インドネシアのポップミュージックから学ぶ単語”Galau”
クラスメイトとBakmie(肉そば)屋でランチを楽しんでいると、流行の音楽が流れてきました。
Bernadyaという20歳の女性シンガーの曲です。
わたしはすぐにGoogleで調べました。
曲の題名を英訳すると、Unfortunatelly, the life must go on.
”Bedroom pop"というジャンルに入るようです。
「ベッドルームポップって何?」と聞いたところ、そんな言葉は初めて聞いたと言いながらも、感覚は分かるということでした。
一人で寝室で泣いているイメージのとても悲しい曲だそうです。
「彼女の曲はすべてが悲しい曲だ。Galau(ガラウ)なんだ。」と若者言葉の新単語を教えてくれました。
Galauとはどういう意味か聞いたら、
「諦めて進むか、あきらめきれずに踏みとどまるか、決められずに迷っている気持ち」
とのことです。
彼女の曲はすべてGalauで、かつ失恋の曲なんだというのです。
この曲は失恋して明日の朝なんて来なければいいのにと悲しんでいるのに、やはり朝は来てしまう=the life must go on.なんだそうです。
わたしの中で、日本の演歌と結びつきました。
演歌の世界とは、わたしの定義ではぐずぐずしている世界で、やってはいけないと分かっているけれど、自分で止められない自己矛盾を抱えている世界です。
具体的には、「恋してはいけない人(既婚者)を好きになってしまった」みたいなやつです。
長崎の行こか戻ろか思案橋とか、スーダラ節「わかっちゃいるけどやめられない」とかもそうですね。
わたしはクラスメイトに説明しました。
「Galauの感情は日本には昔からある。歌にもなってきた。インドネシアでも伝統的にそうか?クロンチョンとかダンドゥットとか?」
すると、
「何言ってるの?Galauは若者世代の感情でとても新しいんだよ!クロンチョンやダンドゥットは楽しい気分の曲しかないし(失笑)」
というではないですか。
Galauの意味をGoogleで調べると、切ない気持ちとか、混乱して困惑している状態と出てきます。
なぜこんな根源的な気持ちの概念が今まで無かったのだろうか?
わたしは韓国ドラマの影響かもなと思いました。
韓国の恨(ハン)は、ねちねちぐずぐずしてますから、近いんじゃないかと。
クラスメイトは、そうかもね、でもよくわからないねという反応でした。
そうこうしているうちに、別のBernadyaの曲がかかりました。
Satu Bulan(日本語訳:1か月)という曲です。
みな「話してたらキター!」というノリでした。
わたしは人生の先輩として、Galauのときにどうするか聞かれました。
わたしにとっては簡単です。
常に新しい方に行きます。迷うくらいなら立ち止まる方は選ばない。
なんで?と聞かれました。
だって古いのと新しいのでは新しい方が価値が高いと思わないか?新しい世界を見ることができて、新しい経験を積めるんだよ!
理屈で片付けられない感情面はあるけれど、迷うくらい古いのと新しいのが同じレベルということでしょ。なら、新しい方が必ず価値が高いから、迷うことはない。簡単だと答えました。
Satu Bulanという曲は、歌詞の意味を聞くと付き合って1か月で男に新しい彼女ができた(と、いくつかの状況証拠から感じる)という歌詞です。
わたしは「このシチュエーションでは道はひとつ(古い道は閉ざされているから新しい道しかない)だからGalauじゃないでしょ」と主張しました。
すると、「いや、男が新しい彼女と別れてまた戻ってきてくれるんじゃないかという期待があるのだ」と言います。それもGalauなんだと。
なかなか複雑なようです。
まあ考えてみれば、それくらい複雑で深い感情を言語化しないとヒット曲にはならないですから、普通かもしれません。
インドネシアではどうやって流行歌が生まれるのか?
この20歳の女性がどうやってヒット曲を連発しているのか気になり聞いてみました。
すると、今のインドネシアでは3通りのルートでヒット曲が生まれるようです。
1つはSpotify(スポティファイ)、2つ目はYoutube、3つ目はTiktokの音楽に使われること。彼女はSpotifyでヒットしていて、インドネシアPopのヒット曲で上がってくるそうです。
わたしのジャカルタ駐在時代は、CDは基本的に海賊版でコピーし放題でしたが、CDが何枚売れたの世界だったと思います。映画やドラマのタイアップとかもあったかもしれません。
今はSpotifyからちゃんと著作権料が払われているみたいで、Youtubeも収入があるので、ミュージシャンたちの暮らしはだいぶよくなっているようです。
わたしの好きなDewa19というロックバンドは、30分の出演で500万円もらえると聞きました。
インドネシアの音楽マーケットはかなり巨大になってきているようです。
ちなみにSpotify派とYoutube派がいて、音を重視する人間ほどSpotifyを好む傾向があります。
しかも、結構な人数が有料会員になっています。
我が家は少額ですがSpotifyの株に投資していて、儲かっています。
妻が駐妻仲間からある時期立て続けにSpotifyの話を聞いたというのがきっかけです。彼女たちはマーケティング理論でいうアーリーアダプターなのでよく参考にしています。
わたしはアメリカにいたときにパンドラという似たサービスが気に入って使っていました。パンドラに比べると、Spotifyはわたしの音楽趣味の傾向をつかむのが下手だなと感じたのですが、ジャンルとしてはいいなと思ったので投資しました。
ただ、一時期もうこのビジネスモデルはダメだと言われ落ちていた時期もあります。2022年頃は、ビジネスモデル的に永遠に黒字化できないんじゃないかと言われていました。
それが急激に盛り返してきています。
今後が楽しみです。
ちなみに「ベッドルームポップ」とは、一人で寝室でめそめそしている音楽という意味ではありません。
調べたら、高価な録音器具のそろうスタジオではなく、自宅で録音する音楽のことをベッドルームポップというようです。
そういう意味では昔からあって、わたしの持っているジャズのアルバムでも、自宅にミュージシャンたちを招いてリビングで演奏したのがあります。わきあいあいとしたリラックス感があり、あたたかみのある音楽になります。
なので、ベッドルームで作曲したり録音するか?という若干の引っかかりはありますが、一人でひっそりやる感じを出したいのかもしれません。
おわり