味があるのだろうかというものです。

例えばEPS(一株あたり利益)を習っていたとき、自社株買いをすると発行株数が減ってEPSがあがり、理論上株価があがるという説明にも、質問していました。
これも質量保存の法則系の質問で、中身は何も変わっていないですよね、なんか意味あんの?という感じです。計算したらそうなるよね、分母が減るんだからと言っても、いやそれはわかるけどそんなことをする意味がわからない、だって会社の中身は同じなんでしょという反応です。
彼は一種の天才のような気がします。性格はおだやかでやさしく、ひ弱なオタク系です。決して傲慢じゃなく、知に対して誠実なだけで、わたしは気に入っており、もっと質問しろといつも思っています。

理系が物事をあいまいな状態で進められないとこんな感じになる。

製造コストの話をしているときに、日本語で言う直接費、間接費の話になりました。直接費をどうやって配分するか、間接費をどうやって配分するかの話で質問が続出して止まりました。先生も早く次に行きたいのになぁという感じで困っていました。

どんな感じだったかというと、彼らは頭がよく回転も速いものだから、頭の中で無茶苦茶シミュレーションしている感じなんですよ。
カフェの店員がミルクの量を適当にしていたり、こぼしてしまうかもしれない、理論上のコーヒー一杯あたりのミルク消費量と合わないこともあるけどどうすんのとか、本当に使っている時間だけで電気料金を配分していいのか、装置によっては電圧が違うかもしれないぞとか。机をつくるのに必要な接着剤や塗料の量は本当は人によってばらばらなんじゃないのかとか。
正しい計算なんてできっこないだろ、こんないい加減な数字使って何を導き出そうとしてんの?という疑問あるいは疑念が渦巻いている感じです。教室がそこら中でざわついていました。

別のNoteの記事で、UCバークレーのポスドクの人たちと議論すると、すぐに話が止まるという話を書きましたが、それに近いです。
宇宙学の専門家にダークマターの説明をしてもらおうとしているのに、聞き手たちが前提となる重力の概念であーでもないこーでもないと議論を始めてしまい、全然先に進まないんです。理系の人間は、前提をないがしろにせず、ち密に事実や証明を積み上げて結論に達する癖が身体に染みついているんです。

こういう人たちに会計のある種いい加減な匙加減はなかなか伝わらない。ビジネス経験があればまだいいんですが、大学を出てそのままMBAコースに入ったアカデミックの経験しかない人たちが大半なので、大変です。

先生も管理会計の世界では数字はある種決めの問題だから、多少のずれがあってもいいとか、考え方に一貫性があればいいんだとか割り切ったことを言えばいいのに、「理解しやすくするために、意図的に物事をシンプルにして説明しているんだ」としか言わないんです。

最後はみんな大人の対応で、腹落ちしてないけどまあいいやとなっていました。

インドネシアならでは発想?~世の中悪い奴だらけで無法地帯~

もしかして日本の学生も同じ可能性はありますが、やたらと粉飾したらどうなる、騙されたらどうなる、契約を守らなかったらどうなる、そもそも契約を結んでいなかったらどうなる、という無法地帯を前提とした質問が多いです。

他にも残業代を払ってもらえません、友達が給料を払ってもらえません、どうしましょうか?という、それ授業で聞かないで弁護士に相談してね、先生弁護士じゃないよ、という内容の質問もあります。

会計の歴史は粉飾や不正会計のオンパレードで、それを防ぐために規制が強化されていった訳ですから、不正は今後も起きると思います。また、インドネシアはなんでもありの世界なのも事実ですが、せめてどうやったら粉飾や不正を防ぐ仕組みを作れるかとか、そっちの視点で考えてほしいですよね。

これから国を担っていく人たちなので、仕組みを作る方に彼らのマインドもだんだん変わっていくと期待しています。

自分たちの将来が気になるがゆえの質問

AIがこれから発達してくると、自分たちの仕事はなくなってしまうんでしょうか、そうならないためにどういう仕事を選べばよいでしょうか、といった質問がよく出ます。また出たって感じです。

マネージャーとして必要な資質、リーダーとして何が必要かという授業なのに、どういう資質を持った人が会社にほしいと言われるのでしょうか、組織で出世するのでしょうか、という自分の将来の話に置き換える質問が多いです。
まあ、確かに一般論で話すより具体論で話す方がみんなも理解しやすいかもしれないし、インドネシアってこうなんだと知る機会になるから個人的にはいいんだけど、せっかくMBAの授業なんだからもうちょっと高度な議論をしたいですよね。

もしかしてそうではない人もたくさんいるのかもしれませんが、クラスメート全般的な特徴として、安全志向で保守的な人が多いという印象です。給料が高い大きな組織に入って出世していきたいという感じです。
無茶苦茶優秀なんだから、もっと野心をもってほしいなとやきもきしています。

日本からの留学生も保守的な考えの人間が多い気がしました。と言いつつ、考えてみればわたしの頃も同じでした。大企業に行くのが当たり前という風潮がありましたね。

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