組織のジレンマ 権限移譲ゆるめるか締めるか【続き】
ローカル化(現地化)という話をしたいと思います。
ローカル化(現地化)の定義
まずはじめにローカル化の定義をはっきりさせておかないといけません。
ローカル化とは、すべて現地の判断で経営を行う体制です。
株主は日本企業なので、株主としての議決権は日本にありますから、株主総会決議事項以外は現地で決めると言い換えてもいいかもしれません。
究極のローカル化は、現地の経営陣はすべてローカルになり、日本人はリソース的に弱いところ、例えば技術指導や、工程管理指導のようなポジションにアドバイザーとしてつきます。
アドバイザーなので指示系統ラインに入りません。
現地に派遣された日本人社長が、本社のコントロールを離れて好きに意思決定していく体制は、厳密にはローカル化とは言いません。
権限移譲されているとはいえ、社長は日本側から来ているからです。
ローカル化(現地化)を進めても必ず成功するわけではない
ローカル化を進めるのは、その方が現地法人の経営がうまくいき、収益により貢献すると思うからですよね。
企業は収益の最大化を目的にしているので、収益の拡大に結び付かないのであれば進める訳がありません。
(1)ローカル化のメリット
意思決定のスピードアップ
現地により対応した施策の実行
ローカル社員のモチベーションアップ
優秀な人材の確保
コスト削減(高い日本人駐在員の数が少なくなる。対日本対応の管理人材を置かなくてもよくなる)
(2)ローカル化のデメリット
グループ全体最適から外れる可能性
現地経営陣が暴走するリスク
現地法人の内部で何が起きているか分からなくなる
グループのリソースを活用できないリスク
わたしが読んだ興味深い論文の一つに、中国に進出した日系企業の生存率と、現地社長が中国人か日本人かの関連性を調べたものがあります。
一番生存率が高かったのは、設立時は中国人社長でスタートし、途中から日本から派遣された日本人社長に変わるパターンでした。
推測でしかないのですが、設立時に現地人を社長にする方がいいのは、許認可関連や地元との折衝が多いので中国語がわかったり共産党とのネットワークがある方が好ましいのでしょう。
ただ、事業が立ち上がったあとは、日本の親会社との連携を強くしたり、顧客が日本企業の場合も多いでしょうから、日本人社長の方がよいのでしょう。
これは業種も関係します。
業種による現地化の違い
現地化を進めるにあたり、まず日本本社のポリシー、考え方、理念を現地企業に落とし込むプロセスがあります。
このプロセスは、圧倒的に製造業が有利と言われています。論文も数多くあります。
80年代、90年代のジャパン・アズ・ナンバーワン、日の昇る国と言われた日本の時代、多くの研究がされました。
なぜアメリカは日本企業に勝てないのか、圧倒的な品質の高さとコストの安さはどこから来るのか、日本の文化や慣習にまで掘り下げた研究がされています。
この時代に世界を制覇したのは、家電業界と自動車業界です。比較的短い期間ですが半導体(メモリー、LSI、マイコン)でも世界を制覇しています。
日本の製造業は日本のやり方を世界中に移植しました。日米貿易の貿易黒字が問題になり、アメリカに工場をたてて現地生産しなければならなかったのです。
1985年のプラザ合意もこの流れです。
現地生産にあたり、最初はライン立ち上げの人員が大量に駐在または長期出張しますが、ラインが立ち上がると減り始め、駐在員率は低くなっていきます。
どの国だろうと、現地の教育レベルや技術習熟度の違いこそあれ、物を作ることは変わらないんです。
一番興味深いのは、トヨタとGMの合弁会社NUMMIの成功例です。カリフォルニア州フリーモントに1984年に設立され、GMがトヨタのやり方(カンバン方式)を勉強したいと考え、作られました。トヨタはアメリカのロジスティクス、販売をGMから学ぶ目的です。
この工場はうまくいかずにつぶれた工場を引き継いでいます。なので、うまくいかなかった従業員がそのまま働いているわけです。悪い文化がそのまま引き継がれています。
アメリカの自動車会社が日本に負けるのは、負の遺産が大きいからと言われていました。強い労働組合、その結果労務費が高くつくというわけです。
ところが、NUMMIはトヨタが入った結果、GMの全工場内でトップの生産性を誇る工場に生まれ変わってしまったんです。従業員はそのままです。ケースブックがあるのでわたしは読みましたが、従業員がトヨタの文化に触れ生き生きと働き、モチベーションが一気に上がったことが分かります。
一方でサービス業はとても難しい。
サービスは現地に合わせて変えていかないといけないですから、日本本社の理念をソフトだけで伝えないといけない難しさがあります。
わたしの若い頃、ユニクロや無印良品が海外に進出しては打ちのめされる結果になっていました。他にもドットコムバブルでお金を集めたIT系企業が海外に進出しては失敗するというのもよく見ました。
ユニクロと無印は今は大成功してますし、日本の外食産業もうまくいっている会社が多くなりました。
日本らしさ、日本文化といったソフトとともに、商品や店づくりの特徴を出せているのだろうと思います。
現場、現物があるのはやはり大きいですね。
IT系はやはり難しいままです。メルカリもいまだにアメリカ事業を黒字化できていません。
サービス業でうまくいくケースは、金融業、総合商社です。
彼らは自分の理念を移植するというよりは、うまくいっている事業をそのまま買い取って育てるという投資業の形態になっています。
グループの与信、信用力、グループ取引をうまく活用しながら伸ばしていくので、グループに入った会社は基本そのままの文化を継続し、足りなかった信用力やグループとしての総合力をうまく活用するというやり方になります。
昔の商社のスタイルは違いました。
わたしが就職活動をしていた30年前は、総合商社の主要な機能は営業に加え、在庫機能と与信機能の供与でした。
商社が商流に入ることで、在庫リスクを持ち、売掛金の供与と回収業務を行ってくれていたのです。この商流に入ることで口銭を抜くことが商社の主な収入源でした。
なので、当時商社はプロジェクトや出資に絡むとき、必ず商流でどれだけ抜けるのかを重視し、投資回収のキャッシュインに組み込んでいました。
そうするとどうなるかというと、利益相反が発生するんですね。
プロジェクト先、出資先から高い口銭を取れば、商社は儲かりますが相手の利益は減ります。
この利益相反のため、コントロールを強める方向にモチベーションが働きますから、現地化というよりいかに本社(本店)の利益に貢献させるかというのが駐在員の意識になります。
この現地と本社の利益相反が発生するという点は、現地化への障害になります。
駐在員は現地の利益を優先するか、本社の利益を優先するかの難しい立場に立たされ、日系企業の多くは現地よりも日本本社側をいつも見て、日本の利益を優先する傾向にありました。
これをエスノセントリック(Ethonocentric、Ethonocentrism)と言い、批判されてきました。日本企業に特有に見られる傾向です。
欧米諸国の駐在員は、現地企業に所属したら基本的に現地の利益最大化に貢献するのです。
ちなみに、日産や三菱自動車にはルノーからたくさん社員が来ていました。彼らは明確に日本側に立ち、ルノーと利益相反が発生する場合は徹底的に戦っていました。
わたしは論文を読みながら、確かにそうだなと実感しました。
今回はこの辺で。